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2019年3月の記事一覧

詩 272

詩 272

  日食予報

フラスコ 堕落 加速して
分解されて 火山灰
一輪車では 渡れない
あなたのような 流れ星

猫背で 近眼 もう 逃げて
ちいさな コロナ さみしがり
あどけない うそ ラベンダー
一面 白銀 珊瑚礁

ゆるされないから 春 あらし
夢はかなう と 何度目で
窓辺のカーテン さなぎは眠り

しずかにするから 心だけ
最後でもいい 口に入れ
朝をむかえて ここにいさせて

詩 271

詩 271

  アンファンテリブル

オレンジだけが栄養源
ひとつに溶けあう まわれ右
つぼみのような尖塔の
しずかな窓辺の息づかい

しずく 手のひら 受けようと
あくびしながら あおむけに
ノスタルジアと はがれ 落ち
地の果て たゆたう さざなみだ

さみしい 退屈 いすの上
焼けつく ひたい 反響し
思いあがった ガラスのいれもの

おさないままで 無知 不潔
あなたのほどけた髪の下
炎 きれいで で

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詩 270

詩 270

  白雪虫

悪い予感のするほうへ
かおり たずねて プラタナス
暗いトレモロ 鳴るほうへ
まどろみ 引き裂き 身をゆだね

両手いっぱい むらさきの
朝顔 かかえて 会いにきた
テーブルの下 身をひそめ
ものうげ 慈愛に そだてられ

小声で ただいま 無視されて
つまんで 捨てられないように
コイン みがいて 絢爛 火花

悲痛なまでにモノクロで
横断歩道の牢獄で
そこで 一生 明滅している

詩 269

詩 269

  黄金風景

黒いまつ毛は暗闇で
ゆらめく 煙 吐くように
ここにも夜風はしみこんで
明日の予定は日光浴

壁にまたがり あどけない
うつろな目をして 残酷で
ほくろをつないで 国境で
にくしみ 燃やす 光 影

たとえまちがいだとしても
庭のポプラは三本で
裏切り者に やすらぎ なくて

大きな音は循環し
あなたの頭痛の処方箋
防波堤から 蜃気楼 見て

詩 268

詩 268

  アンバーグリス

浸透圧が飽和して
アクアリウムは花をつけ
大いなるとき すべて 無垢
苦痛がなくては鳴けないと

しずまることのない鼓動
月から降ってきたように
光の魚のために舞う
葉末をわたる鐘の音

毎朝 みがいた物質も
翌日 影絵 もう 虚構
あこがれにみちた孤独の心

あなたがあなたであることを
うれしがる いま 雪を食べ
魔法を拒絶し なにも残らず

詩 267

詩 267

  漂白

図書館のなか 羽根帽子
かぶった動機は あいまいで
なんてちいさな骨だろう
青い果実に雲 かかり

デンドロビウム 生えてきた
星がひたいにある子供
よろけて くらげ たよりなく
唾液をあまくする雨が

音符 句読点 むすぶでしょう
イントレランス 落下傘
十日物語 終わってしまう

蝉は呼吸の練習で
あなたは海辺に廃棄され
しょせん 風紋 跳梁 波紋

詩 266

詩 266

  肌色城塞

配色 まちがえ 濃い ヒスイ
夢にまで見たイノセンス
逆光だから まっくろで
理由のひとつにすぎなくて

気持ちがよくて あまりにも
早い 結末 やまあらし
うつくしいもの 待つうちに
流れこもうと そこにいた

菩提樹 ゆらぐ ピアニシモ
コハクのブローチ かがやかせ
旅の王子が黒猫 抱いて

まるで こがねのアーモンド
弱虫だから失敗で
並木道では いま 讃美歌が

詩 265

詩 265

  暗黒神殿

二足歩行のいけにえは
片足 忘れ 泣きだして
蜂蜜色の やわらかい
空気のなかに溶け去って

木のぼり 得意で でも 内気
ゆらめく点たち 水浴びの
光景 たぶん かすみ 晴れ
花壇がそこにあらわれる

炎熱の空 憎悪する
まだ未完成 感受性
みどりの苔と灰色の岩

外の世界を知らず 生き
あなたのかなしさ 気づけずに
こおりつく 指 窓枠 アルミ

詩 264

詩 264

  季節のあるじへ

暗い色 着て かわいそう
つかれたようだ 断片を
はがされ 開花 さびついて
しわがれた 声 ばらまかれ

あなたを知れば 夏を知る
ひと月先の風が吹く
はじめて姿を見せる 午後
現実 まばゆい 展望台

傷つけられて わがままで
眉をひそめた 友達に
胎動 聞かせず こっそり 萌芽

無害なままで あざやかに
野山を かざる チョークの輪
自分のことなど考えず いる

詩 263

詩 263

  ジェミニの廊下

象牙のゆりかご きしむ 音
つばめがかえる 石の下
人目にふれず 幻滅し
水は 心をそそられず

ゆめみて めざめ その リズム
片目 つむって 八月は
軽蔑される 汽笛 鳴る
ビニール傘に 白いリボン

魔法と なづけた 貝殻の
かたちは残る フランネル
虹や 夕日のつもりで おどる

ふいのおとずれ この 連鎖
ふざけて かぶった 紙ぶくろ
ひとり ふたり と 牛乳に 溶

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詩 262

詩 262

  夜行性

さみしい顔して 不機嫌で
長い足には長い影
オーロラ つかんだ 太陽樹
黒い土 踏み 遠すぎて

擬人法にも忘れずに
つばさ 背中に 色白で
月の光の花 つめば
かなしいけれど標本で

いまでも 共存 あきらめず
声をたよりに見つけだし
ただ かがやかせるために生まれた

呼吸と生命 その におい
大切にしてもらえたら
街灯の下 それでも 退屈

詩 261

詩 261

  誰

悲痛な願いは誰のもの
不潔な両手で拍手して
やっぱり 見つかる ぜったいに
わかちあえない 角砂糖

わたし以外に存在し
はじめて立った この一夜
画廊で置き去り 鼻づまり
かくれて そっと ひざまずく

やさしい余白を取り返し
なにより しあわせ 水上の
音楽 ただよう 輪郭 厳禁

腐敗の準備は誰のため
すずしい 暗い 眠れない
たった ひとくち 永久保存