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【書評】木村靖二『第一次世界大戦』(ちくま新書)

 日本では、第二次世界大戦と比べて語られることの少ない第一次世界大戦。日本は極東で少し戦ったに過ぎず、大きな被害を出していないからだろう。

 しかし、これまでの世界を大きく変えたできごととして、第一次世界大戦は無視できない。本書は大戦の勃発から終結までを簡潔にまとめた、入門に最適の一冊である。

 世界史の授業で習った内容が、研究の進展で修正されることもある。例えば、講和条約のヴェルサイユ条約について。

(ヴェルサイユ条約は)「ドイツ側に過酷な」条約という評価が長く定説化していた。支払い不能といわれた高額な賠償請求、全海外植民地の没収、一方的軍備制限、隣接諸国への領土割譲などがその例として挙げられた。しかし、こうした評価は現在ではかなり修正されている。

 例えば天文学的賠償金も、条約に記されたものではなく1922年に確定したもの。それも交渉によって軽減可能で、1932年ローザンヌ会議で実質的に帳消しになった。

 条約の欠陥とされるものは、条約の内容よりも、戦勝国などのその後の対応にあった部分が少なくないのである。

 また、第一次世界大戦では各国が総力戦体制をとり、女性の社会進出が進んだ。そのため、列強諸国で女性の権利が向上し、女性参政権の導入にもつながった、とされてきた。

 しかし、大戦によって女性の就業率が上がったわけではない。繊維産業や家事奉公人など、すでに「働く女性」がおり、それが男性優位の分野にも広がったという理解の方が正確だ。

 現代人に必要な近代史の教養を得られる一冊だと思う。

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