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[読書記録]マジカルグランマ(柚木麻子) / あっぱれ正子さん

CMなどを見ていると、世間にあるおばあちゃん像というものがどんなものかな、と考えます。「田舎で縁側で涼む孫にすいかを切ってくれるおばあちゃん」とか「台所でお芋をクツクツと煮込み、菜箸を持って様子を見るおばあちゃん」とか「真っ白な髪でビビッドカラーのキレイなワンピースを着るおばあちゃん」とか、人それぞれいろいろあるのかな、とは思うのですが、優しくてかわいくて、温かい、というイメージがあるのかな、と思います。

「マジカルグランマ」、ほんっとに痛快で人間臭くて、ちゃんと失敗もして、面白かったです。

順当に行けば老いは人に平等にやってくるし、死は完全に誰にでもやってくるものですが、「マジカルグランマ」、まずはじめに目次があって、最初の章が「正子、おおいに嫌われる」。
これで笑ってしまいました。何が起きるんだろう、と思っている間に「わははは!(私の心の声)」と状況が変わって行きます。
正子さんの激情に駆られた時に現れる軽率なところがわりと突拍子もなくて面白いし、結局正直な人なのだろうと思います。かといって気持ちの切り替えも速いし行動力はあって順応性は抜群、余計なものは見ないで物事には全く執着せず、いつも「私には未来がないんだから」と自分の残された時間に向き合い、「今」を大切にしている。正直なことや割り切る力って年の功というより多分生まれ持った性質なのだろうな、とは思うのですが、正子さんの天晴れ具合に胸がスカッとするし、何より自分の価値観を心から大切にできる。そんな正子さんの力を、物語の中の人とはいえ、すごいなぁ!と尊敬します。

映像化して(できれば連続ドラマで丁寧に)、世の中の人が広くこういう価値観を受け入れられたらいいのに、なんて思います。ここには社会の思い込みからはみ出した、社会が持つ「イメージの暴力」に対する斬り込みがあるので、「ああ」と胸に手を当てる人が少なからずいるのではないかな。私も新しくて前向きな明るい価値観をこの本から学んだ気がします。
「マジカルグランマ」や「マジカルジャパニーズ」、「マジカルゲイ」など、社会のイメージの型にはまったものを演じることにメリットもあるかもしれない。でも正子さんのように本当はそうではない、そうではないからといって大多数の人から槍玉に上げられるのは、心から違うと私も素直に思いました。

そして、違うからといって、今の時代、ここまで叩かれる世の中ではすでにないのだ、と思いたい私もいます。

最後の方で紀子ねえちゃんとスカイプで話した正子さんが、紀子ねえちゃんに最後に言ってもらった一言、物語は坦々と進んで行きますが、私は涙が滲んでとても胸が熱くなりました。最後まで「え!」と思う面白い展開でした。ああ面白かった!

ドラマ化するなら、なんて、正子さん、陽子ちゃん、紀子ねえちゃんのキャスティングを勝手に考えてにまにまと楽しんでいます。


柚木麻子さん、今放送されている「100分de名著」の林芙美子さんについて解説されているのですが、着眼点も解説もとても面白く、あはは!と笑ったり、うーんと唸らされたりしています。
好きです!


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