ゆめゆめ 六の夜
綱渡り
こんな夢を見た。
渓谷に渡したロープの上を歩いていた。
向かう先は霞んで見えず、もと来た方も遥か地平線の彼方に消えていた。ときどき谷底から強い風が吹きつけてきた。命綱もつけてなかった。
とにかく前に進むしかなかった。
足は震え、一メートル進むのにも体力を消耗した。時間もかかった。いくら行っても向こうの先は見えそうになかった。
遠くに鳥が見えた。鳥は真っすぐこちらに飛んできた。
鳥ではなく、ドローンだった。
「郵便です」
搭載されている音声アプリが喋った。
機体にぶら下がった袋から葉書を一枚取り出した。「あと少し。がんばれ」と書いてあった。
顔をあげて前を見た。全然あと少しではなかった。
いただいたサポートは子供の療育費に充てさせていただきます。あとチェス盤も欲しいので、余裕ができたらそれも買いたいです。