アナベル_死霊人形の誕生1515492095

9月映画感想 アナベル 死霊人形の誕生

 『アナベル』は『死霊館』の第1作目よりも少し前に起きた物語を映画にした作品だ。『死霊館』1作目にも出てきた不気味な人形、アナベル人形とはなんだったのか、アナベル人形誕生の経緯が描かれている。

 アナベル人形とは何なのか?
 ちょうどいい感じにまとめられているサイトを見付けたので、リンクを貼っておこう。
カラパイア:実在する呪われた人形、アナベルにまつわる本気で怖いサイドストーリー

 上が実際のアナベル人形だ。映画中では不気味で、とても子供が喜びそうにないデザインだが、実際のアナベル人形は見ての通りなかなかファンシーでかわいい。こちらの人形は、映画中のとあるシーンで登場する。あらかじめ知っておくと「おっ」となる。
 もともとは「ラガディ・アン」人形と呼ばれているもので、「手作り人形」ですらなく、「大量生産」された1つだった。それがある時、人形の周囲で不気味な現象が起きるようになり……。
 記録を読んでいると、夢にラガディ・アン人形が現れ、首を絞めてくる……というエピソードがあるが、その話だけを聞くと「不気味な話」というか妙に牧歌的なものを感じてしまう。

 映画は実際のエピソードを断片的に拾っているが、まったくの別物。
 舞台となっているのは……どこだろう? 詳しくはわからない。Wikipediaには「ロサンゼルスで撮影がはじまり……」と書いてある。映像を見ていると家の周囲はぽつぽつと低木があるだけの、ずいぶん寂しい光景で、そんな只中に家がぽつんとあるような描かれ方になっている。これは……映画用のセットなのだろうか、もともとあったものなのだろうか。
 まあそれはさておき、舞台となる家はなかなかいい感じに作られている。「大邸宅」ではもちろんないが、入口を通ると階段広間があり、周辺に部屋が配され、扉で続くようになっている。窓が多く、見通しがよく解放感がある。壁や柱には豪奢ではないが、細かく彫り物が入っている。置かれている小道具もいい感じ。映画の舞台として、ホラーの舞台としてなかなかしっかりと作り込まれている。(ただ、一介の人形師の家としてはずいぶん広いように思える。あのおじさん、何者なのだろう?)

 そんなお屋敷にやってくる孤児の少女達。はじめは広々としたお屋敷に大喜びするが……。
 映画前半は特に恐怖演出はない。焦らないところがいい。前半20分くらいは特になにも異変が起きない。
 次第に異変が始まるが、小さなところからゆっくりゆっくりと。構図の端っこに白い影が映っているとか、ホラー演出としては定番の見せ方だが、じわーっと引き寄せてくれる。
 恐怖演出はというと、言ってしまえばアナベル人形をただ置いているだけ。よくよく考えると、特に不思議なことはなにもしていない。動きといえば、せいぜい首が動く程度……そもそも小道具としてのアナベル人形は、そんなに動くようには作られていない。しかし恐怖映画は素朴さから生まれる。なんでもないところでふっとアナベル人形が現れると、ゾクッとくる恐さがある。この見せ方非常にうまい。

 劇中、シスターの部屋に置かれた写真の中に、意味深な描写が現れる。たぶん、『エンフィールド事件』に出てきたシスターだろう。関連はわからないが、どこかで繋がっているのかも知れない。(今作にも、例のシスターは登場しているっぽい。ジャニスの車椅子を押す謎のシスターがそれだという)

 悪魔が本格的に活動を始めるのは、中盤1時間を越えてから。亡霊だったビーがジャニスの体を乗っ取る。悪魔が力を得て活動的になるのはここからだ。
 悪魔という実体が現れるようになると、ホラー映画はなんとなく恐さがなくなってくるものだけど、本作はここからもかなり怖い。殺戮が始まるのだけど、単純に殺さない。一つ一つのシーンがうまく工夫され、単調さがない。毎回毎回、何が来るんだろうとワクワクしながら映像を追いかけていられる。

 ふと思ったのだけど、悪魔は意外にも「壁抜け」ができないんだな……。一時的に透明人間にはなれるようだけど、何かに触れる瞬間は実体を持つらしい。
 簡単なサイコキネシスが使えるらしいが、あまり力はないらしく、せいぜい鍵を開けたり、電気を点けたり消したりするだけ。ただし、力が覚醒した後は大人を壁に叩きつけるくらいの力を持つ。
 サイコキネシスの一種なのか、「封印」の力を持っている。悪魔がひとたび「封印」の力を使うと、扉は叩いても蹴っても開かなくなる。ヴァンパイアが持っている力に似ているような気がする。
 子供ばかり狙っていたのは、大人、シスターは聖職者だから狙いづらかったのだろう。後半は標的になる。
 物理攻撃は有効らしい。
 瞬間移動や分裂はしない。(映画では後半2箇所に出現するようになったが……なんでだろう? あの黒い液体を口移ししたシーンで、2体に分裂したのだろうか?)
 ということは、悪魔って案外、対処可能だぞ。変にパニックにならなければ(恐らく精神に攻撃を与えるので、平常心がかき乱されるのだと思う)。冷静に物理攻撃、サイコキネシスの攻撃を警戒して戦えば、わりといけそうだ。
 悪魔はこういった物理的な力より、攪乱する力のうまさ。映画を見ていると、本当にうまく1人1人分断する。1人が部屋に入ったところで、バタンッと扉を閉めて封印してしまったり。集団で行動していても、うまく分断させている。プレイヤーとしての熟練度の高さが悪魔の脅威なのだろう。
 ただ、悪魔は物理攻撃で滅ぼせるものなのかどうかは知らない。私たちとは違う原理で活動しているっぽしなぁ。

 映画『アナベル』は『死霊館』シリーズの前日譚、ということだが、基本的にはシリーズをまったく知らなくても楽しめるように作られている。ちょっとしたリンクはあるが、別に『アナベル』から見始めてそれから『死霊館』を見てもいい(時系列的にはこっちが正しい)。
 こうした前日端的なスピンオフは、本家シリーズとの連続性に意識が捕らわれ、なかなか面白くならない、なんとなく答え合わせ的な帳尻合わせ的なシーンばかりになるものだけど、『アナベル』はかなりのびのびと、好きなようにホラーを作っている。そしてかなり楽しい作品になっている。最後の最後までちゃんと怖い。

 映画を見ている間、気になったのは、色調。この映画の場合、注目させるシーンは思い切って暗く、場合によっては真っ黒になるのだが、私のモニターではこれが綺麗に映らなかった。ストリーミングの限界なのか、私のモニターの限界なのか、どっちなのかわからないが(両方?)、暗闇のシーンになるとシルエットがもにゃもにゃっとなってしまう。後半、暗いシーンが一杯出てくるのだが、画面全体に出てくるもにゃもにゃが気になって仕方ない。もうちょっと環境のいい状態で見たいものだ。

 『アナベル』のラストは『死霊館』に繋がるシーンで終わる。ここから『死霊館』シリーズを見ていくのもなかなかいいかも知れない。

9月3日

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