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スケールするSaaS系スタートアップ 産業変革に対して経営者のあるべき姿とは 【東洋経済 Brand Lab Live すごいベンチャーNEXT協賛対談③】

こんにちは、東洋経済ブランドスタジオです。

2021年9月27日に開催された、イベント『東洋経済Brand Lab Live すごいベンチャーNEXT ウィズコロナに躍進 攻め続ける挑戦者たち』の内容を文字転載しました。

このエントリーでは、イベントの協賛対談その3「スケールするSaaS系スタートアップ 産業変革に対して経営者のあるべき姿とは」の内容をお伝えします。

登壇者は、アセットマネジメントOne株式会社 運用本部 株式運用グループ ファンドマネジャー 岩谷 渉平 氏、株式会社プレイド 代表取締役CEO 倉橋 健太 氏です。

岩谷 渉平 氏:「DIAM新興市場日本株ファンド」「厳選ジャパン」「DIAM成長株オープン」など、中小型株・新興株を中心とした日本株投信の運用を担う。
倉橋 健太 氏:新卒で楽天株式会社に入社。2011年に株式会社プレイドを創業。2015年にCX(顧客体験)のプラットフォーム「KARTE」をリリース、幅広い業種で導入企業を増やす。2020年東証マザーズ上場。


倉橋:株式会社プレイドの倉橋です。弊社は、2011年10月に創業いたしまして、そこから今ちょうど9期目の最終月に入ってるタイミングです。メインではKARTEというクラウドのソフトウェア、最近だとSaaSといわれるようなプロダクトを提供しております。
昨今ですね、企業活動はかなりインターネットを活用した時代にシフトしてきているんですが、企業もしくはサービスとユーザーの接点って、インターネット上でもオフラインも含めて、非常に多様化してると思うんですよね。それぞれの接点から得られるカスタマーデータ、これを企業が扱いやすく様々な形で利用できるような、そういうソフトウェアをクラウドで提供しています。本日はよろしくお願いいたします。

岩谷:アセットマネジメントONEの岩谷と申します。上場株のベンチャー企業投資中心に、中小型成長株を10年強やってきています。始めた時期は、サブプライムショックでマーケットが崩れていた頃で、マザーズ市場の信認が特になかった。そこで成功事例を作る必要があると思い、マザーズ市場を中心に、投資をするような仕事をやってきてます。
その後2011年に震災があったり、今回はコロナのパンデミックがあったりと、毎回その都度都度向かい風があるわけですけど、その中でもきちっと上場ベンチャーが育ってきていった。これから先に向けても、期待できるなというふうに思ってます。今日はよろしくお願いします。

コロナ禍で起きた変化は、今後どうなっていくのか

倉橋:始めに、ちょうど日本でも1年半ほど前から、いわゆるコロナの渦中に入ってきていて、企業活動がかなり大きな変化を切ってると思います。その中で例えばDXだったりだとか、様々なカテゴリーにおけるSaaSであったりだとか、そういう注目が極めて加速している状況だと思うんです。ただ、別にコロナだからではなく、起きるべきことが前倒しになっただけ。そんな感覚を僕は持ってたりするんですけども。これまでロングタームで投資されてきて、今の市場ってどのように見られていますか。

岩谷:産業もですが、あらゆる組織もアップデートって必要だと思ってて、それがたまに大きく動く時がある。今回はそれに当たってると思います。

倉橋:今、我々もいわゆるこのSaaS、我々の場合だとデータとマーケティングって領域でこれまで事業をしてるんですけども、本当にいろいろなカテゴリーで、業界でいわゆるVarticalSaaSとかいろいろな呼ばれ方がありますけども、今ものすごく盛り上がってサービスが生まれています。ここから先、この変化はどうなっていくと想像されていますか?

岩谷:マーク・アンドリーセン(アメリカのソフトウェア開発者・投資家。ウェブブラウザNetscape Navigatorの開発者)の論説"Software is eating the world"が出てからちょうど10年ですよね。ちょうどそこで議論してたところから見ても、オンラインで「来てるな」と思いますね。ちょうどコンピューティングの産業が勃興して70年、マイクロプロセッサが出て40年。それからインターネットの商業化から30年。このくらいの歴史の中で、ここ10年くらいのところでようやく、それがモバイルだったりIoTだったり、いろんな端末で、実際にそれが実装されてきたと思います。
そういう歴史からすると、ちょうど始まったところくらいじゃないかなと思います。もっと長くとると人類の歴史とか、人間の社会・経済の歴史とかの中から見ると全然小さな変化に過ぎないというふうに思います。
だけど、人間の暮らし方と何億年もかけて作ってきた身体と、その変化のスピードが上手く合わないところに、非常にチャンスがあるなと感じてます。

倉橋:いろいろなところで変化が起きるのは良いものの、早く変化させようとし過ぎているとか、そういった側面も少し気にはなります。結局始まらなかったものとかもあるじゃないですか。その辺りがテクノロジーの面白さでもあり、読みづらさでもあると思ったりしますよね。

岩谷:過去の投資の中で、リターンを大きくできたものや投資先として大きくスケールしたもので見ると、深刻で大きな深い課題を設定した会社が多かったと思います。課題の解消を現実に実践してきた会社のほうが、20年タームで大きくなったなって思います。それってインターネットの歴史とちょうど同期するので、合うんだと思います。

岩谷氏はどのように投資先を選んでいるのか

倉橋:以前、岩谷さんの記事を見て、それこそ投資をされてきて、当時エムスリーさんの話がそこで例に上がってた。そこの見極めというか、企業とオポチュニティをどういう視点から見られてるのかなって。

岩谷:革新的なことが起きるべきだという感覚を先に持ってます。そのときに逆算すると、このぐらいのリターンになるんじゃなかいかという仮説で、外れても構わないと思ってまして。やり方が変わるなんてことは、いっぱいあるんですけども、そのテーマが起きるべきだと思うっていうことでした。

倉橋:個人としてそう思えるかどうかみたいなことですか?

岩谷:それが合っていたかはパフォーマンスで計測すればいいということで、マーケットにパフォーマンスを委ねています。エムスリーの谷村さんのケースで行くと、コンサル時代の彼の手がけてた仕事とかテーマっていうのが、医療・製薬・ヘルスケア業界のテクノロジーを謳ってた。
それは自分でやったほうが早いし正しいんじゃないかということで、スタートされたと思うんですよね。それ自体は、そんなに難しいアイデアではない。ポイントは言行一致。それを20年間やりきるっていうことの尊さみたいなものは見てますね。成果が出た瞬間ってすごく少ないと思うんですよ、20年の中で。しかし取り組んでいる時間は長い。

倉橋:企業家側も胆力がものすごい求められる。でも、結局それは投資家さんも一緒だってことですよね。

岩谷:そうですね。事業の作り方と、設定したテーマの進捗と仕事の進捗と、あと投資テーマが全部同期してると、とても良い投資だと自分では感じてますね。

経営テーマを維持して進めていくことの難しさ

倉橋:コロナ禍以前から、日本に比べて海外はもっと先行してる技術があったので、前倒しで追いつくチャンスって捉え方もあるんですけど、それらの変化に共通している根深い課題を選択する企業っていうのが、特に日本に関しては少ないのかなって。そこを少し危惧する部分があります。
岩谷さんは日本のこの市場感って、どう見られてますか。

岩谷:倉橋さんとの上場前後のディスカッションの中で語ったのが、「設定してるテーマが大きくて深いものをロングタームでやっていく」っていう決意を感じさせるものでしたね。ですが、途中でいろんな制約があるんじゃないかなと思います。PL(損益計算書)をこんな形で、このぐらいのリスクを抑えた格好でやらないと認めませんよとか。そこに妥協すると小さい成果で終わってしまう。この分岐点ってすごく大きいと思います。

倉橋:確かに。制約って、どんどん変わっていく。だからこそあまり付き合っちゃいけないって思う部分もあって。進むべき方向は変わらないんだけど、途中途中で何かゲームルールっぽいものが付与されてくるんだけど、それをいかにブレずに貫けるかが、僕らもすごく自分達に問うところだったりしますね。

岩谷:どこで胆力というか、貫くことが大事だなと気付いたんですか?

倉橋:創業以降っていろんなイベントがあるじゃないですか。いい意味で次に繋がっていくイベントって、貫いたときなんですよね。で、貫くときって、大体難しいほうの選択肢だったりするんですけど、それを突破できると明らかにもう一巡、いい回転になっていくっていう。そこの体感が積み重ねで自分の中ではあって。

岩谷:その都度、組織のカルチャーとか、スタンダードって目線が上がってきてるんですか?

倉橋:上がりますね。誠実に社員に向き合うと、絶対に応えてくれます。一発の説明で全員が分かるってことはないですけど。繰り返し言ってると、確実に浸透してくる。社員の今の状態が個々人によって違うけど、彼らに合わせない。制約にも気を使わない。ここはもう一貫していますね。

岩谷:僕の感覚で、事業成長のためには関係ないものは排除する、そこのスタンダードは厳しいと思うんです。そこは徹底してますよね?

倉橋:そうですね。例えば売上を作るためだったらいくらでも手段はある。でも続かないですよね。「自分たちはこの課題を解く」って決めたらそこからぶれない。妥協すると何か自分たちが失われる気がして。先ほど話にあがったエムスリーさんも、多分当初想定されてたよりも相当、事業範囲も含めて大きくなられていますが、おそらくコアはあるんだろうなと推察しています。

部分最適をしながら大きなテーマに取り組む

岩谷:(プレイドは)大きなテクノロジーのテーマに、ロングタームで取り組んできた感覚を持っていまして。日本でもテクノロジードリブンで、そういう本質に長い投資を仕掛ける会社が増えるといいなとは思ってます。そこはKARTEとかのパフォーマンスをすごい期待しています。

倉橋:日本の場合まだ、テクノロジーをあまり疑わず、何か事を簡単にしてくれるようなところから選ぶことが、すごく多いような気がしていて。ある種マーケットとか、それこそ冒頭のDXとか、そういったものが本格的に始まっていないがゆえの、ある種の市場的な未熟さなのかもしれない。そこは機会でもあるし、大きな課題でもある。

岩谷:金融やってますと、基幹システムのあの重厚な…お城の。

倉橋:城ですよね。あはは(笑)

岩谷:迷子になるかもしれないような非常に重厚なお城になっていますと。これを外から鉄砲か何かで攻略するのは現実に難しい。だけど局地戦で威力を発揮しているのを見てます。基幹システムを見て、担ってる人達もそれを感じているから、(新しい動きは)始まってるなっていうのは思ってますね。
例えば、新しいプロダクトを作ってみよう。新しい事業を作ってみよう。何してもそこのエッジの部分では、非常にパフォーマンスがいいっていうのが見えているから、それをやってサプライする側も、そこで満足しないで、本丸まで行くんだっていうことなんじゃないですかね。

倉橋:そうですよね。まだアーリーフェーズだからこそ、大きな課題、本当の課題は小さなのサイズだったときに、部分部分に対していろいろなプロダクトが…

岩谷:くっついて(笑)

倉橋:ソリューションが提供されていて、部分的には良くなるけど、全体は全然良くなってないみたいな。僕らも事業ををやっていく上で、ある一点を良くするのはそんな難しくないんですけど、その一点を良くすると周りが良くなって、最終的に大きな課題の解決に繋がるかどうかってのは、すごく難しいけども、やりがいみたいなところがあって。ただ、やってないことを全部、対外的に発信するのって、難しい部分もあるので。創業当初、プロダクトリース当初から、そうじゃないところに足は常にあるんですけども。コミュニケーションを取りながら信頼を得ることは時間がかかるので、長い期間かけて取り組むのは圧倒的に正しいなと思います。

岩谷:決算の説明とかでも、そこすごく大事にされているのは見えてます。プロダクト製品をヒストリーで見せたり、少し先のテーマの説明を入れて。それが3ヶ月後、6ヶ月後、9ヶ月後に、これでしたよっていうことを納得させていく。あそこがノーススター(北極星)ですよ、あれがお城ですよっていうのを示せている。だから結構楽しみで、すごく面白いです。

倉橋:プライベートとパブリック、上場してからで一番違うのって、いわゆるステークホルダーの前提がものすごく異なる。少数のステークホルダーと密にコミュニケーションすれば良かった時代が終わり、大人数のステークホルダーと圧倒的に多様な中で対話をしていく必要がある。入れ替わりもするし。その場合に「何を目指すのか」を発信しておかないと、世の中が僕らに期待することと僕らの意図とずれていく気がしていて。伝わらない部分もありますが、1ミリでも伝わるように修正していく。そんな繰り返しが重要だなっていうのは、もう上場初年度から感じてたことですね。

ゼロをプラスに持っていく価値提供っていうのもあります。正直、テクノロジーとかSaaSとかって、マイナスからゼロの世界に対しては、説明コストがすごく低いし、ビジネスとして成立しやすいんですが、一方でゼロからプラスのほうって、放っておいても市場にならない。でもそれがないと、夢見て生きてはいけないというか。そっち側に僕らはテクノロジーを持ち込みたい。感情を揺さぶるような事業をやって、総合的に良くしていきたい。これだけ価値が溢れると多分、そちら側のほうに世の中で求められる価値が動いてくるんじゃないかな。
だからいつも思ってるのは、一言で説明できたらめちゃめちゃいいなと思うんですけど、プラスのほうの大きな変化は、シンプルには説明できない。そもそも複雑なもんだという思いを抱えながら事業をやってますね。

岩谷:確かに、日本の社会課題解決みたいな話でいくと、あれは負を解消するのが目標になっていることが多い。
本来やってる人達は二分されてると思ってて。そこが上限な人、受験だったら合格すれば良いと、終わりみたいな目標になっているのか。いや、いい人間を育てようと思ってて、それの一合目なんだっていう話になっているのか。それはそれぞれ二分されてると思います。そこはカルチャーだったりビジョンの話だなとよく思います。
あと、言行一致ってすごい難しいなと思ってて。だからそこを徹底できるだけで、結構やりきったほうにいけると思います。短期的に小さな業績を作れるものと、中長期で時間をかけないといけないものっていうのは、どうやってさばいてるんですか?

倉橋:これはすごい難しくて。前提として会社が成長して変化していく中で、そのバランスをどうやって作っていくか。
例えば中長期的な視点の取り組みがゼロになると、それこそ中長期的な成長が飽和状態になるので、意識がどんどん現実に引っ張られるのは当然だと思います。
だけど未来のことばっかりやってたら、成長は再現性がなかなか作れないという課題もあるので。基本的には僕らは両輪だなと思ってますね。
KARTEに関していうと、プロダクト全体観に反映されてることですが、今の課題を解くためにプロダクトを作らない。
KARTEはデータとカスタマーデータとマーケティングユースを組み合わせているんですけど、アプリケーションを付け替えたら、データを違う価値に転用できる。広告や経営、カスタマーデータなどいろんなテーマがあるので、これワンプロダクトでそもそも解決できないんですよね。けど、データっていうのは共通の変数じゃないですか。だから僕らはどのアプローチからでも、共通のアセットが貯まるような設計にしている。一つのアプリケーションを使い始めると、データももちろん、有益なデータをしっかりと蓄積して、企業がパフォーマンスを上げられるようにする。いろいろなアプリケーションに展開できるようにする。
当然未来を見据えながらやっていますが、足元だとコンバージョンレートが1%が上がるとか。そこをどのプロダクトよりも精度高く実現できるように現実にも作る。両方応えられるプロダクトを、どう生み出すかみたいなのは、こだわってるところですね。

岩谷:どっちかに振り切っちゃったほうが成長しやすいとか、目的を遂げやすいとかってのはあるものですか。

倉橋:短期成長は絶対現実に打ったほうがいいですね。なぜならそれを言葉として理解してくれる。たくさんの人にも伝わりやすい。
もう一つ、やってる間に会社って成長するじゃないですか。お客さんも増えるし、社員も増えるし、全体が変わっていく。そうすると未来を生み出すパワーっていうのは、バランスとしては絶対負けてしまう。

僕らのアイデンティティが出来るまでは、絶対未来の話からしかしない。プロダクトも採用も含めて絶対こっちからしないっていうことをやり続けてきて今、色濃く作れてきてるので、じゃあ現実は圧倒的に応えようかっていうのが今。

岩谷:一人一人の人間がそういう塩梅が分かっているんですか?

倉橋:これはかなり違います。どちらのほうがモチベーション高く動けるかは人によって違う。目の前の方に喜んでもらうことが最大限モチベーションになる人も居るし、まだ誰も見つけられていないものを見つけてそれが価値として受け入れられる瞬間にものすごく興奮する人間も居る。この人達が常に両方生きてる組織を作りたいです。

岩谷:倉橋さんはそっち寄りですか?

倉橋:僕は、なんとなく答えが見えるとやりたくなくなるんです。表現としてよくないですけど。やりきるんですけど、答えが見えてきたら、さらに遠いところに理想を立て続けたい性格です。
僕らは2011年創業で、KARTEをリリースしたのが2015年なんですけど、「現実側」でずっと走ってきたんですね。KARTE出して初期Web接客ってコンセプトであって。分かりやすいんですよ。オンライン上で接客してコンバージョンを上げるんだと。
既存の主張もそこに乗ってきていて、それはいいことなんですけども。そこでプロダクトとか組織とかアイデンティティができちゃうと、最初は伸びるんですけど、その後止まるんですよね。何より理想を掲げないと、本当に優秀な人が多様な状態で、プレイドを選んでくれない。

岩谷:会社の若さ、それが止まると老化するんでしょうね。

倉橋:老化すると思います。止まることがものすごく怖いわけです。だから取れるリスクは絶対取る。

岩谷:実績が積み重なってくると、その仕事もやりやすくもなるし、より大胆にもなれますよね。

より大きな社会課題解決のための打ち手

岩谷:IPOをした後に、この会社はどうなっていくのかなっていう疑問は持っていて。このへんでそろそろ打ち手が変わってくるんじゃないかなって思ってたところに、STUDIO ZEROの話が出てきた。これはどういう考え方なんでしょうか?

倉橋:自分達が描いてたことでもあるんですが、データとマーケティングっていうスコープで、事業をどんどんやってきて、これがベースのブランディングになってるんですけど。データって結構いろんな可能性があって、企業活動の中心にカスタマーデータというのが置かれる構造に、基本的にはなると思ってるんですね。
ただ今、自分達が実際に提供している価値以上のイシューに、なかなかデータの価値がならないわけですよ。じゃあ「マーケティングのところで上手く使えてるね」が、「じゃあ企業として使おう」とならない。

プロダクトだけで解けるシンプルな課題ではないので、人も頭もある種、総動員して、パートナー企業と共に理想という実態を作りに行く。僕らはこれをSTUDIO ZEROと呼んでいます。大きな変化はそんなにシンプルじゃなくて、ものすごく複雑なものだと思っています。そこに本腰入れて取り組むべきタイミングが来たかなと考えています。

岩谷:産業を主語に、企業を主語に切り替えて、描き直してみようっていうことですか?

倉橋:そうですね。あえて産業って言ってるところは、消費者視点、生活者視点にも立ち返りたくて。生活者からすると、企業にこうなって欲しいっていう意志ってほとんどないんですよね。企業とともに動かないと誰かの都合が入る。価値は生活者に届いてこそ価値なので、だったら生活者の視点から作る。それを分かりやすく表現するために、産業っていうのを頭に立てている。

岩谷:なるほど。それで、1940年の体制とか1955年の体制は、ある大きなグランドデザインがあって、その中でピースを埋めてったわけですよね。当時のテクノロジーと、今の使える道具は全然違うから、作り直したらいいんじゃないかって思いますね。

倉橋:今のDXで、何かプロダクトをその構造の中にポンって入れたら、すごく全体良くなるんじゃないかという幻想を抱きがちなんですけど、その構造は数十年かけて作られてきてるものじゃないですか。上手くいくわけないんですよ。だから、最終的にその価値を受け取る人から作り直すってのが、一番正しいんじゃないかなって思います。

岩谷:そうですね。でも市場原理で既存の産業のほうも、生き残る城もあるし、本当に崩壊する城もあると思うんですよね。自分が滅ぼされないように頑張らないととは思います。

倉橋:前提としてもほとんどの業界で価値が飽和してるっていう観点からすると、価値はたくさんいらない。ユーザーからすると選ぶコストのほうが高くなってる現状があるので。おっしゃるように、その崩壊する城は出てくるというのは間違いなくそうだと思っていて。そこには強烈な意志や何かがないとなかなかことは動き始めないのかなと思います。
もしかしたらそれが日本と海外、特に北米の市場構造、競争原理の一番大きな違いのポイントなのかなと思いますよね。

岩谷:こういう話は次世代を切り開く話だと思っているんで、僕も非常に体にズシッと入りました。自分としても、自分が所属してるインダストリーとかマーケットっていうのも、すごい課題がいっぱいあって、老朽化している場所もある。それを自分事として、直していきたいなと思ってますし、それの仲間達をエンパワーできるように頑張りたいなと思いました。

倉橋:創業してからプロダクト事業を進めれば進めるほど、目の前で具体的に見える課題、機会が、どんどん大きく遠いものに変わっています。
端的にいうと、自分達がやらなかったら多分やる会社がない。どうせだったら想像できる一番大きな課題を解きたいってのが、プレイドの想いだったりするので。僕らは難しくて成功確率も低いかもしれないけど、そういう課題に真剣に取り組んでいきたいと思っています。
ぜひ岩谷さんを始めとした投資家の皆さんには、世の中にとって本当に意味がある変化、チャレンジを支援いただきたいと思うし、少しでもそういう野心的な、ある意味で貪欲なスタートアップが日本に圧倒的に増えることを祈りながら、僕らも努力し続けたいと思っています。
本日はありがとうございました。

株式会社プレイド

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