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仕事を変えまくると殺されかけるよ

やる気ない 酒が飲みたい バタフライ

筆者は昔から粘り強さ、我慢強さ、根気強さが欠けている。長続きしないのだ。すぐにくじける。すぐに弱音を吐く。それから、楽な方、安易な方、気持ち良い方へとすぐに流される。ライクアローリングストーンです。

例えば、数学。参考書はたいてい因数分解からはじまる。何度も、この一冊をやり遂げてやる!と決意はするものの、因数分解の章を終えた時点でギブアップ。この決意と挫折が幾度となく繰り返されるので、因数分解だけ詳しい。

例えば、タバコ。筆者は今まで20回は禁煙している。しかし、禁煙とは最初で最後でなければならないから、正確に言えば禁煙したことがない。これが最後の1本と決めて、残りはすべて水の入った缶に捨てるのだが、数時間後にはニコチンが切れて、水浸しの煙草を拾い上げて乾燥させて吸う。

例えば、酒。酒は飲むと気持ちが良くなるからやめられない。しかし、勢いがついて飲みすぎると記憶が曖昧になる。というより、飛ぶ。これは非常に恐ろしいことで、気付いたら隣の県の見ず知らずの駅のベンチでビールの缶をにぎっていたこともあるし、人の気配で目を覚ますと同じベッドで知らない外国人と寝ていたこともあった。

そして、職業。筆者は他人に怒られることが苦手で、他人の顔色をいつも窺がっている。にもかかわらず変な強情さと正義感もあって、よく意見の食い違いが起きる。なおかつ、心が折れるのも早いからすぐに仕事を辞める。全然長続きしない。困った、困った。

このような内的要因、プラス世界の様々な外的要因がバタフライエフェクトを生じさせ、つまり、大風が吹けば桶屋が儲かる的な連鎖反応で、最終的に筆者はボコられた。以下、体験談。

水着

就活を したら負けだと 思ってる

筆者は大学時代、就職活動を一切しなかった。興味がなかった。授業やゼミを休んでまでカラスのようなスーツを着て汗だくになりながら、自分で思ってもいないおべっか、偽りの自己PRを書き連ねた履歴書、エントリーシートを抱えて、作り笑いを浮かべながらありもしない明るい未来を人事担当の前で述べるという一連の作業を想像するだけで鳥肌がたち、冷汗が出た。
 
だからといって勉学に励んだ記憶もない。適当に単位を取り、適当に卒論を書き、気付いたら卒業証書を携えて大学の門を出ていた。

パリピ


千鳥足 パリピと僕と ハト、カラス

卒業後も大学時代から続けていたアルバイトをそのまま継続。大阪のいちばん大きな繁華街にあるクラブ、すなわちパーリーピーポーたちがアホみたいに踊ってナンパをする大きな四角い箱の中で金を稼ぐ。筆者は酒が大好きであり、業務中に客と一緒になってゲラゲラ笑いながらテキーラやシャンパンをガブガブ飲んだ。タイムカードを切って千鳥足になりながら外に出ると、酔った客が吐いたゲロを清々しい朝の日差しを浴びながらついばむカラスやハトがたくさんいた。

だいたい筆者は酔っぱらうとピンクな気分になって仕事帰りの朝っぱらからピンクなお店に行く。朝方までいるキャッチに連れられてキャバクラで鼻の下を伸ばしたり、ヌルヌルマットの上で柔道をしたり、片言のオネエサンに引っ張られて愛の国際マッサージを施してもらったりした。

ばー

カクテルの レシピも知らぬ バーテンダー

そんな生活を続けているうちにある日、大学時代の友人から一緒にバーを経営しないかと誘いがあって、突然バーの店長になった。クラブは辞めた。バーの客はあまり金は持っていないが酒はたくさん飲みたい大学生ばかり。可哀そうなので安い値段で飲ませてあげていたら店の赤字がどんどん膨らんで、怖くなって閉店した。無職になりました。 

工場

自動車を 作る前から 戦力外

家でユーチューブを観ていたら期間工(住み込みの自動車工場の派遣)が熱い!という情報を得たので、応募してみたら面接もなしにいきなり受かった。リュックにパンツとか靴下とかを詰め込んで愛知県にひとっとびした。狭い寮が与えられて、よし頑張るぞと思った矢先、自分は手先が見事なまでに不器用だということに気づいた。ドリルやらボルトやら工具を渡されて、模型を組み立てる研修中に工場から戦力外通告を受け渡され、わずか一週間で帰宅した。ちょっと長い社会科見学。寮の飯はうまかった。ごはんとみそ汁が食べ放題だった。給料日に口座を開いてみるといろいろ差っ引かれて2500円しか振り込まれていなかった。無職になりました。

猫かぶり 塾の先生 ヘイヘイヘイ

お金がほとんど底をついて、途方に暮れかけていた。スマホで求人サイトを観ていたら、新規開校の大学受験専門塾の先生の正社員を募集しているのを見つけた。藁にもすがる思いで、自分があれほど嫌悪していた見掛け倒しの自己PRを書いて、猫を10匹くらいかぶって面接を受けたら向こうはまんまと筆者を採用した。給料もそこそこ良い。まだもらってもいない給料の使い道をあれこれ想像してニヤニヤした。ピンクの店。夜の店。酒。道のハト、カラス。待ってろ。すぐに行くからね!

塾

筆者は毎日朝7時から、近辺の高校の前でチラシ入りのティッシュを配った。午後からは指導可能な先生がいない科目をすべて付け焼刃で生徒に筆者自らが指導した。意外なことに生徒からの筆者の評判は良かった。生徒曰く「わからないところを懇切丁寧におしえてくれる」と。とても嬉しくて指導に熱が入った。しかし、オーナーに、「指導に力を入れるより集客に力を入れろ。あんなに丁寧に説明しなくても、参考書のここにこう書いてあるからこう、で済む話じゃないか。生徒に長い時間をかけるのではなく、集客に集中しろ。君の塾じゃないんだから私の言うとおりにしろ。集客!集客!!」と言われ筆者は怒りと落胆で次の日に塾をやめた。この塾の先生の経験がのちに、ボコられのきっかけを産む。無職になりました。

自堕落

僕ニート 朝な夕なに ガブガブよ

ニートというのは最高なもので、何時に起きても、何時に寝てもよい。オーナーから振り込まれた最後の給料で毎日一番近くのコンビニで酒をたくさん買ってきて、骨が曲がりそうなほどリラックスした姿勢でガブガブ飲んだ。曜日の感覚もなくなった。

ある日財布を見ると2,000円しかなかった。筆者は振り込まれた給料はすべて口座から現金でおろして財布にしまう。つまり、自分の全財産はあと2,000円しかないのだ。酔いがさめた。やばい。どこかアルバイトが決まって働きだしたとしても、給料日は翌月のはずだ。どうしよう。ピンと閃いた。夜のお店なら日払いで給料をもらえるのではないだろうか?閃きは当たっていた。案の定、求人サイトで近くのキャバクラが給料即日OK、交通費支給あり、でボーイを募集しているではないか!

面接に行くと、チンピラがそのままおじさんになったような風貌の「代表」と称する人が、筆者に電話番号と住所をメモ用紙に書かせ、その場で採用になった。「明日からお前の持ってるスーツ着てここに来い」

とりあえず生活費を稼ぐあてが見つかったことに安堵して、コンビニで酒を買って飲んですぐに寝た。

キャバクラ

キャバクラだ そこで私は 巡り合う

初出勤。昨日の代表とは違う店長と呼ばれる人に「ああ、よろしく」と言われ挨拶もそこそこに仕事は始まった。と言っても普通のアルバイトや正社員のような研修などは一切ない。夜の仕事はまあそんなものであろう。ほかのボーイの見よう見まねでテーブルの氷を交換したり、キャスト(店の女の子)や客におしぼりを渡したり、伝票を持って行ったりと特に難しい技術も何もいらない。あっという間に時間は過ぎて、その日の給料プラス交通費6,500円を受け取り、送りの車(キャストやボーイを送迎するアルバイトの車)で自宅まで送ってもらって、寝た。

マジ天使 言の葉ごときで 表せぬ

何日か出勤していくうちにキャストの顔と名前を覚え始める。というより、顔と名前を覚えなければ仕事に支障が出るので頑張って覚えた。とびきりの可愛い子と、「個性的」な子はすぐに覚えられるのは当然で、残りの有象無象はあとからという順番だ。英単語を覚えることに近いかもしれない(キャバクラのキャストは皆可愛いと勘違いされる方もおられるだろうが、念のため言っておくとそれは幻想である。たしかに、高級店や有名店であれば美人ぞろいということもあるかもしれないが、人手不足の店は「個性的」な子でも迷わず採用する。つまり高い金を払って「個性的」な子と酒を飲むというファンタスティックな展開の可能性もあるので要注意!)。

すべての男性は女性に弱く、筆者は男性であることから、筆者は女性に弱いという三段論法が必然的、演繹的に成り立つ。筆者は店のとびきり可愛いキャストのA子に恋をしてしまった。彼女の容貌を具体的な言葉で表現することは難しい。なぜなら、世の中には「個性的」な方々を形容する語彙は無数にあれど、美しさを表す言葉は、可愛い、綺麗、美人の三つくらいしかないからだ。悲しいね。まあ、100人が見たら98人は可愛いというようなキャストだ。どうにか話しかけたい、仲良くなりたいと思った。しかし、筆者はイモで恥ずかしがり屋でコミュニケーション能力がないので、あのナンパ箱の男たちのように気さくに話しかけるということができない。困った。

天使

どこかから ラッパの音が 聞こえます

幸運の女神は存在する。ある日、A子がついている客の席に呼ばれて一緒に酒を飲むという機会に恵まれた。A子と金払いのいい客に酒をすすめられた筆者は天国の気分である。大好きな酒、大好きなA子と一緒。しかも金はいらない。客としてこの店に来れば1時間10,000円はかかる。一方筆者はA子と(目の前に邪魔な客はいるが)飲んで、しゃべって、帰るときには給料までもらえる。有頂天になってアホみたいに飲んだ。筆者は酔うと口がよく回るようになるらしい。らしい、というのは次の日出勤したときにA子に、昨日はとても楽しかった、と直接言われたからだ。その時からA子と会話ができるようになった。うれしい。と同時に、店長から店にいる間の禁酒命令を言い渡された。理由は、筆者が昨日酔っぱらって客の前でA子に求婚し続けたからだそうだ。覚えていない。悲しい。

クリスマスも近い12月、A子は筆者にクリスマスプレゼントをねだった。喜びに我を忘れて翌日、百貨店に行き、口紅を買った。筆者は様々な夜の蝶に貢いできたのでコスメブランドに詳しい。クリスマス当日、プレゼントを渡すと、「冗談で言っただけなのに本当にもらえるなんて思ってもみなかった。うれしい」と言われ、またしても天国にのぼりかけた。その場で包みをあけて、すぐに使ってくれた。とてもかわいい。こちらを向いて「似合うかな?かわいい?」と尋ねる一つ一つの仕草がかわいい。顔がかわいい。そしてさらに、幽体離脱しかけた筆者に腕を絡ませ体を寄せてこう言った。

「うち、大学生なんだけどレポートやってくれない?塾の先生やってたんだよね?」

幽体離脱した。

意識が天界から身体に戻ると、指が勝手に激しいフリック操作をしながらスマホでレポートを書いていた。出勤してA子にレポートが書けたことを伝えると、ラインを交換して今ここで送ってくれという。かくして連絡先までゲットできた筆者の脳内ではドーパミンとアドレナリンが多量に分泌された。パチンコで大当たりが10連チャンしたときよりも出た。気付けば、A子の一学期分のレポートすべてを書いていた。足せば自分の卒業論文より長かったはずだ。

年も明け、バレンタインが近づく。筆者はチョコレートをA子からもらえる自信があった。確信があった。今ではA子と気兼ねなく話せるほど筆者は成長したのだ。バレンタイン当日、チョコレートはもらえなかった。次の日ももらえなかった。だが、筆者は動じない。なにせ、キャストとボーイの恋愛関係はこの業界ではご法度なのだから。A子も苦しんでいるに違いない。恋愛はいつの時代もいばらの道なのだ。

バレンタインが過ぎ、A子は筆者をご飯に誘った。休みの日が合ったときに行こうというのだ。やおよろずの神々に感謝した。かちどきの声を心の中であげた。ナポレオンの気持ちがわかる。アレクサンダー大王の気持ちがわかる。手に取るようにわかる!わかる!ついに予定が合って、当日待ち合わせ場所に行くとA子となぜか店長もいた。しかし、筆者は動じない。繊細かつ人間の機微を敏感に感じ取ることのできる筆者は思った。A子は筆者と二人で過ごしたいのだ。しかし、二人の関係が店にばれてしまったらお互いが不利益を被る。そこで、単なる店の従業員同士の飲み会という形で店長を招き、店側の警戒心を払いのけようとしてくれているのだ。なんと心の優しい女性。なんと賢い女性。筆者に今まで恋人ができなかった理由がわかった。A子に出会うためだったのだ。筆者はひざまずいて天に感謝申し上げたかった。

A子への愛は指数関数的に大きくなった。店にくる客がすべて敵に見える。こいつらは酔っぱらったはずみで、いかがわしい言葉をA子に投げつけたり、いかがわしい視線をA子に投げかけたりする。これでは、A子の心がすり減ってしまうではないか。傷ついてしまうではないか。筆者はA子を守ろうと心に決めた。耳を鋭敏にし、目を光らせ、少しでもA子の気分を害する言動、あるいは、そのそぶりを見せるやいなや筆者は客をにらみつけ、テーブルのそばにぴったり張り付いて威圧した。A子は専属のボディガード兼メンタルケアカウンセラーが見つかってさぞ心強かったであろう。

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あれれのれ?なんだか雲行き あやしいぞ

店の営業が終わり、送りのドライバーのおばちゃんと会話していると聞き捨てならない発言を耳にした。店長とA子は付き合っている。時が止まった。嘘だ。そんなはずはない。A子は筆者とともにいばらの道を歩き、同じ船に乗る生涯の伴侶なのだ。これは単なる根も葉もない噂、あるいは、A子のクレヴァネスとカインドネスから生まれた筆者をかばうための嘘が歪な形でおばちゃんに伝わってしまっただけのことなのだ。人は運命の相手を生涯愛し続ける。A子の運命の相手は筆者である。ゆえにA子は筆者を生涯愛し続ける。この堅牢な論理を崩すことのできるものはいない。

筆者は気分が表情に出やすいらしい。おばちゃんとの会話の次の日の営業は般若のような形相で働いていたらしい。見かねた売り上げ上位のキャストB子は筆者を席に呼び、尋ねた。
「なんでそんな怖い顔して働いてるの?」
「えっ、それはすみません。ちょっといろいろあったもので」
「何があったか知らないけど、お客さんもいるのにそんな怖い顔のボーイがいたら、楽しく飲めないじゃない」
「ほんとうにすみません。気を付けます」
「よかったらお酒飲んでいきなよ」
「ありがとうございます」
シャンパンをついでもらった。どんな時でも酒はうまい。そして、筆者は酒に酔うと口が軽くなる。
「で、何があったの?」
「なんでもないです。ささいなことです」
「だったらここで打ち明けちゃいなよ」
「A子さんと店長って付き合ってるんですか?」
 席の空気は凍り付いた。
「それが本当だとしても、筆者くんに何の関係があるの?」
「僕はA子さんが好きなんです」
「あー…」
「絶対に店長やA子さんに言わないでくださいね」
「大丈夫!わたし口かたいから!」
 
B子の口も軽かった。

家で寝ていると店長から電話がかかってきた。
「お前、今日B子になんか言っただろ」
「言ってません」
「ウソつけ!なんも言ってないのにお前に俺がこうやって電話かけるわけないだろうが!明日絶対に出勤しろよ。落とし前つけてもらうからな!」
落とし前、という単語を生きている間に実際聞くとは思っていなかった。てか、これで最後であることを願う。

バックレを決意し、次の日から無職になりました。

パンチ

再ニート 外に出てみた ボコられた

家で夕方から酒を飲んでいると、インターホンが鳴った。N〇Kかと思って無視していたら、誰かが外でインターホンを連打し続けている。察しがついて、怖くなり、布団にくるまっていると店長の声が筆者を呼んでいる。さらに無視すると、ドアを蹴り始めた。20分程うち震えていると帰っていく気配がして音は止んだ。

数日続いたインターホンとドア蹴りの嵐が止んだので、久しぶりに深夜、外に出て定食屋まで歩いて行くと中から店長とその部下が出てきた。すぐに目が合った。筆者は陸上部だったので足が速い。しかし、筆者は予期せぬ出来事に遭うと体が硬直する。店長は筆者の正面に立ち、部下が後ろに回り逃げられなくなった。店長は言った。
「お前、よく外に出られたな。俺たちに遭うかもしれないって少しも思わなかったんか?」
数発店長に顔面をぶん殴られ、そのままワゴン車に引きずり込まれた。ワゴン車の中でさらに殴られる。

「お前、客の前でなんてこと言ってんだよ。俺とA子が付き合ってる?そんなわけないだろうが。そんなこと聞かされた客はうちの店にまた来たいと思うか?いなくなった客が落としていくはずだった金お前が賄えるのか?あ?」
「無理です。すみません」
「てか、お前、A子の彼氏でもないくせに気持ち悪いんだよ」
「おっしゃる通りです。僕がアホでした。すみません」
「すみませんじゃねーよ!オラァ!」
自分はいつ解放されるのだろうか。このままワゴン車は発進し、ロープでぐるぐる巻きにされて海に突き落とされるのだろうか?それとも、山中のシャベルで掘った深い穴に生き埋めにされるのだろうか?さらに殴られガタガタ震えていると、パトカーのサイレンが聞こえた。聖母の加護を感じた。胸の内で南無阿弥陀仏を唱えた。筆者の念はパトカーに届いた。

「すみませーん。○○警察の者ですが、今通報があって、店の駐車場で人が殴られてるって」
 店長と部下は、何も知りません、僕たちはただ車の中で談笑していただけです、ととぼけた。とぼけた二人の顔は邪悪そのものだった。あろうことか警察官は二人の大根演技に騙されかけている。
 筆者はこのまま警察に帰られては困ると思い、必死に訴えた。
「助けてください!今までずっと殴られていました!お巡りさんが帰ったらまた殴られます!」

筆者が警察署で取り調べを受け解放されたのは朝の7時。家に帰って鏡を見ると少しだけ目の周りに青タンができていた。

七夕

七夕の 真の由来を 知ってるかい?

後日、突然店に出勤しなくなった筆者を心配して、仲の良かったボーイたちが居酒屋で飲み会を開いてくれた。感謝。ボコられたあとのビールはうまい。うますぎる。よく口が回るようになってから、筆者は彼らに事の顛末を説明した。彼らはしっかりと筆者の話に耳を傾けてくれた。人の温かさに触れた。

そして、ボーイの一人が言った。

「筆者くん馬鹿だなあ。店長とA子はずっと前から付き合ってるよ。えっ、筆者くんホントに知らなかったの?めっちゃ鈍感。げらげら」

目から涙がボタボタとこぼれ落ち、テーブルの上に小さなせせらぎができ、やがて激流となって居酒屋を飲み込み、町を飲み込み、この世の善悪をも飲み込んで、宙に昇って涙は銀河となった。人はそれを天の川と呼び、夏になるとアホみたいな願い事を紙切れに走り書きして笹竹にぶら下げる。

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