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自己愛

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まとめ。
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2023年1月の記事一覧

ライナス

太陽で融けた剃刀、眉尻にあてがう。施術を受ける者はひだまりのベッドに仰向けにされ、目を閉じている。

刃が肌を擦る感覚が右手に伝わってきた。額やこめかみに余っている数十年分の表情の余波を左手でのばしながら、痛みだけを想像した。

痛くないですか。
ぜんぜん。
左手の甲に刃をおしあてて、剃った毛を拭う。毛は黒かったり白かったりする。

母が化粧箱から取りだした剃刀で、幼いわたしのもみあげを剃るのを思

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くるくるのいぬ

家の横から高架につきあたるまっすぐの道のずっと先のほうに、散歩される白い犬が見えた。犬は、飼い主に連れられて前に歩くのだけれど、ぼくたちのほうが気になるようで、一歩進んではふり返り、また一歩進んではふり返っていた。四足がすべてひとまたぶん前に進んだことを一歩として数えるならね。ふり返るのと歩くのを同時にするので、いぬはくるくる回転しながら遠くなっていく。

となりにあなたがいるから、いぬにはそれが

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壊れているけど、これ、とカッターを差し出してきたのはまだ子どものような若い男性社員だった。あの人の好みだと思った。

カッターの刃をしまうところに行き止まりがなく、どこまでもしまわれてしまう。やがて刃の根元が反対側から飛び出してしまう、危ない壊れ方をしているカッター。

開店直後、客が押し寄せる。会計に並ぶ客が列を長くしやすいように縦長の形をしているのかこの店はと思わせられるほどだった。

アイス

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アイスまきちらしロボ

ファミリーレストランに入った私たちはおのおの好きなアイスクリームを頼んだ。しばらくして給仕に来たのは猫の顔をしたロボットだった……顔と呼んだ場所にはディスプレイがあって、そこにまんまるの目と猫のヒゲと微笑みが映されているわけである。目のうえにちょんちょんと載せられてたまに上下に動くまゆげがとてもかわいい。身体は円柱状の骨格をしていて、三段にわけて商品を載せる台がついている。

このロボットは私たち

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雑煮

雑煮をもち帰りなさいと言われ、汁中の汁である雑煮という概念をどのようにもち帰るか想像がつかず、あの餅だけもって帰りますから、田舎でついて送ってもらった餅だけ、汁はじぶんで作ればいいですから、そのように言ったが聞きながされ実際にもち帰ることになった。

具はポリ袋に入れて厳重に閉じられ、汁についてはもともと醤油の入っていたペットボトルに注がれ、渡された。

それらを鍋に開け火にかける。餅も一緒に煮て

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鶏肉のパック詰めについて

もも肉のかたほうはもっちりとして、ももだなというかんじがする。もうかたほうはびらびらしていて腱が何本か残されており、ももらしくない。ももらしいほうが左で、ももらしくないほうを右にしてパックに詰め、ラップし、右側に値札を貼る。なぜならももらしくないほうは隠れてもいいからである。皮の面は内側に丸めこんでふんわりとパックに詰めてある。もっちりとしたもも肉の見せ方である。

むね肉は鶏の骨格で言うと上部が

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