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不動産で電子契約ができるようになっても紙やFAXは無くならない

昨今、脱FAX・紙(ペーパーレス)の文脈で、不動産の電子契約が一部で注目されています。立法や行政の方でも、一部の契約については、「書面での交付」を義務付けていた文面の改訂が進んでいる所ではあります。

安全性が担保された上で、色々な選択肢が増える事は良い事です。

しかし、電子契約ができるようになったとしても、紙やFAXがなくなると考えるのは早計です。

実際に実務を行う人達に言わせれば、「電子契約にすれば紙とFAXが不動産業務から無くなるなんて思ってるのが居たら相当おめでたい奴だ。電子契約できるようになったからと言って、電話やFAXと手入力が減る訳でも無しに」と軽く馬鹿にされてお終いです。

はい、良く分かります。

まず、日本において、いや世界的にみても、紙による契約書は当分無くならないでしょう。一部の業者間の契約が電子化出来たとしても、一般個人向けの賃貸・売買契約で紙の契約書の形態が生き残る限り、電子契約が出来たって、不動産業者としては、両方の対応をしなければならなくなり、寧ろ、手間がさらに増えるだけです。電子契約だけにして紙で契約書を欲しいお客さんを断ったら機会損失です(オーナーさんにも怒られます)し、それこそ(お客さんや世間から)入居拒否の差別だ言われてお終いです。それに、電子契約自体の単体ではメリットもそれほどありませんし(契約書を郵送する手間が省けて保管場所が減るぐらい?)。電子契約システムが止まったら事業そのものも止まりますし・・・。

個人的にも、不動産の契約では、電子契約というよりか、オフラインで紙の契約書が欲しいです。インターネットやシステムに詳しくても、いや逆に詳しいがゆえにいかに脆いものなのかを身に染みて知っているので、システム的な事やセキュリティ的な事を懸念してしまうのです。何しろ、大手銀行から政府機関からIT企業(それこそITセキュリティ専門企業でさえ)まで、頻繁にデータ流出やら漏洩やらシステム乗っ取りとかされている訳で・・・。直近では運転免許証やパスポートの情報が171万件流出した事件もありました。なので、自分はよっぽどの事が無い限り、自分の個人情報などインターネット経由で流しません

誤解しないで頂きたいのは、「電子契約」自体のセキュリティの話しをしているのではなく、「契約を電子契約を使ってオンラインで行うこと」のセキュリティの話しです。例えば賃貸の契約では、申し込みと事前の審査の段階で本人確認の為の身分証明書や住民票、場合によっては収入証明書・・・個人情報の塊みたいなものを扱います。保証人の情報も必要ですからx2ですね。申込書の内容なんて、取り扱うことを考えただけでもゾッとするようなプライベートな情報です。こんなん、どこの誰が管理しているかもわからないサイト上にアップロードしろと言われても、躊躇しないほうがオカシイです。というか、自分ならどこのサイトにも登録しません。

もし、宅建業者さんで、単に集客目当てで「電子契約やってます!」、を謳いたい場合、上記のセキュリティの事はちゃんと考えておいた方が良いです。万が一の事が起きてしまった場合の対応策も含めて。

不動産業界がITデジタル化で遅れている本当の理由」でも書きましたが、あえて電子化しない、というのは究極的なインターネットセキュリティとも言えます。

次に、そもそも、日本では不動産物件情報が、紙の図面や、一々手入力によって登録され流通するのが基本だからです。詳細は「不動産デジタル情報標準化の覚書」などに書きましたので、割愛しますが、日本ではレインズにしたってそもそもがそういう状況なのです。

なので、現状、物件情報が紙ベース、一々手入力ベースでやっている中で、契約が電子契約で出来るようになっただけでは、何も変わらないのです。

そういう中で不動産テック系の人達が「電子契約」ばかりに盛り上がっていても、現実的な業務の世界とはかけ離れ過ぎていて、思いっきり上滑りしている感が拭えません。


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