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【書評?】『三省堂現代新国語辞典』が神すぎる!辞書沼にはまるぞ

辞書の書評という新しすぎるジャンルに挑戦します。でも、個人的には下手な小説よりもずっと面白い、マジ神辞書だよ。

「沼」って泥だまりだと思っていませんか?

突然だけど、タイトルにもある沼といわれて何を思い浮かべるだろうか。

普通の辞書だと、「沼」は「泥の深いところ」としか書いていない。岩波国語辞典ではご丁寧に、「どろ深い大きな(天然の)池、普通は最大深水が5m未満」と定義までされている。

当然と言えば、当然だ。岩波をバカにするわけでもない、だってなにも間違っていないから。ではこのタイトルは間違っているのではないか?

残念、あなたはまだ新しい言葉を見逃している可能性がある。無理は言わない、『三省堂現代新国語辞典』を読んでみなさい。

「沼」を調べるとこう書いてある。

ぬま【沼】<名>
① くぼ地に自然に水がたまってできた、どろの深いところ。「五色―(=湖沼名)」
② 趣味などに、引きずり込まれるほどのめりこんでいる状態のたとえ。「[カメラで]レンズ(の)―にはまる」(p1064)

なんと、趣味のレンズ沼という言葉が出ているのだ。写真好きの私、一瞬ドキッ。だから言うまでもなくタイトルの意味は後者。

また、同じくタイトルにある「神」という言葉も調べてみてほしい。

かみ【神】<名>
① 偉大な力を持つものとして、信仰の対象となる、尊い存在。
② [仏に対して]神道の神。「-や仏に祈る」
③ 神がかったものごと。「―対応」[若い世代の大げさな言い方]

普通だと①②の意味しかない。だが、このように最近使われるようになった若者言葉の使い方まで載っているのだ。本当に高校生に寄り添った辞書だと思う。高校生の親世代もためになるんじゃないかな。

ほかの辞書にはここまで詳しくこういう意味は書いていない。ほかの辞書に書いていない新語や固有名詞を多く掲載して評論文特有の語句・語義・用法などを丁寧に説明した辞書。これが三省堂現代新国語辞典(通称・三新国)の特徴だ。

ネットスラングを用いているとは書いていないが、新語を積極的に入れているから自然と掲載されているのかもしれない。古い言葉ばかり載せている辞書もある中でこれは革新的だといえる。

高校生が身につけるべき教養は大人も身につけるべきだよ

もちろん普通の語句もそん色なく掲載されている。さらに付録には敬語の使い方、手紙の書き方、季語一覧や同音異義語の使い分け表、重要な見出し語の関連表現表、アルファベットの略語表など、受験のみならずビジネスメールなど日常的に使えそうなものが惜しげなく載せてある。

電子辞書には付録がないから、付録だけ目当てでもいいレベルかも? 冗談はさておき、ここまで丁寧に掲載している小型辞典はそんなにないんじゃないかな。

高校生向けの辞書だから、大学・社会に出てから身に付けておくべき教養としても使えるように配慮されているのだろう。高校を卒業した大人でも日常的に使えるし、すごく活用できると思われる。少なくとも、受験のため変な用語集を買うくらいならこの辞書をたたきこんだほうがよっぽどいい気がする。

小さな/大きな政府、エゴチスト、スクリーンショット、北日本、フラグ、予知夢、先カンブリア時代、ドッグイヤーなどなど評論文のみならず日常的に出てきそうなことば、他の辞書にはありそうでない語句もたくさん載っている。皆さんはこの言語の意味わかりますか?(兄貴分の三省堂国語辞典にはすべて掲載、後半2つは広辞苑にあり)

私も普段使っているから意味は何となくわかるけど、ネットのだれが書いたかわからないサイトで意味を知っているので、不安に思うことがある。でも超最近のことばじゃなければこの辞書のほうが信ぴょう性あるかもね。

『三省堂国語辞典』の弟分ポジションだから用例で使われていることばは似たようなものばかりだけど、付録とこのバランスはコスパよすぎる。高校生の時は新明解より三新国のほうがほしかったかも。

くどいけど、この辞書は読んだほうがいい。この内容で3080円(税抜き2800円)は安すぎると思う。買え。笑

ちなみに、辞書を買う際は必ず最新版を買うこと。ことばは意味も使い方も数年でかなり移り変わるからそれに対応するため辞書が新しく改訂されてるんだからね。

なぜ広辞苑には新語が少ない?

これはちょっと主題と変わるけど、なんでこういう新聞やニュースなどでよく出てくる言葉が、新語としてあまり中型大型時点に載らないのか疑問に思われた方はいないだろうか。これを解説する文章が、『辞書と日本語 国語辞典を解剖する』という新書に書いてあった。

※小型辞典は5~8万語程度で『新明解国語辞典』や『岩波国語辞典』など。中型辞典は20~25万程度の語が掲載されており、『広辞苑』や『大辞林』などがある。

中型以上の国語辞典は、新語を追うことが任務ではなく、定着して使われ続ける語を載せるべきものだと考えるからである。新語でも定着して使われ続けるものは載せなくてはならないが、定着するか消えるかはある程度時間が経ってみないと判断できない。その語が時間の経過に耐えて使われるかどうか確かめるのに、新語辞典や現代用語集などをうまく使うのである。(p118)

つまり、広辞苑などの中型辞典は定着するかわからない新しい言葉や固有名詞よりも、昔から何度も使われている言葉を多く採用することを重視しているから、守備範囲は広く堅実だが意味や用法の変化の反映は小型辞典に比べて遅くなる傾向だ。

定着した場合は版を改訂するたびに新しく採用するのだろう。でもその改訂は小型辞典はそれより遅い傾向にある。

だから、辞書のカバーでうたい文句に「大型辞典に載っていない語句・語義まで採録する」とあるけど当然と言えば当然なのかもしれない。…ってこういう面倒くさい揚げ足は嫌われるよね、すみません。苦笑

電子辞書で適当に語句を調べる程度ならまだしも、辞書にどんな特徴があるかちゃんと知った方がいい。それぞれの辞書には得意不得意とする所がある。だから調べたい単語が載っていなくても、不思議ではない。それを確認できるのが著者がどのような思い出辞書を書いたか記されている凡例(本文が始まる前のページ、まえがき)だ。

ちなみに、この本にも載っていたけど、兄貴分の『三省堂国語辞典3版』の序文には、

辞書は、ことばを写す”鏡”であります。同時に、
辞書は、ことばを正す”鑑”であります。(新書ではp215)

という辞書の著者・見坊豪紀さんの国語辞典に対する思いが載っていた。

普段ほとんど読まない序文を読んでみると、国語の専門家の熱い思いが載っている。新書でも書いてあったけど、むしろこの凡例こそ一番読むべき所だと思う。辞書というのは想像以上に奥深いものなのかもしれない。

10年以上前の比較的硬派な新書だけど、読んでみたら思ったよりも面白かった。よかったら読んでみてください。

あと、この辺はど素人なので違ったら教えてください。

辞書を読み比べる贅沢

辞書を普段たくさん買うなんてしないのでもったいないかな?と思ったけど、想像以上によかった。

高校生向け、すなわち大学入試や授業向けの辞書とのことだが、大人向けだとも思う。それくらい面白い辞書で感動した。辞書選びに迷ったらマジでこの辞書をお勧めします(「まじ」ということばも「本気であること、ほんとうに」という意味で載ってますよ。これは前から定着してるから岩波でも掲載されていましたが)。

それにしても辞書の読み比べって面白いね。それぞれに特色があり、見てるだけでとても面白い。

キャッシュレス還元終了前の駆け込みで三新国と三国、岩波を購入して、新明国と漢和辞典の5冊で辞書ライフを送ろうと思ったけど、なんか別の辞書もほしくなってきた。辞書好きが止まんねえや。


※参考辞書は三省堂現代新国語辞典のほかに、三省堂国語辞典・岩波国語辞典・新明解国語辞典・広辞苑・明鏡国語辞典のみです。読んでいないほかの辞書に普通に掲載されている記述もあるかもしれません。ご了承ください。

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