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「働きすぎる種」ホモ・サピエンスはどうやって誕生したのか? 『働き方全史』

今回は、『働き方全史』をピックアップします。

私たちは今、デジタル、生物学、 物理学の技術が融合して生まれた、第四次産業革命の真っただ中にいます。これまでテクノロジーとは無縁だった職業に就いていた人にとっても、「自分の仕事をロボットに奪われたら、どうすればいいのか」という危機感が、これまでになく身近なものになってきています。
でも、いったいなぜAI時代になってまで、私たちは「働くこと」にこだわるのでしょうか。「働かない」ことは悪いことなのでしょうか。
ケンブリッジ大学の社会人類学者が「働き方」をキーワードに、現代を「人類史上2度目の大革命期」と定義しながら、人類史を読み解いていきます。

仕事と人間の歴史的関係を解き明かす!

本書では、最新の経済学、社会人類学、物理学、進化生物学、動物学などの幅広い知見をもとに、「人と仕事」の関係について、今までにない視点から解き明かしていきます。

最大の特徴は、社会人類学の視点を導入している点です。
狩猟採集生活をしていた私たちの祖先がどのように暮らし、働いていたかを教えてくれる貴重な資料ーー石の破片、岩絵、骨の破片ーーに命を吹き込むには、社会人類学的研究に頼るしかありません。
たとえば、人間と機械の関係が、大昔の農民と荷車を引くウマやウシやその他の動物との関係と、どのくらい共通点があるのか。また、自動化に対する人間の不安が、奴隷制度のある社会に住む人々が感じていた不安と、どのように似ているのか。その理由も明らかにしてくれます。

現代を生きる私たちと、狩猟採集民族の祖先たちとの共通点を引き出しながら、現代特有の課題だと捉えられがちなものの根底にある、問題の本質を考えることができます

週に15時間だけ働き、幸せに生きる人々

働くことの意義を考えさせられるエピソードとして、本書で度々登場する、アフリカ南部カラハリ地方の「ジュホアン」という採集民族を紹介します。

皆さんは、「狩猟採集民族」についてどのようなイメージを持っているでしょうか?日々の食糧を確保するのに一苦労で、「常に飢餓と紙一重の状態にいる、貧しかった民族」と思っている方も多いのではないでしょうか

実際の彼らは、物質的な困窮や果てしない闘争に耐える生活をしていたわけではありませんでした。週に15時間を超えて働くことはあまりなく、ほとんどの時間を休息と娯楽に費やしていたのです。
それは、必要以上に食糧を蓄えることもなく、富や地位を築くことにも関心がなく、短期的な物質的欲求を満たすためだけに働いていたからだといえます。

狩猟採集民が他の人々よりはるかに多くの自由な時間を持っていたのは、物質的な必要が満たされていた以上に、わずらわしい欲望に振り回されることがなかったためです。狩猟採集民は、多くを望まないことで欲望の奴隷になることなく、彼らなりの豊かさを手に入れていました

一方、現代のウォールストリートの銀行家たちはどうでしょう。
彼らよりも多くの不動産や船舶、車、時計などを所有しながらも、それに満足できず、さらに多くを手に入れようと常に苦闘しているのです。

歴史を学び、未来への指針にする

狩猟採集民はその場のニーズを満たすため、農民は翌年までの生活を維持するために労働力を投入していました。しかし、現在の私たちは、もっと長いスパンで、自分がしている仕事の可能性を考えなければならなくなってきています
採集民の約250倍のエネルギーを獲得し、消費している私たちは、これからの未来をうまく進んでいくために、想像力、寛容性に加え、生活態度や価値観について、歴史的に前例がないレベルでの変革が求められるでしょう。

本書を通じて、「人と仕事」の歴史や仕事の意義について、新たな視点から学び、今後について考えるきっかけにしてみませんか?


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