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【書評】「第一次世界大戦と帝国の遺産」

未曽有の戦争となった第一次世界大戦は、歴史にどのような影響を与えたか。本書は、「帝国」に焦点を当てたオムニバス形式の論説集である。

第一次世界大戦は、列強の帝国主義的膨張の結果として勃発した。そして戦争の結果、ドイツ、オーストリア=ハンガリー、ロシア、オスマンの4つの帝国が崩壊した。また、イギリスやフランスの帝国主義のあり方も変化させたのである。

例えば、フランスでは軍事力や労働力の需要が高まり、アルジェリアやマダガスカルといった植民地からも人員が徴発・動員された。現地での反発を巻き起こす一方、遠い異国の戦地に送られた経験は植民地人に強烈な政治意識を植え付けた。第一次世界大戦が、植民地における民族意識と独立運動に影響することになったといえる。

第一次世界大戦の主な戦場はヨーロッパと中東であったが、東アジアにもたらした影響も無視できない。清帝国は第一次世界大戦時には滅亡していたが、列強と結んだ不平等条約が「帝国の遺産」として中華民国に残っていた。大戦時の条約改正に向けた中国の試みにも一章が割かれており興味深い。

西洋に対する周縁の動向や、同時代人の精神史など、世界史の教科書よりも広く深い見方を提供してくれる一冊である。

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