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ゲーム感想 桃太郎電鉄~昭和平成令和も定番!~

 Nintendo Switchにあの定番ボードゲーム『桃太郎電鉄』がやってきた! 昭和、平成、令和と時代を駆け抜け、それでもやっぱりみんなと集まればこのゲーム! いつの時代に遊んでも『桃太郎電鉄』は安定的な楽しさを提供してくれる。
 私はいま友人は一人もいないし、忙しくて遊ぶ余裕はさほどないのだけど、でも久しぶりに登場した『桃鉄』シリーズだ。買おう。
 ……と、いうわけで『桃太郎電鉄』を珍しく発売日にダウンロード購入。せっかく買ったので、ちょっとした感想文も書くことにしよう。

ビリオンロードはなんだったんだろう?

 ゲーム本編の話に入る前に、まずこんなお話。
 Nintendo Switchには『ビリオンロード』というゲームがある。2018年11月29日発売のゲームだ。私は体験版まで遊んだのだが、実際に触れてみるとどう見ても『桃太郎電鉄』。イラストレーター土居孝幸が担当しており、「なんとなくの雰囲気」ではなく、見た目も中身も『桃太郎電鉄』。すごろくのマップも、物件の場所、値段までほとんど一緒……と「桃鉄」をまるごとコピーしたような作品だった。
 しかしプロモーションを追いかけていくと、次第に「?」が浮かび上がってくる。どうしてイラストレーターの土居孝幸しか出てこないのだろう? 『桃太郎電鉄』の統括的なディレクターといえばさくまあきらだが、その名前が出てこない。私は当時、「どういうことだろう?」と思ってしばらくさくまあきらのTwitterを見て、『ビリオンロード』の言及を探してみたことがあった。ところが、まったく出てこない。
 おかしい。『ビリオンロード』はどう見ても『桃太郎電鉄』なのに、なぜどこにも言及がないのだろう……?

 答えはシンプルだった。『ビリオンロード』にさくまあきらは関わっていない。土居孝幸がチームから抜けてバンダイナムコで制作したゲームが『ビリオンロード』……ということだった。

 話を2012年の頃まで遡ろう。
 2012年、ゲーム業界の老舗ハドソンが倒産。ハドソンが権利を持っていた「桃太郎電鉄シリーズ」の権利はコナミに吸収される。ここでさくまあきらとコナミ側で対立が起きる。まあ最近の“ファック・コナミ”にまつわる様々な問題の一つ。きっといろいろあったのでしょう。さくまあきらは「コナミとは絶対にゲームを作らない」と単に「作らない」というだけではなく、感情むき出しにコナミとの絶縁宣言、シリーズ終了の宣言をしていた。溝の深さは相当のものであることがうかがえる。
 そこで間を取り持ったのが、交渉の天才、当時の任天堂社長こと岩田聡だった。岩田聡はさくまあきらの感情をなだめ、おそらくは予算や制作スタジオといった細々とした問題も整理し、『桃鉄シリーズ』を再始動できる道筋を作った。それが2016年12月22日発売『桃太郎電鉄2017立ち上がれ日本!』となる。
 Wikipedia情報だが、この時の『桃鉄』を制作したのがヴァルハラゲームスタジオ。元テクモの社員や元ハドソンの社員が合流して結成された会社だ。代表作は『ニンジャラ』。『桃太郎電鉄2017』は販売は任天堂だが、実際の制作はヴァルハラゲームスタジオ。コナミは権利料を徴収しただけで何もしていなかった。
 『桃太郎電鉄2017』発売後のインタビューで、さくまあきらは「岩田さんに恩返ししたい」と語っている。岩田聡は2015年に死去し、『桃鉄』の発売を見届けずだった。どうやらファック・コナミも心を入れ替えたらしく、コナミ側から「もう1回チャンスをいただけませんか」というアプローチがあったらしく、ここでようやく正式にコナミによる『桃鉄』の制作が始まった。

 そうした合間の期間に、土居孝幸がチームを離脱し、「桃鉄」そっくりのゲーム『ビリオンロード』を作ってしまった……というのが経緯のようだ。こうした経緯があり、最新版『桃太郎電鉄』はメインキャラクターデザインが一新、特に土居孝幸をモデルにして生まれたキャラクター、貧乏神は完全に別キャラクターに差し替えられた。
 という以前に、『桃太郎電鉄2017』も多くのイラストレーター参加で土居孝幸の存在感はすでに薄くなりかけていたが。
 『桃鉄』チームと土居孝幸の間にできた確執がどういうものかは、さすがにわからないが、どうやら難しい局面に入ってしまったかも知れない。なにしろ土居孝幸のしたことは「名店の秘伝スープを盗んで、ライバル店でそっくりのものを作ってしまった」みたいな状況だから。そう簡単に元通り……というわけにはいかない。
 しかしよくわからないのは、どうして『ビリオンロード』なんて作品を作ってしまったのだろうか。バンダイナムコ側にもゲスなプロデューサーがいて、「うちで桃鉄作りませんか」みたいな立ち回りをした人がいたのだろうか? それとも土居孝幸の持ち込み企画? 真相はわからない。
 この辺りの経緯は当事者同士の話なので、触れぬようにしよう。

 こういった経緯で『桃太郎電鉄~昭和 平成 令和も定番!~』には土居孝幸が参加しないことになり、キャラクターが全面的に刷新された。私は新しいキャラクター達はかわいいので、最初に見た時からお気に入りだった。現代的でかわいい桃太郎や夜叉姫はとても気に入っている。
 どうやら世間では、「ゲームデザイナー」が誰かより、「キャラクターデザイン」が誰か……を気にするタイプの人が多いようだ。そこまで土居孝幸キャラクターのボードゲームを遊びたければ『ビリオンロード』があるので、そちらをお勧めしておこう。『ビリオンロード』の中身はほぼ『桃鉄』なので、同じように遊べると思う。

桃太郎電鉄 ゲームの感想

 ゲーム本編の感想。基本的には過去に発売された『桃鉄』シリーズとなんら変わりない。マップ構造もほとんど変わっておらず、やたらと赤マスの多い東北の路線や、南に向けた飛行機のルートに黄色マスが多いといった特徴もこれまで通り。
 変わったところと言えば細かいところ。
 まず目的地が聞いたことのない土地、地名ばかり。「え?それどこ?」みたいな地名がたくさん挙がり、驚く。目的地として取り上げられると知名度が一気に上がるというか、プレイヤーがその土地の名前と場所を意識し始め、記憶するようになる。そうした、今までは無名だった地名に光を当てよう……という意図もあるのだろう。

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 各駅の物件は大きく変わっている。これも細かい変化だ。過去作では収益率100%物件は珍しいほうだったが、今作では100%物件はそこそこあり、それどころか200%や300%物件も登場してくる。ゲームが始まったらまず押さえておきたい物件だ。
 物件の内容も、特に関東地方周辺になると、最近の流行や世相を反映した物件がたくさん登場する。こういうところでも、時代感を感じさせる作りになっている。

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 驚いたのはイベント中に出てくるイラストの豊富さ。毎年定番イベントとして出てくる食品日本一を決めるイベントや、季節物農産物が副収入をもたらしてくれる時は金太郎が登場する。憎たらしいスリの銀次もやたらとパターン豊富。カードを使った時にも出てくるイラストもあるのだが、それはまだほとんど確認ができていない(使うのは急行系カードばかりなので)。
 今作の特徴として、歴史人物が協力してくれるイベントが時々挟まる。ただ登場するだけではなく、何年頃に活躍し、何をしたかという解説が少しある。今回は「遊ぶだけではなく地域とその名産を覚えよう」という教育的意図があるのだが、こういうところでもプレイヤーに教養を与えようという意図が見えてくる。遊びと教養はひと連なりになっていたほうがいい。

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 絵を入れることは、「ただデータのやりとりをしているだけ」というゲームから、より視覚的になり、誰にでも状態や状況がわかりやすいエンターテインメントに変える力を持っている。文字がざーっと流れていくだけだと、だんだん追いかけていくのも面倒になるが、絵がついただけでパッと「あのカードを使ったな」ということがわかる。ただのオマケ的な絵であっても、添えられているとインパクトが大きい。
 こうしたボードゲームであっても、やはり小さな絵は入れることが大事だ、ということがわかる。

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 これはプレイヤーによる……という話だが、救済措置が増えたような印象がある。というのも赤マスに乗った時に、何かしらで救済されることが多かったような印象がある。記念仙人やカエルが登場したり。赤マスに乗ったのに、マイナスされずにカードがもらえたりする。
桃鉄 でもこれはどうやらその時々のプレイによる……というものらしく、どうやら私のプレイ中はたまたま運がよかっただけらしい。
 一方では貧乏神のえげつない攻撃もあり、借金をサイコロを振って出た目で倍にされてしまう……というのもある。
 それが大変といえば大変なのだが、すると頻繁に徳政令カードを渡されるし、福の神もわりとよく出てくる。リカバリーがそこまで大変じゃない。
 むしろ1位独走状態にこそトラブルは多く、私はゲーム中、何度もスリの銀次で全額持って行かれる……ということを経験した。いきなり政府に土地を没収されたり、なんだかよくわからないトラブルで物件が焼失したりと……とにかく1位はトラブルが起きやすいよう設定されている。
 1位と最下位への罰則は多いが、一方でリカバリーもしやすい。そういうバランスで作られている感じがあった。

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「線路上のウンチが消えました!」
 おそらくゲーム中もっともインパクトある台詞。子供が喜びそうな下ネタは相変わらずだ。

 私としては前作の『桃鉄』がニンテンドーDS版。あの『桃鉄』はDSを閉じるとそのままフリーズ、ゲーム進行不能になるバグがあったんだ……。(「技術のハドソン」はどこに行ったんだ)
 あれからだったので、ざっくり10年ぶりだった。10年ぶりと聞かされると、「ああ、そんなにか……」という気になる。
 最新版は細かなアップデートがたくさんあるが、基本的にはこれまで通りの『桃鉄』。サイコロを振り、全員で目的地を目指す。
 戦術も今まで通りの手法が通用する。収益率の高い物件は、目的地ではなくても買っておく。貧乏神を付けられないようにゴールから3位以内に入っておく。どうしても目的地にたどり着けそうにない時は、3位以内入りつつ、次の目的地に当たりを付けて準備しておく。余裕があれば急行系カードを集めておく。パトカードや追い払いカードなどは保険として1枚ずつ持っておく。
 マップの全体構造や赤マス、黄色マスの位置もほとんど変わっていないので、これまで通りに進行できる。
 ニンテンドーSD時代に出ていた『桃鉄』は世界編であったり、関東地方に特化したものや東北に特化したもの、と新マップが導入されていた。それに較べて、どちらかといえば最新版『桃鉄』はこれまでどおりの内容になっている。
 だからこそ「定番」がタイトルについたのだろう。『立ち上がれ日本』からは4年、その一つ前、ハドソン倒産前の『WORLD』からは10年。それだけの年数が経っているから、そろそろ「桃鉄が初めて」というユーザーもいるだろうし、「桃鉄は数年ぶり」というユーザーはもっと多いだろう。初代が1988年だから歴史は32年になる。ファミコンやスーパーファミコンで遊んだ、という十代の少年少女はすでに誰かの親。世代を越えた話題になる。そういうユーザーに向けて作品を作ろうと思ったら、その作品独自の新規要素を充実させるより、むしろ「定番」の部分を分厚く作って提供したほうがいい――そういう判断だったのだろう。

 個人的な心象でいうと、「ああ、やっぱり面白いわ」ということだった。この一言に尽きる。いつものようにサイコロに念を込めてゲームを進行させていく。目的地にたどりついたらやっぱり嬉しい。高級な物件が変えるようになるとまた嬉しい。いつもの感覚が戻ってきた。
 それにグラフィックが綺麗になった。現代的なHD画質になって、ニンテンドーSDの頃よりも絵が見やすいし、文字も見やすい。当たり前の話だが、ここまで高精細な『桃鉄』を見るのは初めてだから、なにか感動のようなものがある。
 今だから気付くこともある。
 貧乏神がいるから最下位になりたくないという心理が働くし、他プレイヤーからするといつでも貧乏神をなすりつけられる不安がある。1位状態でもキングボンビーが一度付けられるとあっという間に転落する。はっきりと貧乏神がゲームの基軸となっている。プレイヤー同士がなにかアクションを起こすのではなく、起こされることを回避することがポイントとなっている。貧乏神という仕組みがあるから、「目的地を目指して物件を買うだけ」というリズムが狂わされ、駆け引きが生まれる。
 なるほど、そういうメカニズムだったのか、と今なら気付くことも多い。やっぱりよくできているな、楽しませるための仕組みがきちんとできているな……と感心する。今作はある意味で今まで通りな内容として作られているから、その仕組みがはっきりとわかる。

 最新版『桃鉄』はある意味、今まで通りの、何の変哲のないスタンダードな『桃鉄』だ。でもむしろ今から『桃鉄』を始めるのに一番相応しい。一番取っつきやすい作品ではないかと思う。新しいユーザーに向けて、あるいは子供の頃遊んで以来という「懐かしい」というユーザーに向けて。そのために作られた新しいスタンダード『桃鉄』ではないか。
 ちらっと思うのは、シリーズ監督のさくまあきらが「終活」を意識した発言があったこと。もしも後に自分が関わらない、年齢的にもう無理という時代が来た時に、後のスタッフに向けても基準になるものを出しておこう……と、そういう作品でもあったように感じられる。
 スタンダードな『桃鉄』だから万人が遊んで楽しい。万人にお勧めできる。だからこその大ヒット作品になったのだろう。この作品が、これからも続く『桃鉄』シリーズの新たな歴史とならんことを!


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