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35 心に残る作品

若い頃、男はある映画を見た。とてもつまらなかった。最後まで見ても褒めるところが一つも見つからないくらい、ひどい出来映えだった。

あまりのひどさに、その後数日間その映画のことばかり考えてしまうほどだった。いくつかの具体的なシーンが思い出されると、あそこは特につまらなかったとため息が漏れた。タイトルを口にするだけで活力が奪い取られるような気さえした。

一年経っても二年経っても、男は何かにつけてその映画のことを思い出した。五年十年経っても忘れられなかった。

思い出す頻度の多さから、ときどきむしろあの映画は面白かったのではないかと疑問が生じるほどだった。男はそのたびに自分の中で再点検して、そんなことはないと改めて結論を下した。あれはただただどうしようもない、金を返せと言いたくなるようなひどい映画だった。

定期検診で病気が見つかった。精密検査のあと、医者に余命三ヶ月と宣告された。その宣告を聞いている間、男はなぜかあのつまらない映画のことを思い出していた。あそこまでひどい代物はそれまでもそれからも他に見たことがなかった。

病床で男は毎日のように昔見たその映画のことを思い出した。男にとって、それだけが唯一はっきりと思い出せる人生の記憶だった。今際の際に、男は看護師に最期の言葉を残した。

「もう一回あの映画を見たかったな」



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