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[00円: 小さなお話] 砂漠に希望の種をまく

そういえば何年か前に、ラクダに乗って砂漠に行ったんだ。

ラクダの背中で揺られて、サドルが固いもんだから尻が痛くなってね。

大変だったけど瞑想のいい練習になったよ。

昼も夜もガイド兼コックの人が、チャパティやカレーを作ってくれて、その手際のよさには感心したなぁ。

砂漠に折りたたみのベッドを広げて、夜空の下で眠ったよ。

翌朝は少し散歩して、砂丘を越えて歩いたんだ。

砂丘を一つ越え、二つ越え、そうするとあっという間に、人影一つ見えなくなって、世界に自分一人きりしかいない、異次元空間にいることに気づいたのさ。

砂漠の砂と、青い空が、何もかもを呑み込んで、その隙間にぼく一人だけが立っていた。

木もなく、草もなく、虫一匹いやしない。

生きているものと言えば、ちっぽけな人間が一人だけだった。

それでぼくは思うのさ。

なんだか冴えない日常に、うんざりしながらもそこそこの楽しみを見いだして、日々をしのいで。

そうしていつの間にか、その日常がずっと続くと思い込んで、そんな日常、紙切れのように吹き飛んでしまうものだと九年前に気づいたはずなのに、すっかり忘れて、根拠もなくまた信じ込んで、そしたら結局こうなるわけだろ?

だからぼくは、一人きりの砂漠に戻ってやり直すことにするのさ。

いつだってぼくたちは、自分だけの秘密の砂漠に、不思議の島に、おとぎの森に、帰ることができるんだからね。

ぼくは砂漠に、智慧の木の種でもまこう。

きみは島で飽きるまで冒険をすることもできるし、森で夢の楽園を作ることだってできるんだ、何でも自由に、思いのままにやればいいのさ。

そんな空想になんの意味がある?といって笑う奴には笑わせておけばいい。

笑ってる奴らが現実と呼ぶ、モノクロームの幻想になんか、初めから大した意味なんてないんだからさ。

うららかな春の日の午後に、あいまいな破局を腰の辺りに感じながら、ぼくは夢の種をまき続けるってわけでね。

☆有料部におまけとして、最後の一節を置きます。ちょっとしたトゲ付きの一節ですので、興味のある方だけお読みください。

#散文詩 #小説 #小さなお話 #コラム #エッセイ #茫洋流浪

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