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【第34話】ジャンボフェリーでゆく、真冬の小豆島 その③

こんにちは。
2月に小豆島をサイクリングしたときのお話です。前回は小豆島坂手港から海岸線を走り、エンジェルロードのある島西部の土庄港へとやって来ました。今回はその続き、いよいよ最難関・寒霞渓スカイラインを登ります。

どんな景色が待っているのでしょうか…。

▼前回のお話はコチラ▼

一番あってはならない事が起きる

土庄町を出発し、県道26号を北上。のどかな里山を過ぎると次第に斜度はアップし、登坂車線のある本格的な上り坂へと変わっていく。気温こそ低かったものの、12時を過ぎた頃には青空が広がり、登りのおかげで体はだいぶ温まっていた。路肩に自転車を停め、肩にぶら下げていた一眼カメラをサドルの上に置き、ウインドブレーカー代わりに着ていたカッパを脱いだ。脱いだカッパを袋にしまおうとして、自転車に肘でもぶつけたのだろうか。目の前で自転車がガチャンと倒れる。カメラがアスファルトに転がる。慌てて拾い上げ、動作を確認する。スイッチをONにするが、何度もON/OFFを切り替えてみるが、悲しいことに再びカメラが目を覚ますことはなかった。2年と2ヶ月、寝食を共にしたミラーレス一眼カメラは小豆島で深い眠りについた。しばらく立ち直れなかった。なぜサドルの上になど置いたのだろう。いや、それよりもこの後はどうやって写真を記録しよう。予備のコンデジはない。ポケットに手を入れる。そうか、スマホがいた。iPhoneSEの出番だ

この上り坂で悲劇は起きた
結構な坂を登り切ると、そこには海が広がっていた

真冬の小豆島、頂上を目指して

町からおよそ160mアップ、ここから右方向へ分岐する道へと曲がる。県道27号、その名は寒霞渓スカイラインだ。しばらくは見通しの悪い森を延々と登っていく。途中からは視界が晴れ、特に二連続のヘアピンカーブからの景色は格別だった。性能の悪いiPhoneSEのカメラで何とか綺麗に写そうと、しばらく奮闘していた。まあ、あとは加工の力でなんとかしよう。さて、このヘアピンカーブを過ぎてから展望台までの約4㎞の道のりが、なんと500mアップ。平均斜度12.5%の上り坂が容赦なく体力を奪っていく。あっという間に600m、700mと標高は上がっていく。それに合わせて空は雲に覆われていき、気温はどんどん下がっていった。そして驚くことに路肩には積雪が見られた。瀬戸内の島では相当珍しいのではないだろうか。道の両サイドには雪原が広がっていた。かなり寒い。凍てつく寒さだった。頂上付近に差し掛かったところで雪が舞い始めた。真冬の小豆島だ。

ヘアピンカーブからの眺望。瀬戸内海や岡山方面を一望できる
寒霞渓スカイラインを走っていると、沢の水が凍結した氷柱を見ることができた
深い森には雪が積もっていた

四方指展望台からの寒霞渓

寒さもそうだが、もう一つのものと闘っていた。便意だ。山を登ってる途中でウ◯チがしたくなった。それも猛烈にだ。サドルに跨った姿勢が幸いにも蓋の代わりになっていたが、降りたらどうなってしまうことだろうか。一刻も早くトイレに行きたい。できれば綺麗な。四方指展望台という名所があった。展望台ということでトイレの一つや二つあるだろう。なかった。絶望だ。しかしこの展望台は小豆島唯一の高原で、寒霞渓スカイライン随一の展望スポットだそうだ。立ち寄らない訳にはいかない。コンクリート製の展望台の階段を、内股になりながら、慎重に、一歩一歩丁寧に登る。その眺めは素晴らしかった。360度いっさい視界を遮るもののない、大パノラマが待っていた。ここから目的地の寒霞渓までは約3.5㎞、ありがたいことに下り坂だった。ついに看板が見えた。最後に少し上り坂がある。もうひとふんばりだ。いや、ふんばってはいけない。寒霞渓にはロープウェイが走っていたり飲食店があったりと、かなりしっかりした観光地になっている、広い駐車場の一角に公衆トイレを発見した。このトイレは通称一億円トイレと呼ばれ、30年も前になるが、ウォシュレットや空調など当時としては最先端の設備が搭載されたそうだ。今や当たり前になってしまったが、それでも綺麗に管理され、観光地の割には非常にクオリティーの高いトイレに仕上がっていた。

四方指展望台の塔は無骨なコンクリートの躯体。お尻を押さえながら階段を登る
朝船で到着した坂手港を遥か遠くに望む。この後また走って戻らなくてはならない
粉雪を顔面に受けながら寒霞渓スカイラインを進む
肝心の寒霞渓はというと、天気のせいで微妙な眺めであった。

ジャンボフェリー乗船、ふたたび神戸へ

帰りの船は坂手港を17時45分に出る。今は15時。まだまだ余裕だ。18㎞の距離だが700m以上も標高ダウンするので、ほぼ下り坂。時間を持て余したので、途中で物産館に立ち寄り、醤油ソフトを味わったりした。そうして無事にフェリーに乗船し、再び神戸の街へと向かったのであった。船に揺られながら、島でのことを振り返る。エンジェルロードは満潮で見られず、山登りの途中で一眼カメラをぶっ壊し、雪に降られ便意に襲われ……。珍事ばかり起きたな。満足度としては低いが、初めての本格的な小豆島旅としては及第点だろう。まあ、また来よう。そんな感じで自分を納得させた。神戸港に着いたのは夜の21時過ぎ。新幹線は最終が出てしまったので、神戸の街で一泊……の予定が、財布の残金が数百円、おまけに銀行ATMはメンテナンスで出金できず、夜の街を孤独に彷徨うことになったのでした………。

坂手港からほど近い、タケサン記念館 一徳庵で休憩。醤油みたらしソフトクリームは300円
港には夕日が降り注ぎ、冬の山を紅色に染める
日が沈む。切ない
フェリーターミナルで小腹が空いたので、カップうどんを食べて船を待った

さて、小豆島から帰った翌日、会社に退職届を提出しました。新卒で入社しちょうど1年働いた会社を、一身上の都合で去ることになりました。ありがたいことに有休消化というシステムがあり、溜まっていた一週間の休みを取得。これは旅に出ない訳にはいかない。長期休暇だから行ける場所。飛行機でないと行けない場所。そこはいったい…………。次回、新章スタート

空港に現れた輪行袋。いったい何処へ………


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