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「平均的な人」などという人はいない

事業戦略大学(教員1名・生徒無限大)顧客経験価値のための商品企画開発の実践コース第20回


■対象顧客のリアルな価値や生活実態のイメージを共有する


 「平均的な人」とよく言われますが、実際「平均的な人」などという人はいないとおもいます。性別、年齢、年収などの統計的な属性で市場セグメントし、そのセグメントを顔のない「平均的な人」と定義して商品・サービス企画をしても、だれにも響か無い可能性が高いと思います。そのようなことを防ぐために「ペルソナ」という方法があります。


 ペルソナとは、商品・サービスの典型的な対象顧客に関して、年齢、性別、職業、年収、居住地域などその統計的属性のみを把握するのではなく、価値観、趣味、こだわり、時間の使い方、休日の過ごし方、行動様式、情報入手媒体や方法、交友関係、家族関係、健康状態などの人物像を深く、リアルに把握することです。そのペルソナに向けて顧客経験価値を発想したり、商品企画をする手法をペルソナマーケティングと呼びます。


 ペルソナを設定することの意義の1つは、マーケティング戦略のリアリティを高めるためです。私が新商品企画をレビューする際、「身近な人でだれにこの商品を使ってもらいたいですか?それはなぜですか?」といった質問をよくします。このような質問に対し「静岡に住むうちの親戚の叔母です。彼女は、68歳ですが、スマホを使いこなし、いまでもジャズバンドのボーカルをやっています。健康に不安は無いわけではありませんが、毎朝の3キロのウオーキングは欠かしません。体重コントロールにも気を遣い、常に歩数計で運動量を測定しています。こういった新しい価値観のシニアだからこそ若々しいイメージのパッケージデザインが必須です」と明確に答えられる状態であればペルソナの設定が出来ている状況です。


 もう一つの意義は、組織でマーケティングの対象のペルソナのイメージを共有することです。組織のそれぞれの人は異なる顧客イメージを持っていては、マーケティング戦略はうまく機能しません。商品企画、開発設計、カスタマーサービス、広告宣伝などマーケティング戦略に関わる人が同じペルソナをイメージすることが大変重要です。
 ペルソナは、架空の人物ではなく、実際自分の周りにいるどなたかをモデルに設定すること、つまりリアリティが重要です。リアリティにより、提供すべき顧客経験価値が明確になり、マーケティング戦略も具体的なものになります。周りが共有しやすくするために芸能人をペルソナにする場合もあります。


 
■具体的なペルソナを設定し、デプスインタビューを行う


 ペルソナは、対象となる人の所属するコミュニティ、価値観、行動、感情、感覚を、具体的な事象として捉えることです。これはまさに顧客経験価値の基本となるものです。新たな顧客経験価値とは、このペルソナに商品・サービスを提供した際に新たに起こる行動変容です。
 具体的には、ペルソナ対象候補のモデル顧客を数名選び、デプスインタビューや行動観察などの調査を行います。ディプスインタビューとは、ペルソナ対象項候補のモデル顧客に対し、1時間から2時間という比較的長い時間インタビューを行います。インタビューの主な項目は


 ・信条、価値観、生きていく上で重要視すること(価値観、思考)
 ・家族、友人関係、職場、趣味など所属するコミュニティに対する考え、関係性(共感、コミュニティ)
 ・平日、休日の行動パターン、時間の使い方。特に時間を掛けること、時間を省きたいこと(行動)
 ・喜怒哀楽それぞれどんな時に感じるか(感情)
 ・快不快をどんなときに感じるか(感覚)

などです。
インタビューに当たっては、その目的と得られた情報の利活用の仕方などをあらかじめ伝えた上で、個人のプライバシーを守ることを条件に依頼します。出来れば書面でそのことを伝えた方が良いと思います。 
インタビューでは、前述のインタビュー項目をストレートに聴いても答えにくいので、対話形式で、順番を考慮し、話しやすい話題を提供し進めます。象徴的な事実、エピソードなどを聞き出すことが大事です。
また相手の価値観、信条まで聴くのですから、限られた時間でいかに信頼関係を構築するか、相手が楽しく心を開いてはなしてくれるか、高度なコミュニケーション力が求められます。会話しやすいように相手のことをあらかじめ知っておくこと、またインタビュアー自身のこともオープンに話せるよう、事前準備をしておくことが必須です。
ある飲料メーカーでは、その会社がつくるアルコール飲料を利用する顧客の、人生観、生き様、歴史を感じ取るために、似顔絵を描き、顔の皺まで書くようにしているという話をきいたことがあります。それは絵のうまさではなく、たとえ下手でも絵を描きながら顧客の人生経験という物語を深く知ることが目的なのだと思います。


■生活を共にし行動観察する


 さらに深く相手を知るために、行動観察という方法があります。半日、1日、場合によっては数日感、対象者と時間を共にし、ペルソナ深く理解します。生活を共にするのですから、メモをもって、常に対象者を観察、記録するのではなく、友だち感覚で一緒の時間を楽しく過ごすことになります。あらかじめ対象者の生活時間を尊重し、邪魔にならないようリラックスした環境のなかで、時間をともにすることで、人としての相互関係の中で、調査する側の主観的な気づきを得ることがポイントです。この調査方法も信頼関係とコミュニケーション力が求められます。


 本当はディプスインタビューも行動観察も、わざわざ「調査」でおこなうのではなく、日頃の家族、友人、仕事の仲間との関係の暮らしの中で行いのが良いと思います。調査する側も暮らす人として、相互関係の中で何かに気づくことが理想です。


■対象とするペルソナから新たな顧客経験価値を発想する


 ディプスインタビューや行動調査などでペルソナを把握したら、それをわかりやすく記述して、マーケティング戦略に関わる関係者と共有します。そしてそのペルソナがどのような顧客経験価値が得られればより満足するのかを発想します。


 発想のポイントは、ペルソナの生き方、価値観、信条を後押しするものにつながって行く体験、経験です。またペルソナの強みがより生かされ、成長発展する体験・経験です。それら生き方、価値観、強みなどを後押しする経験・体験が、ペルソナの生活の時間、お金、物理的な生活環境、周りの人間関係などの可能性と制約条件の中で、難しくなく実現することをイメージしなければなりません。


 よく未来のクルマ、未来の住宅といったものを見せられることがありますが、多くの人は自分とは関係の無いことと感じるのではないでしょうか。未来の空想、イメージをもつことは良いことですが、

具体的でエキサイティングな顧客経験価値を創り出そうとするならば、顧客の人生の制約条件を踏まえた、手が届きそうで、かつ自分が重視していることと強く結びついていることが必要です。

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