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日記。
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2022年4月の記事一覧

犬意識

「人間は自然を対象として見ていますね」
「そもそも、対象を認識できるのは人間だけのようですね」
「そうですね。あ、そうです、それが意識というものなのかもしれません」
「動物たちは意識を持っていない」
「はい、意識を持っていない状態、つまり自己と対象との区別がついていない状態であるから、自然のなかに生きる動物は自然を認識することも自分を認識することもなく、すべてが一体となっているのです」
「人間は生

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🐓🐣

にわとりがさきだよ。
あたりまえだろ。
にわとりが、ひとりじゃさみしいから
たまごうむようになったのだ。
あたりまえだろ。

たまごがいっこぽつんとあって、
あ、にわとりになろ。
とおもって、
まずひよこが出てくるのが
意味わからんだろ。
もしたまごがさきなら、
ふつうにもりもり
たまごの形で大きくなって、
にわとりのすがたで
孵化するだろうが。

でもねおそろしいことに、
生物の歴史をかんがえる

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情けは人の為ならず考

このことわざがほとんど逆の意味で浸透しつつあるという話を聞きさもありなんと思う。

要因を考える。ことわざなのだから本意を知らなければ意味が通じないのは当然なのだが。
まず、このことわざの「ず」がたまたま現代語の「ず」の使い方と混同され、かなり曖昧な文意になってしまう点。

この文は「恩情は他者のためではない(いや、自分のためである)」と言う反語的な表現だが、現代語の感覚で読むと「恩情は他者のため

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自動修復

光の円盤をみるために二つ折りの電子機械を開く。
PCをメディアを再生する機械としてしか使えていない生産性のなさよ……生産性のなさよ……せいさんせいのなさよ……のなさよ……なさよ……さよ……さよ……よ……よ……

NASAよ……。高校に元JAXAの職員という人が講演にきた。先生が
「今日はJAXAの人が来るよ。すごいね」
って朝の会で言ったのを、クラスメイトが
「えっ……弱者……? 社会的弱者が……

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ぺろぺろまんじゅう

博物館で「すべすべまんじゅうがに」というとてもかわいい、つるつる、ぷっくりした蟹の標本を見ていたとき、私はぺろぺろまんじゅうの刑を思い出していた。

小学校の校長先生は「のだきら」と呼ばれていた。みずから呼ばせていた。名前はのだあきらなのだが、ドラキュラ伯爵のたぐい(?)で子どもの血を啜って生きているので、のだきらと呼びなさいとのことであった。
元々は、大きな声ではっきり話さないとのだあきらがドラ

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手遅れ

あのとき、憧れの対象だったのよ。
と、教えられたことがある。
ずっと、あとになってから。
手遅れ。

あとさきなく注がれるものを享受できるのは十代が最後だ。私はこの世にぼくのぶんはないと思っていた。涸れはてて私のぶんは残っていないと思っていたのに、あとから埋蔵金を知らされても。もうとりかえしのつかないことです。

りぼんでくるんであるのでも、
赤い毛糸でむすんであるのでもなく、
薄桃のゴム紐でぶら

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まんしん

とてもじぶん。
たくさん言葉も表情もできる日、ぜんぶがひとを傷つけている。明日はもう貝になろう。
かわいい犬は撫でたい。ひとのだからだまって見ているだけ。ほんとうはなでたい。でも犬はいつも見透かしたような顔をして遠くへ逃げてしまうので、わかった、今度はちゃんとするからと毎回思うのだった。
ああなんでこのからだ、こころ、一生おなじなのに。「こころ」という名前のこどもはたくさんいるのに、「からだ」とい

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ねたみ

猫が完成するときは必然だ。
ひとひとりと多少むきあって
やっとみえてくる
そのひとの必然性のようなもの。
生まれてからいままでを
ずっと包んでいる
光の暈のようなもの。
私淑するウルフの言葉を借りれば。

わたしも必然性がほしい。
絶対に、そうなることが
決まっていたようなこと。
しかも暗い呪いではなくて、
おぶってあやしていけるような
弟のような必然性。
地球の兄弟になりたい。

工事現場の音を

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骨と石と肉

鈍行から見下ろすひとさまの庭。
熱くて塀から溶けだしたような零れ花。
あれは八重である。
どこも似たような環状路には
長い車や短い車。
狭い道みち、小さい家いえの
模様に切りとられた日差しの絵。
のどかな昼にも救急車の赤。

骨を見た。
化石を買った。
化石屋がきれいな化石のことを「おさしみにみえる」というからである。
アンモライトの表面は
赤だの青だの緑だのと欲張り。
鱗や鱗のあとの肉のそらに。

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『abさんご』

『abさんご』

文芸部のころの文章を読む。
「なし遂げる」
「思いで」
「よぎなくされる」
とかいう
妙な漢字の開き方。
『abさんご』の影響である。

当時はワイドショーでこの部分がとり挙げられ、難解な文章を売りに販促されていた。多くの人が珍しいもの見たさでこの本を買った。
実験小説というのはそういうものだからそれでいい。浅識でまだ脳の柔らかかった私にはかなりの衝撃だった。(これが単に書き方のバリエーションであ

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カドを持って飲んでください

カドを持って飲んでください

ストローをさして飲む牛乳に「側面を持つと中身が飛び出すことがありますからカドを持って飲んでください」と長文の注意書きがされているということは、つまり、

「おたくの商品を飲んだら中身がストローから飛び出してきただろうが! ぴゅっぴゅって出てきて、オーダーメイドのスーツがだいなしだ!! 弁償しろ!」

というような、お客様からのお申し出があって、しかもそういった声が多数寄せられたので会議で発表され

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まっしろ

手に入らなかったものといわれてすぐに人の顔を思いあたるぼくたち。今日見た真昼の椿の白。

弓を射るすんぜんの肩のこわばり。膨らんで撓う月を隠す、雲は甘い。もしも狩人だったなら、暴力に無自覚なまま、自分の正義と正気を疑わずに、もっと自由に生きていけたろうに。

かんたんに、生きている人が許せなかった。こびりついたままの前髪をいやがりながら歩いて帰ったのは、許せなかったから。電車に乗ったらきっと、ぜん

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ひとり Sof

友達と一緒に食べようと思っていたアイスをひとりで食べることになったときのかなしさに似たかなしさが日々の根底にあり、もとから自分のためにしかないものですらそう思うことがある。
この服、
友達と一緒に着たかった。
この部屋、
友達と一緒に住みたかった。
この風邪、
友達と一緒にひきたかった。
この春、
友達と一緒に過ぎたかった。
この私、
友達と一緒に生きたかった。

一緒に食べるとおいしいね。
ほん

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洗濯槽洗浄

洗濯機が
自分で洗濯槽の洗浄をする。
お利口だから頼んだ。
七時間後の真夜中に
ぶんぶんうなる。
活発に洗浄し始めた。
しずかに!
みんな寝ています。

日付が変わってからぶんぶん。
近所迷惑だよ。
すぐにやめさせました。

夕方に洗濯槽をきれいにしようなどと思いはじめる私も悪い。手遅れすぎる。あとそもそも洗濯槽をきれいにしたいなどという欲望を持ったのも生意気。