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2021ベンチャーの新たな潮流を語る【東洋経済 Brand Lab Live すごいベンチャーNEXT】

こんにちは、東洋経済ブランドスタジオです。

2021年9月27日に開催された、イベント『東洋経済Brand Lab Live すごいベンチャーNEXT ウィズコロナに躍進 攻め続ける挑戦者たち』の内容を文字転載しました。

このエントリーでは、イベントのオープニング対談「2021ベンチャーの新たな潮流を語る」の内容をお伝えします。


登壇者は、一橋大学ビジネススクール 教授 楠木 健氏、シニフィアン株式会社共同代表 朝倉 祐介氏です。

●楠木 建氏:一橋大学ビジネススクール 教授
1989年一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。1992年一橋大学商学部専任講師。同大学同学部助教授、ボッコーニ大学経営大学院客員教授、 一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授を経て 2010年から現職。
●朝倉 祐介氏:シニフィアン株式会社共同代表
マッキンゼー・アンド・カンパニー入社を経て、ネイキッドテクノロジー代表に就任。ミクシィ社へ入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、シニフィアンを創業。

楠木:はい、皆さんこんにちは。楠木建です。平和にお過ごしでいらっしゃいますでしょうか? 僕は平和です。本日は朝倉さんに学ぼうということで、やってまいりました。よろしくお願いします。

朝倉:はい、こんにちは。朝倉と申します。シニフィアンという会社を運営しています。主にはですね、THE FUNDという、日本のレイトステージの会社さんを対象にしたファンド運営をしていまして、そういった会社さんに対してリスクマネーの提供と経営のお手伝いをすることによって、上場後も継続的な成長をできるようにお手伝いできればと思っております。今日はどうぞよろしくお願いいたします。

スタートアップとは何か

朝倉:スタートアップとは何かって、最近本当によく飛び交うようになって、僕自身もスタートアップやっていた10年前っていうのは、それこそスタートアップって言葉がなかったんですよね、日本で。

楠木:当時はベンチャーって呼んでいましたね。

朝倉:ベンチャー企業って呼んでいましたね。これが何か和製英語だっていうので実は海外ではスタートアップって呼ぶんだよっていうような話を。それがちょうど10年ぐらい前から出てきたように記憶をしているんですけども。
じゃあスタートアップって何なのかっていうと、結構人によって持たれるイメージって違って、いろんな人によって捉え方が違うのかなというふうには思うんですけれども。
僕自身はスタートアップっていうのは何かというと、未来の富を生み出すエンジンみたいなものだというふうに思っているんですね。
今って東洋経済さんなんかでもスタートアップの特集なんかが組まれるぐらい、いわば社会をあげてスタートアップを応援していこうというような機運が少し高まっているようには思うんですけれども、じゃあなんで世の中を巻き込んでそんなことをしていかなければいけないのかというと、スタートアップというのが将来において、大きな価値を生み出す原動力になる、起爆剤になる、そういった存在だからなんじゃないかなというふうには私は捉えています。

大企業とスタートアップの違いとは

楠木:全くおっしゃる通りで、別にスタートアップであるかどうかに関わらず、企業活動っていうか商売ごとってのは、リスクを伴う投資によって、何かの成果を引き出すということなんですけど。その程度が当然スタートアップといわれる企業は、より大きい。要するに、リスクがないところに、リターンはないので。そうした意味で未来の富を生み出す。皆が皆、成功するわけではもちろんないわけで。スタートアップがひとつの群というか集合として、未来の富を生み出すエンジンになっているということですよね。

朝倉:そうですね。いうなれば大きな組織っていうのは、どうしても色々なしがらみがあるじゃないですか。持っているアセットという意味でいうと、どう考えても優秀な方がいらして、キャッシュがあって、活かせる資材なんかを持っているのは、もちろん大企業の方がよほど有利なんですけれども。ただそれが上手く活かせてないところがある。
やはりいろんな今までの事業の歴史だとか、組織の歴史といったようなある種のしがらみがあって、本来活かせるはずのポテンシャルが活かしきれない。そこはむしろもうゼロから作ってしまったほうが早いんじゃないかというのが、スタートアップを後押ししていくことの意義なんじゃないかなと。

楠木:そうですね。つまり大きな会社とか歴史ある会社が劣っているということではなくて、目的が全然違うっていうことですよね。僕がわ割と好きな話で、昔の経営者でハロルド・ジェニーンっていうアメリカの当時ITTっていう、今と違って大きなコングロマリットがあったわけですけれども、それを何十年も経営していて非常に高い業績を上げていた大企業の経営者です。彼が会社の中でよく言っていたことで、「うちに起業家精神なんかいらない」と。「大企業も起業家精神を持て」とかいう人がいるんだけど、そんなものは詭弁で、そんなことやりたくないから皆こういう大きな会社でやっているじゃないかと。目的も、必要とされる能力も違う。だからこそ大企業にできないことを担う存在として、スタートアップがいる。考えてみると相互補完的な関係ですよね。

朝倉:例えばインフラの会社でものすごいベンチャー精神に溢れる会社って、怖くて使えないですよね。突然何か、今日はひょっとしたら空飛ぶかもしれない電車とか、そんな山手線嫌ですもんね(笑)。

日本のスタートアップの課題とは

朝倉:まさに一種の役割分担だよというような認識っていうのが、徐々にもう日本の社会にも浸透しつつあるのかなっていうふうに思うんですけれど。実際見てみると、過去10年振り返ってみると日本国内のベンチャー投資ですね、非常に増えてきているんですね。2010年当時の年間の日本国内におけるベンチャー投資額って700億円程度だったと言われているんですね。それがこのところ、過去2〜3年でいうともう5000億円超えているんじゃないかと、そうといった統計のデータも出ていまして。たかだか10年ちょっとで7倍だと。これは今他の業界では見られない現象なのかなというふうには思っています。

楠木:10年〜20年ぐらい前からそうなのかな、シリコンバレーというのを常に参照する。これをやめたほうがいいんじゃないかなと
本当によくできているエコシステムだとは思うんですよね。あれだけのお金も人も集まって、しかもものすごい労働の流動性で、あらゆるリソースが集まって、駄目になるとすぐ次に行って。よく出来ているんですけど、アメリカの中でもあんまりそういうとこってないわけです。だから日本から見て「皆シリコンバレーみたいになれ」とか「シリコンバレーがすごい」って言うんですけど、「じゃあシリコンバレーですごい経営が悪い会社って知っている?」って言ったら、知っている人ってそんなにいないと思うんですよ。
最高に当たっているやつだけ見て「すごいすごい」と言っているんですが、歴史も含めて一つの生態系として局所的にそういうものが生まれたというだけなんですね。

アメリカと比べると日本はまだいろんな意味でリソースが回ってないというのはあります。ベンチャーキャピタル投資のGDP比で見ると、日本は0.03%。ただ、アメリカもまだ0.4%なんですね。日本のGDP対比で防衛費って1%ありますよね。アメリカの国防予算でGDP比で多分3.2%ぐらいだと思うんですけど。アメリカGDP0.4%で世界最高水準っていうものなので、この10年で7倍に増えたとは言え、まだまだ可能性はあるのかなと思います。

むしろ僕はお金よりも人のほうが、ちょっとやっぱりまだ問題残ってるのかなって気もしますけど。朝倉さんはご自身でスタートアップをやったり、投資されたりしてるわけですけれど最近いかがですか?

朝倉:非常に優秀な人材が、どんどんスタートアップの世界に集まってきていると思います。それは起業する人という意味でもそうですし、そういったスタートアップに脇を固めるような役割として入ってくる人達も増えてきていると思います。

ただこれはやっぱり供給されるお金と人材のバランスで言うと、人の数っていうのがどうしてもお金に追いついていない。資金供給があるという点においては、これがある種の呼び水となって、優秀な人達が「ここにビジネスチャンスがあるかもしれない」と思って参入してくるきっかけにはなると思うんですけれども、この点をもう少し回していかなければいけないと思います。

シリコンバレーモデルは日本には適さない?

朝倉:先ほどのシリコンバレーの話に立ち戻らせていただくと、非常に古くて新しい議論だと思うんですよね。シリコンバレーっていうのは非常に参考になる地域ではあるんですけれども、世界中でじゃあシリコンバレーを再現しようとした試みをした結果、本当に上手くいったところって、一体どこがあるんだという話ですよね。

日本の未上場ないしは上場企業で非常に存在感を持っているカテゴリーのひとつにいわゆるSaaS(Software as a Service)があります。非常に成長の読みがしやすいこともあり、方法論が確立していることもあって評価されがちで、特に上場市場で顕著なんですね。SaaSってまさしくシリコンバレー型の象徴のような事業だと思うんですが、本当に日本でいいモデルなのかというと、私は若干クエスチョンのとこがあるんですね。

SaaSのプロダクト自体は、日本の非効率な労働生産性を改善する上で非常に意味があると思っています。ただ一方でなぜ日本においてこれだけSaaS事業がワークするのかというと、それは日本特有の複雑な商慣習だとか労働慣行例がある種参入障壁になって、海外企業から守られているような側面があるからなのです。

そのSaaS事業が日本の中でものすごく意義があって成長したとしても、そっくりそのままグローバルに持っていけるかっていうと、これは大いにクエスチョンになるんです。例えばアメリカの代表的なSaaS企業っていうのは、基本的にはアメリカの市場も大きいし、なおかつそれがそっくりそのまま海外に持って行こうということを前提にしてるわけですけれども、日本のSaaS企業っていうのは、結構な部分が日本特有だからこそ評価されていて成長しているって側面があると思うんです。

シリコンバレー的には、シングルプロダクトのSaaS事業を伸ばしていこうというのがより良いという考え方になるはずなんですけれども、僕はこれに若干クエスチョンなところがあって、本当に日本市場に根付いていこうと思うと、上場タイミングまでSaaS一辺倒でもいいのかもしれないけれども、本当は事業を実はコングロマリット化してくような業界にどっぷり根ざしていて、これは一見するとシングルプロダクトの様な分かりやすさはないし、投資家からも評価されづらいかもしれないけれども、こちらのほうが実は日本社会に根付いて成長する余地があるんじゃないかなっていうようなことはよく考えています。この点自体はシリコンバレーモデルが、本当に日本に適用可能なのかどうなのかという論点だと思うんですよね。

楠木:今の論点が本当に重要。例えばシリコンバレーだと向いているものっていうのはSaaSが典型ですけれども、基本的にはかなりピュアな情報サービスです。あまり複雑なオペレーションが必要にならない。GoogleとFacebookはシリコンバレー初だけれども、Amazonはシリコンバレーじゃないですよね。
Amazonはもうオペレーション、皆が走り回って汗かいてブン回してくっていう、そういうところから始まっているので。これはやはり一つのかなり間口が狭い生態系なんじゃないかと。

それともう一つは、プラットフォーム。グローバルですごい感じがするんですけれども、GAFAは売上が北米市場に偏っていますよね。確かにグローバルなんですけど、日本の村田製作所のほうがよっぽどグローバルです。売上の90%が国外市場ですし。ハードウェアとサービスの違いっていうのもあって、僕は結局あの手の事業は単に供給サイドで、お金が集まる人が集まるだけじゃなくて、やっぱり需要の構造が非常にアメリカンだと思うんですよ。SaaSの優れたスタートアップから今は大きな会社になっていますが、これはアメリカの企業における仕事のスタイル、実質的に皆フリーランスみたいな世界で強い需要があって出てくる。どうしてもその国の需要っていうのを反映していると思うんですよね。

例えば日本では、大きくなった会社だとメルカリはかなりピュアの情報サービスのプラットフォームなわけですけども。メルカリなりAmazonなりで、皆がその小口のダンボールに入った荷物を送りまくっていて、日本の貨物の総量って全然増えてないんですけど配達の件数っていうのが異常に増えてるわけですよね。昔は1000個入った荷物を大きな所から大きな所へ移してたのを、今全部1000個がダンボールに入って動いてるんで、近い将来物運べなくなるわけですよね。しかも働き手もいない。ダンボールでゴミが出る。今もう「玄関に置いておいてください」っていっても、1日一つのフロアに50人ぐらいのいろんな人がマンションに入って来て、なんか結構危ないよねとか。これって明らかな日本が今抱えてるリアルな問題だと思います。

僕は商売とは問題解決だと思うので、そういう日本の強い需要に対応して出てくるっていうことになると、割とシリコンバレー的なピュアな情報サービスよりも、オペレーションに踏み込んだものではないかと思います。ハードでもソフトでも。必ず需要を反映しているってのがやっぱりポイントで、ベンチャー育成っていうと投入要素、供給サイドで見るんですけれども、やっぱり需要も見た方がいいんじゃないかなっていうふうに思いますね。

面倒くさいオペレーションがある分野にチャンスあり!?

楠木:例えば中国のスタートアップは顔認証のようなテクノロジーがすごい進んでるんですけど。僕が北京大学に教えに行ってたときに、「すごい進んでるよね」って言ったら、彼らは「あんなの当たり前だ」と。「中国共産党がアナログで顔認識やってたときのコストを想像してみろと。中国ではこれものすごい強い需要があるんだよ」と。それはそういう局所的な事情があるわけですよね。日本だと例えば介護の問題とか当然需要が強い。AIをそういう方面に使っていくとか。こういうのが全部僕は需要サイドから見た時、その国のベンチャーの特性が出ると思うんですよね。

朝倉:日本では10年ぐらいの時間軸でいうと、だいぶ変化してきたところあります。例えば2010年代の前半のスタートアップの主軸は、コンシューマー向けのエンターテイメント、もっと言うとゲームだったんですね。これはいくつか理由があって、一つはスマホの爆発的普及に伴ってコンシューマー向けのサービスが先行したというところがある。加えて当時はガラケーもまだまだ残っていたこともあって、そこに日本独自のゲームプラットフォームが成立した。そこに非常にマネタイズしやすく、初期のコストもあまりかからないということで、新興の会社が多く立ち上がったというところがあったのかなと思います。

一方でこういったプレイヤーが、そっくりそのまま海外に展開できたのかというと、これは分が悪いところがあって。当時私は何かしらオフラインのオペレーションだとか、あるいはビジネス向けの要素とかいった、そういったところに着目したスタートアップが、もっともっと増えないけといけないようなということを、2013年〜2014年頃に思っていたんですね。

2012年当時の面白いなと思っていたのは、例えばSansanっていう会社さんですよね。あれは今は名刺を社内でネットワークを管理するっていうよう事業をなさってますけど、当時からその原型があって。あの会社さんが面白いのは、全て難しい漢字の識別が出来ない部分を大連で人力でやってたりとか、そういう泥臭いオペレーションをなさってたりしたわけですよ。これがやはり2010年代の後半になってくると、評価されて花開いていく。

今はスタートアップの主流っていうのは、どちらかというとSaaS型のソフトウェアで、大企業の課題を解決していこうってところが中心ではあると思うんですけども、今後の主流は、その後の参入障壁ってことを考えると、より面倒くさいオペレーションがあるところかなと思います。

社会問題をどう解決するかの視点が最も重要

楠木:Sansanなんていい例ですよね。名刺っていうコミュニケーションのツールっていうのがあれだけ日本であるからいうシステムが出てきて、それが今単に名刺に留まらず、いろいろなソリューションになってきている。
ネットプロテクションズも2015年ぐらいにすっごい面白いと思ったんですよ。後払いサービスです。日本の通販って、後払いを選択する人が文化的に多いわけですよね。後払いのオペレーションって、ものすごく大変なんですよ。ありとあらゆる伝票で、しかも与信っていうのができないんで。そのへんのオペレーションがすごいよく出来てて、それも日本の需要を捉えてかつゲームとかと比べると実際のリアルのオペレーションに踏み込んでいる。これがシリアスなスタートアップのいい例じゃないかと思うんですよね。

朝倉:そうですね。日本の文化に根付いているところがあるのかなと僕は思っていまして。「日本って別に皆銀行口座持っているし、そんなニーズあるの?」と普通だったら考えると思うんですよね。「クレジットカード持てない人ってそんなにいるんだっけ?」とか。海外だとそもそも銀行口座持てない人だとか、クレジットカードを持てないような人達に向けたサービスだったりするわけじゃないですか。日本は皆銀行口座持っているんだけど、心情的にはやっぱり現金で払うほうが満足するんだという。

楠木:物が来てから払いたいっていう。ある種の社会的な問題を解決してるんで、今おっしゃったように銀行口座を持てない人が多い国にそういうシステムに価値があったりとか。あとネットプロテクションズは台湾にも進出していると思うんですけど、やっぱりある程度似たような商習慣・商行動があるところに通用するとか。そうした意味でも、10年前のスタートアップよりかは、地域的な広がりも最近出てきているんじゃないかなというふうに思うんですよね。

朝倉:とはいえ10年前のそういったゲームなんかを提供してたようなプレイヤーの方々の中から、若くして経験を積んだ方の中から今そういったシリアスな事業の中核を担ってる方々が結構出てきたらっしゃるっていうのがまた一つ面白い現象なんですよね。

楠木:最近のやっぱりサステナビリティESGとかSDGsとか、そういう話をいってるんですけれども、昔から僕はやっぱりなんで商売になるのっていうと、何らかの問題解決をしてるからだと。これだけ今は社会的な問題が多く出てきてるところ、日本は人口は増えないけれども、問題解決のオポチュニティは多いわけですよね。

大企業とスタートアップの事業提携のポイントとは

朝倉:一時オープンイノベーションっていう言葉が非常に流行りました。大企業がスタートアップと手を携え、自分達の事業も新しくしていこうという動きは今でもありますが。一方で中々上手くいっているところってあんまり思い浮かばないんですよね。
ポイントとしては大企業さんがスタートアップだってなった瞬間、ものすごい若い会社ばっかりを見てしまうという問題があると思います。日本でスタートアップっていうと、未上場の会社っていうのが固定概念としてあるけども、マザーズ上場したぐらいの会社であったら、まだまだ成長機運のあるスタートアップなわけですよね。そういった会社のほうが体制も整っているし、会話もしやすいので、本来であればそういった方々とより手を携えていくべきなんじゃないかなと。間違っても若い会社さんを、自分たちの指導によって伸ばしていくみたいな、そんな考え方はやめられたほうがいいんじゃないかなって思っていますね

楠木:それはもう最悪ですよね。大企業が助けてあげるとか支援するとか、そういうのはほとんどうまくいかなくて。

僕が一番良い関係性だと思うのが、大企業がお客になることです。実際にサービスや商品かもしれないけれども、大企業が資本じゃなくて、実際に初期のお客さんとなって、そこでスタートアップの売上が立って、そこから関係ができてって将来はもしかしたら事業を一緒にやることあったとしても、まずは気前よく客になるっていうのは、大企業の正しい姿勢じゃないかなというふうに思っています。

スタートアップと投資家の方に対するメッセージ

楠木:スタートアップは、やっぱり上場が早すぎると思うんですよね。これまであまりにも小さな段階で上場しちゃって、その集まった資金を何に使うのかっていうと、顧客を増やすためのひたすらプロモーションとか。上場した後あんまり小さいと、まともな機関投資家から相手にされないですよね。市場での売買の流動性もないし。やっぱり今パッシブの投資がメインストリームなんで、きちんとその投資対象に入るためには、やっぱりある程度の規模が必要になると思うんですよね。ですから資本市場のほうから見ると僕はやっぱりもうちょっと大きくなってから、ガツンと。「どうしても上場してください」「仕方ねえなぁ」みたいな感じのほうがいいんじゃないかなと個人的には思ってます

朝倉:そうですね。上場時期っていうのは今、いろんな会社さん考え方が二分化しているところもあるのかなって思っていて。例えば去年のコロナ後、例えば春から夏にかけてピタッと上場が止まったタイミングなんかもあったじゃないですか。あれを見て、「やっぱりああいうときに上がっておかなきゃ」ってなっている方もいらっしゃいまして。これも確かに一つの考えなんですよね。
同時に、「いや、やはり今レイトでもだいぶ大きなお金が回るようになってきた。例えば海外からもお金入るようになってきた」こういったことを考えて、もう大きくするだけ大きくしていけるんだっていう考え方、こういうふうな二極化が今進んでいるのかなといったことは肌感をもって感じていることです。まあその上でスタートアップだとか投資家の、我々も投資家なので期待することも何も天に唾する感じですけど。

楠木:自分に期待することは何かって話になっちゃいますよね。

朝倉:日本のスタートアップを取り巻く環境って、非常に恩恵を受けていると思うんですよね。いろんな追い風が偶然も重なっていい状態になっている。これは本当に素晴らしいことだと思うんです。ポイントは何かというとこれ本当一過性のものにするのではなく、ちゃんと定着させていくこと。そのためには何が必要かというと、SONY・HONDAじゃないですけれども、こういった会社が日本から出てきて、日本のスタートアップがあって良かったっ思ってもらえるような会社をどれだけ生み出せるか。これに限ると思っているんですね。

楠木:確かにね。皆最初はスタートアップですもんね。

朝倉:ええ。やっぱり今って皆まだ半信半疑で見ているところがあると思うんですよ。実際過去10年ぐらい振り返ってみると、ほとんどのマザーズの会社の半分以上が上場時の初値を上回ってないんですね。ここやっぱりそこは上昇がピークになってしまうのか、そこから継続成長するのかっていったところでものすごい大きな差が出てしまう。
僕はやっぱり上場後もちゃんと継続成長する会社「ほらこんな会社がちゃんと日本からも生み出せましたよね」ということを証明することができて初めて、世の中から「あっ、スタートアップっていいよね」と認めてもらえるんじゃないかなというふうに思っていまして。
世の中から受け入れられないものっていうのは定着するわけありませんから。まずはそういった事例を少しでも多く、本当スタートアップの世界は皆仲間だと思っているので、事例作っていきましょうよという気持ちでいます。

楠木:同感でございます。

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