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『ウルトラ告知』 ショートショート


ルール:思いついた3つのワードで短編小説を作ります。
今回の3ワード:ウルトラマン,女,スズメ


幹也は彼女の由美を行きつけの居酒屋に呼び出した。大切な話があったのだ。これは二人の未来のために絶対に話しておかなくてはならないことだった。

奥の席には先に幹也が座って由美を待っていた。こじんまりしたアットホームな店内はサラリーマンで賑わっている。由美は大切な話と聞いてドキドキしていたがまさかこんな場所で結婚の告白はないだろうと予想していた。だったら何なんだろう……。

由美「おまたせ」
幹也「あ、いや全然待ってないよ。俺も今来たところなんだ」
由美「うん」
幹也「あ、そうだとりあえず注文しよう。ほらここ意外と料理も美味いからさ、ちょっとサラリーマンでオヤジ臭いけど良いところなんだよ」
由美「そんなことよりさ…」
幹也「えっ?」
由美「そんなことより……話って何?」
そういう由実の口調には幹也を少し疑ってるような様子が見られた。

幹也「いや、それは別に悪い話じゃないんだ」
由実「じゃあなんでこんな場所なの」
幹也「おい、そんなこと言うなよ、お店に失礼だろ」
由実「でもだって、おかしいじゃない…大事な話があるって、なのにこんな居酒屋で…絶対にいい知らせじゃないに決まってる。」
幹也「そんなことないよ、俺はフランクな感じでやりたくて」
由実「嫌だ」
幹也「由実、ごめん」
由実「……え?」
幹也「由実…実は今日はプロポーズでここに呼んだんじゃないんだ」
由実「じゃあ何なの……どうせ浮気してるから別れようとか、そんなことなんでしょ」
幹也「えっ…」
由実「どうなのよ」
すると幹也は笑いだした

幹也「そんなわけないだろ、違うよ」
由実「え…違うの」
幹也「なんだい、俺を疑ってたのか」
由実「いや…違うのでも最近、会えない日がずっーと続いてたから心配で…」
幹也「そうか、それなら謝るよ。ごめんなそんなことで心配させちゃって、でもそれは絶対にないよ」
由実「でもじゃあ話ってなんなの」
幹也「う〜ん」
由実「早く言ってよ」
幹也「分かってくれるかなぁ」
由実「なんなの、早く言ってよ」
幹也「分かったよ…じゃあ、由実…落ち着いて聞いてほしい。俺、ウルトラマンかもしれないんだ」
周りで騒ぎながらも聞き耳を立てていたサラリーマンたちが驚いて幹也をギョッと見た。
由実も唖然として言葉を失って店内が一瞬静かになった。

由実「いや、ごめん全然何言ってるか分からない」
幹也「う・る・と・ら・ま・ん」
由実「そういうことじゃないよ」
幹也「ウルトラマンだよ」
由実「だからウルトラマンは分かってる。でも言ってる意味が全く理解できないの」
幹也「ウルトラマンだって」
由実「ウルトラマンが何かは分かってるけど状況が全然分からないのよ!」
幹也「なんでだよ、俺はウルトラマンなんだよ」
由実「なんで、なんでだよなんて言えるのよ!」
幹也「何が?」
由実「だから、ウルトラマンかもしれないなんてその日本語自体がおかしいのよ!ウルトラマンかもしれないなんてセリフ初めて聞いたからどう対応したら良いのか分かんないって言ってるの!」
と由美は遂に立ち上がった。

幹也「俺はウルトラマンだ!」
と幹也も立ち上がった。 

由実「うるさい!だまれ!」
幹也「なんでそんな酷いこと言うんだ!俺はウルトラマンなんだ!」
店内のお客さんはみんな二人をポカンと見つめていた。二人は空気を察して一旦席についた。

幹也「なぁ…ちゃんと話そうよ」
由実「だめ、意味が分からないのよ。もう私疲れたわ」
幹也「由実のカラータイマーがもう点滅してるってのかい?」
由実「うるさい!ばか!意味がわからないこと言わないで!」
幹也「でも、俺はウルトラマンである可能性が極めて高いんだ」
由実「はぁ……じゃあなんでそう思うのよ」
幹也「星を見るたびにそう思うんだよ。銀河が俺を呼んでいるって…」
由実「馬鹿じゃないの」
幹也「それに俺、たびたびジャンプするときシュワッチ!って叫びたくなるんだ」
由実「あきれた」
幹也「それに由実…水族館に行ったこと覚えてる?」
由実「当たり前よ、あれは初デートだった。あの時の幹也はカッコよかった」
幹也「あの時のってどういうことだよ」
由実「…もう疲れたの」
幹也「なぁ、お願いだ聞いてくれ。」
由実「聞いてるわよ、一応」
幹也「俺さぁ…あのときも思ったんだ。でっかいタカアシガニ見ただろ。その時妙に胸の奥がザワザワしてさ俺ってさ、多分さ…バルタン星人の要素を感じ取って危険を察知してたんじゃないかなぁって………俺の奥底に眠る本能がさ…ハサミを見て、危ない!って」
由実「はぁ……あの時から頭がおかしかったのね。どうして私気づけなかったのかしら」
幹也「仕方ないさ。自分を攻めることはないよ。俺だって気がつけなかった。安心して!大丈夫、俺がついてるから」
由実「は?」
と由実は幹也を睨みつけた。

幹也「シュワッチ…」
由実「なんなの本当に」
幹也「シュワッチって言いたくて仕方ないんだ」
由実「あなた病気よ」
幹也「なぁ…もしウルトラマンだったら。俺は痛い思いをして戦わなくてはいけないのだろうか」
由実「知らないわよ。もう今のあなたはとても気持ち悪い、大嫌い」
幹也「別れるって言うのか」
由実「そうしましょう」
幹也「分かったよ…分かったけど最後に思い出にラブホテルへ一回だけ行きたいな。どうしてももう一回だけ思い出を作りたいんだ…っ!」
由美は怒って水を幹也の顔へぶちまけた。

由美「もうあんたなんかどうでもいい!さよなら!」
幹也「酷い…こんな酷い女だったんだな君は」
由美「それはこっちのセリフよ!」
と由美は立ち上がった。それを止めようと幹也も立ち上がる。
すると二人の会話を厨房から見ていた店主が急いで二人の元にやってきて平皿に盛った料理を一つテーブルにポンと優しく置いた。

店主「まあまあお二人さん。そう喧嘩せずにまずはご飯を食べましょうよ、ご飯を食べれば元気が出ますよ。」
すると幹也が怒鳴った。

幹也「いや、ちょっと待ってください。今、二人で話してるんですよ。勝手に割り込まないでください。僕はレーザービーム撃てるかもしれないんですよ!怒ったら怖いですよ!」
店主「す、すいません。あ…失礼します」
由美「ちょっと待って、オーナーさん気を使って料理を振る舞って頂いてありがとうございます。この人、頭がおかしいんです、オーナーさんは悪くありません。すいませんでした。」
店主「いえこちらこそ割り込んじゃって」
由美「いいんですよ。それでこちらの料理は?」
店主「スズメの煮付けです」
由美「………………いらないです」
店主「スズメの煮付けパセリを添えて、です」
由美「パセリじゃ取り返せないです」
幹也「いやっほーい!パセリだ!パセリだ!」
店主「パセリ美味しいですよね?」
幹也「最高です。ムシャムシャ」
由美「違うんですよ、スズメの煮付けなんて聞いたことないです。野鳥を料理するなんて考えられません」
幹也「でもパセリ…」
由美「あなたは黙ってて!」
店主「パセリをバカにしちゃいけませんよ!奥さん!」
由美「別にパセリをバカにしてはいません。私はスズメの話をしてるんです。パセリはどうでもいいんです。それに私は奥さんじゃありませんし」
由美は必死に冷静さを保とうとした。

店主「パセリがどうでもいいだって〜!」
幹也「奥さんじゃないってついこないだまで俺と結婚したいと言ってたじゃないか〜!」
と由実の言葉を聞いて二人が騒ぎ始めた。

由美「ちょっと二人とも落ち着いてください。まず私はパセリの話はしてないんです。スズメの煮付けの話をしてるんです。どうでもいいというのはこの話においてはどうでもいいということで、パセリを否定してるわけじゃありません。…あと幹也!こないだまで言ってたって何?なんなの?今の私と話してよ、そんなの意地悪よ。過去の発言を掘り返して今の私に反論するなんておかしいわ」
すると幹也と店主は黙り込んだ。そして小さくブツブツと喋りだした。

幹也「何なんだよ、この女。俺に盾突きやがって…クソクソクソこんな屈辱ない………ぶっ殺してやる…」
由美はその声が聞こえて鳥肌がたった。

由美「いや……ちょっと待ってよ。なんで私が殺されるのよ、よく今までの会話を思い出してよ。殺される筋合いなんて一切ない…」
幹也「今更、おじけづいたって遅いんだよ。この野郎…このクソ女め!!!」
そう言って幹也は両手の人差し指と中指を立てて額に当てた。

由美「何してるの?」
幹也「ぶっ殺してやる!レーザー光線だ!」
由美は店主の方を向いた。

由美「オーナーさん、さっきはごめんなさい。別に私はパセリをバカにしてたわけじゃないんです。ただスズメに驚いてしまっただけなの。私が悪かったわ。」
すると店主はおいおい泣き出した。

店主「だってだって、大切なパセリがバカにされたと思ったから…悲しくて悲しくて、うぅぅ」
由美「ごめんなさい、どうか許して」
と由美は店主の背中をさすった。

幹也「僕はパセリ好きです!」
店主「へっ?」
幹也「僕はパセリ大好きです!シュワッチ!」
店主「本当かい?」
幹也「はい!」
店主「本当かい!」
幹也「はい!!」
幹也は由実を押しどけて店主と抱擁を交わした。すると店内がドッと湧いた。常連客が皆、拍手喝采なのだ。
客ら「おめでとー!おめでとー!」

由実「なんなのこのバカ共は…」
店内の男たちが輪になって踊りだす。盆踊りにバカの成分をふんだんに練り込んだような見てられない踊りに由美は一人店内を出た。

振り返ると店の中ではまだどんちゃん騒ぎが続いている。

由実「本物のバカは幸せそうね…」


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