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『2度のうつ病を経験した半生と今』#4

 noteをこれから書き始めるにあたって、私のこれまでの歩みを何回かに分けて紹介しています。今回はその第4回目。社会人時代(20代)編です。

4.波乱の社会人時代(20代充実編)

 「旅をする」という意味ではとても充実した大学生活を送った私は、大学卒業後、公共性の高い事業を扱う半官半民の特殊会社に就職しました。「鉄ヲタ」であり、4年間の数々の旅の経験を通して公共交通事業の魅力と重要性を改めて感じていた私は、この就職先に特に不満はありませんでした。しかし例によって、親からは「半官半民の特殊会社」という点において良い顔をされませんでした。普通の民間会社に就職して欲しかったのでしょう。それでも、これまでの様に強い反対に遭うことはありませんでした。

"普通"ってホントにナニ??

 20代の社会人生活というのは、だいたい皆さん同じだと思いますが、とにかく仕事を覚えて付いて行くのに必死でした。 入社3年目には大きなプロジェクトの一員としても働かせてもらい、とても貴重な経験もしました。一方で業務の拘束時間は非常に厳しいものがあり、ピーク時にはほぼ毎日午前0時を回ってからようやく業務を終えて帰宅し("0時が定時"くらいの感覚)、土日出勤も当たり前の様にありました。それでも心身ともに壊れなかったのは、身体的には「20代」という若さがあったのだろうと思います。そして精神的に持ち堪えられたのは、上司や先輩、同期や周りの後輩たちにとても恵まれていた、ということが絶大に大きかったと思います。当時を今振り返っても、間違いなく激務ではありましたが、「ツラかった」という記憶としては残っていません

 大きなプロジェクトがひと区切りした後、私は「お役御免」となってその部署を異動になりました。異動先は交代制を敷く部署だったため、これまでとは違い比較的プライベートな時間を取りやすく、余暇を楽しむこともできる様になりました。そこで私は、久しぶりに休みを取ってヨーロッパへ短期の旅に出かけることにしました。

 ところで、これまでの私は本とは無縁の人生でした。子供の頃から親に「本を読め!本を読め!」と言われ続けていると、逆に本を読むことを避ける様な態度を取っていました。本を読む習慣のなかった私は、旅の途中の長時間に及ぶ機内や電車内の移動の時でも、音楽を聴いているか、寝て過ごしているタイプの人間でした。

 ところが、今回の旅に出る時は、なぜか行きの空港の本屋で一冊の小説を買ってカバンにしまいました。それは、「どうせ自分が本を読むことなんてないだろうけど、道中暇になったら読もうかな…」程度の軽い気持ちで買った文庫本でした。実際、行きの機内では十数ページ読み進めると眠ってしまい、それ以降旅の途中でその本を開くことはありませんでした。

 しかし、旅が終わりに近づいたある日、ホテルの部屋でチェックアウトまで少し時間があった時に、ふとカバンにしまい込んだ読みかけの本の存在を思い出し、時間潰しに取り出して読み始めました。するとなぜかスイスイと読み進めていき、アッという間に本の中の物語の世界に引き込まれていってしまいました。その本は上・下巻に分かれていましたが、旅の途中で上巻を読み終えるはずがないと思っていた私は下巻を買っていませんでした。しかし、帰りの機内で夢中になって読んでいると、空港に着く前に読み終わってしまいました。続きを読みたくて我慢できずに、私は空港から家に帰るまでの道すがら本屋へ立ち寄って下巻を買い、帰宅して荷解きをササッと済ませた後、旅の疲れも忘れて再びその小説の世界に耽っていきました。

 こうして私は20代の後半で遅まきながらも突如本の魅力に取り付かれました。今でも私を「本の虫」にしたその小説家は、私が最も好きな小説家です。

サウスバウンド

 本の魅力に取り付かれた私は、その後その大好きな小説家の本を全て読み漁り、次に彼の新作が出るまでの間は、本屋へ行ってポップを参考に面白そうな他の作家の本を読むような、暇さえあれば本を読む人間に変わっていました。それは、学生の頃の自分からはとても想像がつかない大きな変化でした。

つづく

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