甲子園中止報道から考えるこれからの組織論
甲子園と地方大会が中止になった。
ここまで頑張ってきた3年生やその保護者の方々の気持ちを考えると、何とも言えない気持ちになる。
この前代未聞の事態に際し、何も経験していない自分が話すのも無責任だと思うが、いくつか考えたことを述べたい。
まず、高校野球だけでなく、高体連の競技や中学生も同じ気持ちになっているということ。
過熱報道と意見している人もいるが、やはり野球の報道のされ方は際立っている。
野球以外でここまで取り上げられている競技は見たことがない。
勝利至上主義、過度な連戦連投による怪我につながる要因の一つになっているともいえる。
トーナメント方式で一発勝負というのも検討すべきであるし、甲子園を目指したその先にあるものを捉えていかないと、甲子園がなくなったから人生が終わりと考える選手も出てくるだろう。
陸上に携わっている今、当たり前であるが野球以外の競技にかけてきた選手たちも無念を抱えていることはお伝えしておきたい。
何をテーマに置くか
千葉ロッテにドラフト一位指名され入団した大船渡高校出身の佐々木郎希選手。
昨年夏、その起用法が話題になった。
岩手県大会準決勝に登板した佐々木選手は、連戦となった決勝戦で登板回避。チームは大差で敗れ、甲子園への夢を絶たれた。
この大船渡高校の監督の采配が批判の的になった。
甲子園という大舞台。佐々木選手のみならず、他の選手の夢を奪った采配として徹底的に叩かれていた。
注目したいのは当の選手たちがどう思っていたのかどうか。
世間の批判と同じように、なぜ佐々木に投げさせなかったのかと思っているのか。
それとも佐々木なしで決勝に勝って佐々木を甲子園に連れていこう、それでダメなら仕方ないと思っているのか。
ここに今後の野球界含め、部活動が変わっていくヒントがあると考える。
「目標」と「目的」の違い
部活動における「目標」はほとんどが大会でどのような成績を収めたいかというところだろう。
高校野球でいえば多くの学校が甲子園に出場することを掲げる。
一方「目的」は大会に勝つことにしてはいけないと私は考えている。仮に「目的」まで勝利においてしまうと、そのチームは選手を潰したり、勝利至上主義に終始してしまっている可能性が高い。
「目的」は健全な体と心を持った人間になること、主体性をもって取り組むことができる人間になること、自分の考えや意見を発信できる人間になることなどがあげられる。
部活動を通して学ぶことは勝つことだけではない。競技を通して経験したスキルやマナーは卒業後に生かされる。
「目標」の先に「目的」があることが重要で、試合に勝つ「目標」だけだと本質を見失い、「目標」を達成できなかったときに全てを失う。
大船渡高校野球部にはきっと「目的」があったのではないかと推測する。
「目的」を監督と選手が相互理解していたからこそ、決勝で佐々木選手を投げさせなかったのではないか。
甲子園に出るということを目標を最優先に考えるならば、間違いなく佐々木選手を登板させていただろう。
だがまだまだ体が出来上がっていない段階で160㎞の速球を投げる高校生。
調べてみると、故障の可能性もはらんでいたことから、医者と相談した上で登板回避につながった側面もあるという。
佐々木選手なしで戦って敗れた経験から、選手たちが考えたことや得たことに価値があるのではないか?
もちろん敗れたときにそんなことを考える余裕はないだろう。悔しくて悔しくて仕方ないはずだ。
だが「目的」という本質を見失ってなければ、その経験は人生の武器になる。
甲子園に出場した選手には経験できないものだ。
価値観が変わってくれば、大会運営そのものを見直すきっかけになるのではないか?
(トーナメント方式の見直し、連戦続きの日程、球数制限など)
コロナで大会がなくなったらどうする?
甲子園含め各競技の全国大会や地方大会がなくなり、現三年生にとっては、これまでの努力を披露する場がなくなった。
それを受けて、各地方で代替の大会を実施する動きが始まっている。
批判覚悟で言うと、大会がなくなったことから何を学ぶかを考えることの方がよっぽど大事だと思う。
普段から「目的」を達成するための活動をしているチームはそれができるだろう。
「目標」だけにこだわるチームは切り替えができずに苦しむと思う。
全国大会に出ること、勝つこと以外考えていないからだ。
顧問と選手たちの間で残りの活動期間に、どんな価値を見出すか。
今後の人生を大きく左右する気がする。
自分の実践例から組織論を考える
一番言いたいことは「目的」と「目標」の違いを理解し、「目的」達成のための活動をメインに据えるべきだということ。
決して部活動だけに偏った話ではなく、私は学校生活や行事にも応用できる考え方だと思っているので、具体的にこれまで経験したことを学級を例にしてあげてみる。
①合唱祭
「目的」…合唱練習への取り組み方、切り替えの素早さ、改善するための話し合いなどを通じて、クラスとして成長する。
「目標」…最優秀賞
子供たちは当然最優秀賞を目指す。
だがそれが全てではなく、それまでの過程がどうだったかを振り返る。
その成長過程を振り返りながら子供たちに話ができるかどうかが大事。
結果昨年は最優秀賞をとったが、とっていなくても、「目的」が達成されていれば、そこに価値を見出せる。
最優秀賞を獲ることだけにこだわると、結果が伴わなかったときに何も残らなくなる。
だから担任から最優秀賞を獲るという宣言はしない。あくまで子供たちが考えること。そのサポートに徹する。
②3年生を送る会のクラス劇
「目的」…内容を自分たちで考え実践することで主体的に行動する力を養う
「目標」…3年生に楽しんでもらう
私は送る会の全体指揮をしていたこともあり、自分のクラスの劇はほとんど生徒に一任した。
すると、3年生なら誰が見ても楽しめる、非常に面白い内容の劇が出来上がった。
もちろんこちらからアドバイスすることもあったが、3年生に喜んでもらうためにどうしたらいいかを、生徒自ら考えていた。
おかげで私は他のクラスの劇や全体の流れに集中できた。
結果どうなったか。
3年生送る会の5日前にコロナの影響で中止となり、披露する場がなくなった。
3年生に楽しんでもらうという目標を達成する場がなくなったのだ。
最初は残念がっていたが、私は日頃から主体的な姿勢に関する話や過程を大切にする話をしてきたので、今回クラスで経験したことは進級後に必ず生きると話して締めくくることができた。
他にも独立リーグ時代は、NPBにいくという「目標」は達成できなかったが、地域貢献や野球教室、ファンの方との関わりを通して人間形成を図るという「目的」は達成できた。
それが今につながっている。
この考え方が大切だと思う。
いつコロナの第二波がくるかわからない。
学級でも部活動でも、何を大切にするべきかを考え、刻々と変化する世の中の状況に対応できる組織をつくりあげていかないといけない。
部活動でいえば、私は3年生を対象に個人面談を実施し、今考えていること、今後どうしていきたいかをまず聞き取ろうと思っている。
そして引退まで、何に価値をおいて活動していったらいいかを一緒に考え実践する。
卒業後に生きる力となるように。
そんな組織を増やしていきたい。
ありがとうございました。
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