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私信 郷愁

あなたは
「一人旅に出ようと思う」と唐突に告げた
電車を降りる駅だけが決まっていて
何処に行くかもわからない
これまでの旅とは異なることを語り始めた

これまでの旅は
行き先から
交通手段から
観光ルートも
宿泊先まで
同伴者の手取り足取りの手配に
ただただついて行くだけの
「楽しい旅だった」と語り続けた
 
後日
あなたは
「一人旅」が頓挫したことを知らせてくれた
行くはずだった都会で
買うはずだったお土産を
何処で買うのがいいのか尋ねたけれど
私は「知らない」と応えた。
 
早朝
あなたは
「緊急事態」とメールを寄こして
「早寝をしていてよかった」と
「一人旅をしているところではなかった」と
淡々と
心情の結末だけを伝える
 
「どうした?」と尋ねるけれど
「ありがとう」とだけ文字を並べて
連絡が途絶えた
 
それからあなたは
深い時間の空間で
自分語りを挟みながら
面識のない人達と昭和のテレビ番組を語らい
面識のない人達の精神状態を丁寧に慰め
自嘲しては「・・(笑)。」を繰り返していた
 
それからあなたは
寝ていないであろう早朝の空間で
世情を嘆き
政治家を嘆き
著名人の言論を嘆き
地元の大型店舗で流れる放送に
苦情の電話をした、と
質問の内容から店舗の応答まで
詳細だけれど独りよがりの
今となっては周回遅れな報告をしながら
「電話をしましょう」と
仮想空間を鼓舞して締めくくっていた
 
変わらず元気なあなたを
仮想空間に確認する

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