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児島なおみ『アンドレのぼうし』

アンドレは腕のいいコックさん。
あたたかい家族と仲間たちに囲まれて毎日充実した日々を送ってました。

ある日、アンドレの料理をいたく気に入った王様が「この優秀な料理人にプレゼントを用意しよう」と言いました。王様が用意したのは、たかーーーーーーーーーいコック帽。コックさんの帽子は、高ければ高いほど、料理上手でえらい証となるのです。

アンドレはよろこんでその帽子を受け取りました。
「これからもがんばります!」
そして寝るときも食事の時もその帽子を肌身離さず身につけました。
…が、帽子が天井にぶつかるので常にかがんで過ごしたり、帽子をつぶさないように横にならずに座って寝たり、家族総出で帽子を洗ってもらわないといけなかったり…だんだん家族に八つ当たりしてしまう瞬間が増えてきました。

そんなある日ひとつのきっかけが訪れました。
子供のために家でケーキを焼こうとしたアンドレ。生地を完成させていざオーブンへ入れようとしたそのとき。たかーーーーーーーい帽子が壁につっかえてオーブンに手が届かないのです。

「子供のために料理ができなくなるなら、こんな帽子!」

その日アンドレの中で何かがはじけてしまいました。

翌朝、アンドレはお城に向かいました。そこで「王様、お気持ちはとてもとても嬉しかったのですがごめんなさい。わたしはこの帽子をあえてお返ししたいのです」と伝え、王様は事情を聞いて、それをこころよく受け止めたのでした。

アンドレのぼうし

児島なおみ『アンドレのぼうし』(リブロポート)

子供の時に買ってもらって30年以上。
なぜか手放したくなくてずっと大事にしていた絵本『アンドレのぼうし』。装丁の柔らかな雰囲気がちょっと特別な感じがして、子供ながら「おとなになるまで大切にしたい1冊!」と思っていました。

久しぶりにこの絵本を読み返して、ああ、取っておいてよかったなあと思いました。

才能があって、まわりにも評価されて、毎日が充実するような天職と出会えたとしたら、それはとても幸せなこと。でも、だいじなものは仕事ひとつだけではない。どんなに充実してせわしない毎日を送っていたとしても、大切に大切にしたいものがあるはず。アンドレの場合はそれが家族とのあたたかい時間だった。

目の前の仕事だけじゃなくて、自分を支えて行く家族と仕事、両方をだいじにしていく生き方を、アンドレが選べたこと。その選択を、家族や王様などまわりのひとが暖かく受け止めたこと。なんてやさしい世界だろうと、今読むと、さらに心にぎゅっと来るものがありました。

仕事か家庭か…なんて。「働き方」と向き合う今だからこそ、刺さったのかもしれません。

『アンドレのぼうし』、今は絶版状態になってしまってるようなのですが、もしどこかでこの青い表紙と出会えたら、ぜひ手に取ってみてください。

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