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アメリカ大統領選挙と情報戦②~アイゼンハワーのCM戦術(後編)

前回はこちら。

※写真は、アイゼンハワー陣営の広報を担ったロッサー・リーヴス。

CM「仕掛け人」の哲学とは

 リーヴスのモットーは「広告は正直でなくてはならない」というものだ。「高品質」「最高の」のような抽象的な誉め言葉を排し、商品が実際に持っている、具体的な強みをピンポイントで伝えることを重視したのである。
 さらに身もふたもない言い方をすれば、リーヴスは民衆の知力を一切信用していなかった。長々と演説したところで、大衆は一部分しか覚えていない。また、複雑なことは理解できないので、物事を単純化して訴えた方がいい――

 大統領選挙でも、リーヴスは自分のやり方を貫いた。まず、彼はアイゼンハワーの演説を聞いてみたが、主張したい項目は32にもわたっており、聴衆の印象には残りにくかった。
 そのころ、ギャラップ社の世論調査では、国民の関心は「朝鮮戦争・物価高・汚職」の3つに向かっていた。そこで、リーヴスもコマーシャルの論点を3つに絞ることにした。

シンプルだが考え抜かれたCM

 リーヴスの制作した広告では、最初に「アイゼンハワー、アメリカに答える」とナレーションが入る。次いで「一般の国民」が疑問や不満をぶつけ、それにアイゼンハワーが回答する、というものだ。くどくどと私見を並べることはせず、「It’s time for a change(今こそ変化の時だ)」といった力強い印象的なフレーズを入れてある。

 質問者が上目遣いをしているのに対し、答えるアイゼンハワーは見下ろしている。まるで天上から見下ろしているかのように「強さ」を演出している。また、このCMは「質問→回答」の順に収録されたのではない。アイゼンハワーが語る部分が先に収録され、それに合わせた質問が収録されたのだ。ここまでくると、少々反則技のように感じてしまう。


 また、「I like Ike(「アイク」とはアイゼンハワーの愛称)」という歌がBGMに流れるアニメーション・フィルムも効果的に活用された。作曲者は、ポップ・ミュージックの大家アーヴィング・バーリンである。
「強さ」と「親しみやすさ」という矛盾するイメージを、都合よく使い分ける……こうしたキャンペーンを通じて、アイゼンハワーは「強く親しみやすい指導者」のイメージを国民に植え付けることに成功したのだ。

 アイゼンハワーはもともと第二次世界大戦の英雄であり、民主党トルーマン政権の支持率は低迷していた。よって、リーヴスらのテレビ戦略がなくてもアイゼンハワーは勝利していただろう。しかし、この時の巧みなPR戦略はアメリカ政治に大きなインパクトを与え、のちの大統領選挙の様子も変えてしまった。それゆえ、アイゼンハワーのPR戦略は歴史的にも意味のあるものだった。

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