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創作小話

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公衆電話から自宅に電話がかけられなかった話。(本当にあったら気味が悪い話)小話

公衆電話から自宅に電話がかけられなかった話。(本当にあったら気味が悪い話)小話

 私が中学生の頃の話です。

 当時は両親と姉と私の四人家族で暮らしていました。両親の夫婦仲は決していいとはいえないまでも、かろうじて家族の形は保っている状態でした。

 ある時から、いたずら電話が頻繁にかかってくるようになりました。

 はじまりは私がひとりで自宅にいる日中でした。いつものように受話器を取って姓を名乗ると、相手は知らない男でした。

 男は母の名を知っていました。職場も知っていま

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のどあめ(小話)

のどあめ(小話)

文字書きさんに100のお題より

025:のどあめ

「飴ちょーだい」
 運転中、手が放せないふりをして言ってみる。「自分で取れ」と言われるのを覚悟していたけど、珍しく彼はなにも言わずにダッシュボードからのど飴を取ってくれた。

「剥いて?」
 差し出された飴を前にして、もう一度わがままを言ってみる。車はゆっくり流れているし、少しくらいハンドルから手を放すことはできるけど、ダメ元で甘えてみる。
 

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共有 (小話)

共有 (小話)

 田んぼに張られた水が、初夏の日の光に照らされて輝いていた。育ち始めた柔らかそうな緑の隙間から、きらきらと光が溢れている。
 目の端に映るそれを楽しみながら車を走らせる。こういう綺麗なものを見た時、真っ先に浮かぶ顔は大抵決まっていた。
 今、この車の助手席にあいつがいれば、と思うと口元が緩む。
 きっと隣にいたところで、馴染みのホステスと電話をしているか、食うか、寝るかしかしていないだろうが、それ

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いつか明ける日 (小話)

いつか明ける日 (小話)

 梅雨だというのにやけに爽やかな風が吹いた。
 雨上がりの緑は艶やかで美しい。長雨の最中は、もう永遠に止まないのではないかと絶望したくなる時もあるけれど、どんな雨もいつかは必ず止む。
 止まない雨はない。明けない夜はない。
 シンプルな言葉だけど、それを実感できるのは、私が今日も生きているからだ。

「あの年も梅雨のくせにめちゃくちゃ暑かったよね」
 広い霊園で我が家の墓を探しながら振り返って言う

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ハイヒール (小話)

ハイヒール (小話)

 その昔、テキスト創作界隈で流行った文化に「○○さんに○○のお題」というものがありました。

 例えば、文字書きさんに100のお題。創作意欲を刺激されるようなキーワードがいっぱいで、何個か挑戦させて頂いていましたが、もう配布元のサイトさんもなくなってしまった様で残念です。

 久しぶりに思い出したので、昔書いたものの中から、差しさわりのなさそうなものを何本か救済しようかと思います。

081:ハイ

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