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-Event report③-【第3回】3月23日開催ワークショップイベント「広島・瀬戸内・世界をつなぐビジョンデザイン」

2022年度3回シリーズの最終回となる今回は、過去2回のワークショップを通じて得られた「瀬戸内」「世界」という二つの視点を掛け合わせた一つの統合ビジョンづくりに、グループディスカッション形式で臨みました。

冒頭、司会を務めた広島電鉄地域共創本部の諏訪正浩・地域交流事業課長が、自身が事務局次長を務める「広島都心会議」とその活動の一環である「都市toデザイン」について改めて説明。広島都心会議が、まちづくりに関わる関係者同士が連携し、一体となって広島都心のまちづくりを進めるために2021年に設立されたこと、そして、その活動の一環として、まちづくりにおける課題解決のためのデザインの可能性を探るために、様々な人たちが思いを出し合い、まちのありようについて議論する場として都市toデザインがある、と話しました。

続いて、広島都心会議のアドバイザーも務める叡啓大学の早田吉伸教授から、2月24日開催の第1回「瀬戸内経済圏における広島の共創デザイン」、そして、都市toデザインの企画ディレクターを務めるミナガルテン代表の谷口千春さんから、3月7日開催の第2回「グローバル都市間競争における広島のシティデザイン」について、それぞれブリーフィングがありました。その後、参加者約30人が小グループに分かれてワークショップに臨みました。

この日の配布資料はこちら。

【ワークショップの形式】
3〜5人程度の小グループに分かれ、「広島のプリンシパルは何か?ー絶対にぶれない北極星を創る」をテーマにディスカッションしました。過去2回の議論をベースに「経済」「文化」「生活」の三つの視点から、現状の良いところと悪いところをピックアップ。その上で、自分たちが創りたい未来のありようを考え、そのためのデザインやアクションを検討し、最後にシティビジョン、シティデザインを議論しました。各ディスカッションごとにグループを入れ替えながら、それぞれ意見を出しあいました。

それぞれの議論をのぞいてみました。
どんなやりとりがあったのでしょうか。

①経済 「安定感」から「イノベーションを生む土壌」へ

他都市で開発に関わってきた不動産会社員や自治体職員のたち男性3人の小さなグループ。

「外部流入が少ない。活発なジャンルが入ってくることがあまりなくて浮き沈みがない。ほかに左右されない安定感がある。安定は強みだが、裏を返せば閉鎖的。経済に循環性が乏しい。そこが福岡と比べて弱い」

「広島はオーナー企業が多い。オーナー企業は意思決定のスピードが速いから、外から来る起業家にとっては、本来はイノベーションやインキュベーションが育ちやすいはず。行政を含めてもう少しテコ入れを」

「他都市よりもオーナー企業が多いのは間違いないが、それをいかせていないから幅が広がらない。今あるものを生かす枠組みがないし、あるものの良さに気づいていない」

第2回イベントで齋藤精一さんがおっしゃっていた、「GDPを上げるのではなくて下げる発想」に通ずる問題指摘がありました。イノベーションのポテンシャルがあるのに、資源を生かしきれていないのではないか、と。

「イノベーションやスタートアップ支援は様々な形で始まっているけど、参加企業を絞ってしまっている。もっと参加できる土壌にして育てたい」

「変に東京になろうとかじゃなく、『広島ならでは』が何か。平和一辺倒じゃなくて新しい価値。『平和とは何か』につながる」

「広島にいる有能な人が、広島で働きたいと思うかどうか。資源をどう生かすか」

昨今話題になっている、人口流出問題についても言及しつつ、環境的なアドバンテージを、若い世代がイノベーションやインキュベーションに挑戦する機運づくりにつなげていく必要がある、という議論でした。

※写真の被写体と記事中の発言者は連動していません

②文化 「『しがらみ』という文化を断ち切る必要性」

グループを移動し、今度は東京在住のデザイナーや県内在住の社会起業家の方々の議論に入ってみました。広島の文化ってなんだろう…。

「一つは移民。チャレンジ精神」

戦前戦後、多くの人たちが新天地を求めて海外へ渡った広島は、日本一の移民県。元来、フロンティアスピリッツのある県民性…と思いきや、東京と広島を行き来しながら働くある方は、シビアな指摘をします。

「出て行く人は多分オープンマインドだけど、ここにはすごいセクショナリズムがある。役所同士、自治体と産業界も交わらない。コミュニティをつくるのが苦手な人たちだなと」

※写真の被写体と記事中の発言者は連動していません

東京を拠点に活動するデザイナーの方がうなづきながら言いました。

「東京にない地方の良さというか。脈々とあった地方の文化って、広島にだっていろいろあるのにもったいない

『平和』でやってきたけど、逆に今それしかなくなってる。それに偏りすぎて、生産性のある産業を伸ばしきれなかった。一度壊さないといけない時期のような気がする」

すると、東京での会社員生活を経て広島に戻った社会起業家の男性が、鋭く指摘しました。

「広島の文化はしがらみ。平和を中心にいろんな人の思いが積み重なって脈々と受け継がれているしがらみを切らないと

ここから、様々な意見が飛び交います。

「一人でやったら潰されるから、みんなでやらないと」
「しがらみを切る勇気を持てないから越境人材がいない
企業の看板を持ちながら『個』として動く人が圧倒的に足りない」

平和や東京への「一辺倒」ではなく、複眼的な視点を統合的・融合的に活用していくこと、そして、自分の足場を持ちつつ、セクショナリズムを超えて繋がり合うネットワーキングを構築することが求めらている、そんな部分でうなづきあっていました。

そして、多層な文化の構築に不可欠なのは「新たな可能性への投資」。具体的な案も出てきました。

「投資家の潜在層になりうるのは、地場で30〜40年続く会社。根付いているからこそ新たな可能性に出資したいのにスキームがなくてその先に行けない。ならば選択肢はCVC化」

※写真の被写体と記事中の発言者は連動していません

「オーナー系で3桁億円ぐらい稼いでいる会社。継いだ自分でも何か、と考えていて東京経験のある30〜40代の人を探したい」

③生活 「子ども会ver.2.0みたいな。もっと子どもを取り巻く社会を」

次は、全員広島県外出身という男性ばかりのテーブル。それぞれに子育て真っ最中のようで…どんな風に広島が見えているのでしょうか。

単身赴任中のある会社員は、妻子を呼び寄せたいのだが、とこぼしました。

「適度にいろんなものがそろってて住みやすい。でも、人と人の距離が微妙。遠くはないけど近くもない。県外から来ている人がワイワイ入っていけるような空気感がない」

「支店経済」だから、人の出入りはそれなりにあるけど、男性の単身赴任者ばかり…。子ども医療助成が東京など手厚い地域と比べて見劣りすることや、子育てをしながら働く女性の外部からの移入が少ないことも関係するのかもしれません。

※写真の被写体と記事中の発言者は連動していません

「広島って、子どもにとってそれなりに居場所がある。自然もあるしお店もあるし。でも『子どもを取り巻いている感』がない。自然も都市も企業もあり、大都会とは違って、ちょうどいい距離感で子ども・大人・企業が混ざって何かやりやすいはずなのに」

「地区の子ども会じゃないけど、ちょっと広い意味での『子ども会Ver.2.0』みたいなのをつくるのに、広島ってちょうどいいはず。休みの日にいろんなところで大人と子どもが混ざった楽しいイベントをやってお互い知り合える素敵な場があったらいいな」

④都市理念 「ナンバーワンではなくオンリーワン」

経済、文化、生活の視点を経て「都市理念」とは。報告を兼ねて代表者が意見しました。

「デザインオリエンテッドな企業が結構ある。ナンバーワンじゃなくてオンリーワンかなって。一方でまち並みが美しくないと感じる」

まず最初に発表をしたのは、デザイン性に定評があるある地元メーカーの経営者の方。あえて「平和」という言葉について疑問を呈しました。

悲しすぎるストーリーがあるのはしょうがないけど、平和がトゥーマッチな気がして、そこを変えていきたい」

その上で「ほしい未来を作るデザイン・アクション」との問いに対し、具体的な提案が。

「国立デザインミュージアムを広島、しかも被服支廠に誘致してはどうか」

広島市南区にある旧広島陸軍被服支廠は、築110年、軍都の歴史も被爆の記憶も刻まれた戦争遺構・被爆建物です。L字型に連なる全4棟の赤レンガ倉庫群は、県と国が所有しており、保存に向けた利活用のあり方について議論が進んでいます。

「建物として美しい。国の補助を得て、県も市も市民もお金を出して、最高のものをつくっては。世界の名だたる国にはデザインミュージアムがあるけど日本にはない。つくろうという運動は起こるが実現できてない。東京だと土地がないし、お金もかかる」

「イノベーションを起こすために『デザイン』というキーワードで企業が集まる。そのサポートを圧倒的にやって、広島っていうだけでセンスがいいと感じられるまちをつくりたい。センスがいい人たちがイノベーションを起こし、人が集まる場所に」

続いても、能動的なクリエイティビティを重視した意見。

「『平和文化都市』じゃなくて『平和文化創造都市』。あったものを受け身で受領するだけでなく、未来に向けてみんなでアクションを起こす。借り物ではなくてオリジナルをつくるためには、クリエイティブ教育が必要です」

「都市toデザイン」を主催する広島都心会議の役割への言及も。

「誰もが何かの担い手、文化のつくり手。まちには文化と人と知の集積が必要で、知識を集積して文化として伝播し、波のように広がり渦になる。その中心に広島都心会議があれば」

最後は運営側から、早田吉伸教授がまとめました。

「いろんな分野の方と多面的にお話をできる場所は今までなかった。一人ひとりに思いがあり、『平和』の概念一つにしても、それが弊害だというものも含めていろんな意見が出た。これを次のアクションにつないでいく」

そして、ミナガルテン代表の谷口千春さん。

「個人のあり方が尊重される時代だからこそ、それぞれのビジョンがある。それを『多様性』で終わらせてはいけない。どんな未来に向かって動いていくか、ほしい未来に目を向けることが大事で、それは集合知の中からしか生まれない。積み上げて次につなげたい」

議論をしながら参加者それぞれが書き入れたワークシートには、実にさまざまなアイデアや意見が散りばめられていました。その一部をご紹介。

  • 「問いの街×クリエイティブ」。新しい価値を創れる都市。

  • 大中小、多様なオリジナルであふれたまち。

  • 自立分散と中央集権のバランス。

  • モデルは「近所のお好み焼き店」。やさしい常連のさんでにぎわう雰囲気。ただ、なじみがないと入れない…もっと受け入れるコミュニティに。

  • 一人ひとりが都市をつくっているという実感。市民が社会課題を変えられる都市。そこから「稼ぐ」を生み出せるまち。

  • 彩りある広島。やおい(※)広島。(※「やおい」は広島弁でやわらかいという意味)

なお、ワークシートの詳細は、後日noteにアップする予定です。

時間切れの消化不良感というポジティブな余韻を残して、いったん解散。春以降、「都市toデザイン」というプラットフォームがどう進化するか、注目です!

それぞれの考えを書き込んだシートを手に記念撮影!


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