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2021年8月の記事一覧

グリュック 詩抄 (10) Translated by Toshiya Kawamitsu

グリュック 詩抄 (10) Translated by Toshiya Kawamitsu

  涙を流す女王の肖像

わたしの父は 一番星
真夜中 やっと かがやいて
息子よ 父は 話しかけ
息子よ 未来は エメラルド
にゃあ にゃあ 鳴いて ピンク色
ふとった妻には にあわない
わたしの服は 黒い筒
サテンの肩に 寄りそって
ミュリエルとして わたし 生き
母に わたしを 所有され
階段 手すりに ひろがって
母のドレスは 大きすぎ
パーティー 終わった 庭園で
わたし わたしは メキ

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ナボコフ 詩抄 (35) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (35) Translated by Toshiya Kawamitsu

  雪

あの音 この音 雪を踏む
ぎしぎし ぎしぎし ぎしぎし と
誰かが フェルトの靴で 行く
ふとく ねじれて さかさまに
軒下 つらら とがってる
雪は 不機嫌 かがやいて
あの音 この音 手は すべる
ひきずるどころか 手は すべる
わたしのかかとをノックして
光っています わたしの手
急な はたまた なだらかな
海岸 くだる その上で
フェルトのブーツで立っている
わたしは 靴ひも つ

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ナボコフ 詩抄 (34) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (34) Translated by Toshiya Kawamitsu

  音はやわらか

沿岸 ちいさな町のこと
ある夜 かすかな音がして
あなたは 退屈 窓をあけ
海のさざなみ もう 近い
大地を守り 呼吸して
心は 上空 それを聞き
ひねもす ささやく 波 のたり
招かれざる 日は 落ちていく
コップ からっぽ りん りん と
棚におさまり 鳴いてます
しっ しっ しずかに 眠らずに
大きく ひろく 窓をあけ
偉大な しずかな この世界
あなたは ひとり この世

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ナボコフ 詩抄 (33) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (33) Translated by Toshiya Kawamitsu

  楽神

あなたが来た日を 思い出す
見知らぬ世界へ いきいきと
あたえる ふるえ 月に 枝
また バルコニー 影を投げ
こと座のかたち 若き日の
わたしは退屈 見せかけの
シェイクスピアは 耳ざわり
あなたの肩は けだるくて
わたしの歌は 未完成
赤い口唇 笑ってた
わたしは しあわせ かげりゆく
机に ろうそく ゆらめく 火
夢のなかでは グラス 置き
下のページは ジグザグに
添削 不滅 

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グリュック 詩抄 (9) Translated by Toshiya Kawamitsu

グリュック 詩抄 (9) Translated by Toshiya Kawamitsu

  庭のおばあちゃん

洗濯 まがった おばあちゃん
ヤナギの下に 草 ミミズ
世界は 列に 列の数
スパイス なしで 現実に
見える 家々 長い島
薬に酔って 夏 太陽
飲みほす パターン からの袖
ペン先からは 悲鳴 ひびき
孫の頭を 越えてくる
わたしは わたしの生を 生き
黄色の光は 線を ひき
オークの葉っぱ つる ワイヤー
変わる 変わらない 赤ちゃんと
溶けていくから 女の子
男の子

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ナボコフ 詩抄 (32) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (32) Translated by Toshiya Kawamitsu

  リリス

わたしは 死んだ アイオロス
灰色 通りに 吹きつけて
シャッター沿いには オオカエデ
わたしは 歩く ファウヌスと
牧神 ひとり 見つけだす
楽園にいると 確信し
顔を かくして 太陽は
火花 ちらして 腕をあげ
出口に立って 赤裸々に
少女が ひとり 存在し
巻き毛に スイレン しとやかに
やさしく 胸に 花は咲き
地上の春を 思い出す
川辺のハンノキ すかし 見る
粉屋の娘 も

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ナボコフ 詩抄 (31) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (31) Translated by Toshiya Kawamitsu

  ねむくないねむれない

まだ ねむくない ねむれない
ちいさな しあわせ かみしめて
時計は ちく たく スクルージ
あかね空には シルエット
クレーン 貨物を 抱き しずみ
うつむく 若き 亡命者
自分の色に 染まる 霧
浮かぶ あなたの 蜃気楼
日々は まぼろし うつくしく
ふるえる いつも ついてくる
なにかを わたしに 言いたげに
机に 光の 水たまり
憂鬱 ひらいた インクびん
雪 

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ナボコフ 詩抄 (30) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (30) Translated by Toshiya Kawamitsu

  死刑執行

あの夜 この夜 寝ると すぐ
ベッドは ただよう 流れゆく
祖国のほうへ 谷へ いま
殺されるため 谷へ いま
マッチで 火を つけ うそ 燃やし
いすから 見ている 闇のなか
かがやく 銃口 動かずに
両手で 胸と 首 おさえ
やがて 弾丸 発射して
火花は にぶく 光る 目を
そらすことなどできなくて
時計の針は ちく たく と
凍った意識に よみがえる
あなたが なにを ねが

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詩 363

詩 363

  誰か

ピンクの葉 落ちる どの季節
こがねの蛾 飛ぶ どんな夜
石鹸 桜 あなた 誰
灰色 満開 どこの国

ふたりの 内気な 不器用な
子供のように 散歩道
六月 深海 ヒヤシンス
採集した 蝶 幽霊の

透明な雪 明日は 春
夕焼け色の 蜂 前夜
しあわせの歌 鳴り ひびく 岸

あわだつ コスモス 軽い 人
青く 舞い ちる レストラン
かなしみの声 ふるえる 午前

グリュック 詩抄 (8) Translated by Toshiya Kawamitsu

グリュック 詩抄 (8) Translated by Toshiya Kawamitsu

  閉塞成冬

太陽 とげ とげ ハドソンは
氷に 削られ かち かち と
骨のダイスは 満開で
耳ざわり 骨 青白く
昨日の雪は 川 水面
毛皮のように ふわ ふわ と
とまったままで わたしたち
とどけに行こう プレゼント
吹きっさらしの タイヤ 去年
死んだ バルブの上 パイン
あらしに 削りとられても
立ってる 手足 赤裸々に
わたしは あなたが ほしかった

EARLY DECEMBER

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グリュック 詩抄 (7) Translated by Toshiya Kawamitsu

グリュック 詩抄 (7) Translated by Toshiya Kawamitsu

  銀筆スケッチ

チャイム もつれて 大西洋
わたしの妹 立っている
光のなかで 立っている
鎖のように つながれて
妹 越えて 藻のリース
破壊者 出会い また 別れ
カモメの腕輪 ぬけて 泡
風は しずんで 感じない
変わったことを 感じない
妹 みじかく 声をあげ
火の下 タオルを 焦がしてた

SILVERPOINT
Translated by Toshiya Kawamitsu