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「金欠ボーイズ 笑いごとじゃない」2話

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【2話 我孫子もまた、家賃の支払い遅れる】


   そこへ204号室の我孫子が、身体をぼりぼり掻きながら登場。

宇田川 いるじゃないか。我孫子さん、あなたもね、こう毎月支払いが遅れてもらっちゃ困る……(異変に気がついて)なに?

我孫子 (ぼりぼり掻いて)ちょっとバイトで。

宇田川 まさか来月振り込み……。

我孫子 即金です、即金。

宇田川 それならいい。

我孫子 治験って、新しい薬の実験するやつなんスけど、副作用でちょっと湿疹が。(平山に)なんでお前がいる。

平山 (顔も見ないで)おれだって家賃払わなきゃいけないだろうが。

宇田川 とにかく、家賃は払えるってことだな(と催促)。

   我孫子がお札を差し出す。宇田川が受取ろうとすると、我孫子はまた身
   をよじって全身をぼりぼり掻く。宇田川はうつりはしないかと指先でお
   札を掴む。菌を飛ばすように札に息を吹きかけ、いくらあるか数える。

宇田川 (大いに不満)二万二千円。

我孫子 残りは近いうちに。

宇田川 我孫子さんにも出て行ってもらうしかないようだ。

我孫子 え、ちょ、なんすかそれ?

宇田川 こっちも商売なんでね。家賃払わない人にいつまでも貸してられない。

我孫子 払ったでしょ!

宇田川 足りないだろうが!

我孫子 そんな、いきなりすぎるでしょ!

宇田川 三か月連続で遅れといていきなりなんてよく言えるな!

平山 おれたちを追い出して民泊をやりたいんだと。

我孫子 民泊?

宇田川 売れない芸人より、外国人旅行者の方が金を持ってる。あいつらは金を使いに来るんだからな。来月十日までに残りを払えなければ出て行ってもらう。203と同じ。

我孫子 ちょちょちょ! しかも、なんでこいつと同じ期限。

宇田川 支払いは我孫子さんの方が二千円多いがね。

我孫子 (競り合って)そりゃ、こんな稼ぎの悪い奴と一緒にされても。

宇田川 私に言わせれば目くそ鼻くそだ。

平山 ちょっと待った。(我孫子に)三千円貸してたよな。

我孫子 は?

平山 あれ、返してもらおうか。

我孫子 (ぎくりとするがトボけて)何のことだよ。

平山 名古屋でライブやったとき。晩飯とネットカフェ代、出してやっただろうが。

我孫子 三年も前の話だぞ。

平山 五年前だ。

我孫子 そんな昔のこといちいち覚えてねぇ。

平山 覚えてるって反応しただろ、今。貸しは貸しだ。お前はおれに三千円借りがある。それとも、ずっとおれに借りを作ったままにしておくつもりか。

我孫子 なんだと。

平山 三千円。

我孫子 (忌々しげに)こういうときのためにとっといたな。

   我孫子、しぶしぶポケットから金を取り出す。

宇田川 金があるならこっちが先だろう。

平山 今渡しますよ(と金を取るが、よく見ると何かおかしい)。……なんだこれ?

我孫子 人生ゲームの金。三千ドル。通貨単位は気にするな。

平山 ふざけるなよ。

宇田川 お前らバカか。三千ドルといったら、一ドル110円計算で三十三万だぞ。

平山 こんなもんいるか!(と投げ捨てる)。

宇田川 バカ野郎!(と言って紙切れに飛びつく)

平山 大家さん、先に収めた分から三千円、おれの方に移してもらっていいですか。来月分の家賃は、おれが二万三千円収めてて、こいつは一万九千円。おれの方が四千円多く収めてることに……。

宇田川 (ようやくそれが人生ゲームの金と気がつく)なんだこりゃ! ニセ札だ!

我孫子 いや、だから、人生ゲームの金って。

宇田川 こんなのが面白いと思ったら大間違いだ!(と投げ捨てる) 私は民泊の方の準備があるんだ。失礼する!

   宇田川、不愉快そうに下手から出て行く。



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いただいたサポートは子供の療育費に充てさせていただきます。あとチェス盤も欲しいので、余裕ができたらそれも買いたいです。