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郵便配達員でない人が、郵便物を持ってくる

ピンポーン。

福祉事業所のチャイムが鳴った。

ドアを開けると、桂小金治に似た、老年の男性が立っていた。

手に持っていた郵便物をボクに渡すと、
「入ってましたよ!」と、こぼれんばかりの笑顔で、
去っていったのである。

ここで、言っておこう。
彼は、決して郵便配達員ではない。

しかし、郵便物を運んでくれるのだ。
そう、集合住宅裏にある郵便受けから、わざわざ表の玄関まで。
ここ数ヶ月で、何度運んでくれたことだろうか。


さて、このおじさん。

数年前にご夫婦で、うちの事業所の上階に引っ越されてきた。
児童を送り出す時、ボクは初めてお会いしたご夫婦に、挨拶をした。

すると奥さんが、
「ここに引っ越しをしてきて、挨拶してくれた人は初めて。うれしい!」
と、感激してくれた。

ボクとしては、当たり前のことだったが、
どうやら、今の世の中は、そんな感じのようだ。

その横で一緒に歩いていたのが、その郵便配達人のご主人だった。


実は、ご主人は軽い認知症を患っていると、奥さんから聞いたことがある。
だから、ボクらに良かれと思って、郵便受けを開けて持ってきてくれる。

しかし、郵便物の中には、とても重要な書類もある。
個人情報が満載だったり、行政からの書類もある。
だから、持ってきてもらうことは、逆に紛失のリスクがあるのも否めない。

また、児童のプログラム中の、チャイム音は、混乱される方もいたりする。

だから、実は困るのだ。

一回だけ、ご主人に注意したことがあるが、
翌日には忘れ、いつもの笑顔で、チャイムを鳴らすのだった。


ソフトがだめなら、ハードで勝負。
昨日から、郵便受けにカギを着けることにした。

2日経つが、今のところ小金治さんは、現れていない。

優しさには感謝している。
でも、他人の郵便物を取り出すことは、アメリカでは犯罪になるそうだ。
かつて、アメリカにいたかーちゃんが言うのだから、間違いない。

ご主人、ここが日本で良かったね。

そうそう、配達はもういいのですよ。

今まで、ありがとうございました。そのお心に、感謝!

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