野口良平「幕末人物列伝 攘夷と開国」 第一話 大黒屋光太夫(その1)
第一話 大黒屋光太夫 (その1)【1】
江戸時代の暦では、天明2年12月13日(西暦1783年1月15日)の巳の刻(午前10時)のこと。
あやしい雲行きのなか、伊勢白子の港から一隻の堅牢で大きな和船が江戸をめざして出帆した。
船の名は神昌丸(しんしょうまる)。
千石積みで全長約27メートル、高さ約25メートルの帆柱1本をかかげるその弁才船〔列島内の海運専用の帆船〕の乗組員は、総勢17人。
乗組員と積荷の無事運搬を託された船頭の名を、大黒屋光太夫といった。このとき32歳。