くるくるのいぬ

家の横から高架につきあたるまっすぐの道のずっと先のほうに、散歩される白い犬が見えた。犬は、飼い主に連れられて前に歩くのだけれど、ぼくたちのほうが気になるようで、一歩進んではふり返り、また一歩進んではふり返っていた。四足がすべてひとまたぶん前に進んだことを一歩として数えるならね。ふり返るのと歩くのを同時にするので、いぬはくるくる回転しながら遠くなっていく。

となりにあなたがいるから、いぬにはそれがわかるのだと思った。あなたはここの人ではないから。私は犬や子どもに好かれないから。犬と子どもを一緒にしているわけではないけど。

犬がくるくるしているものだから、私たち人間二人はすぐに犬に追いついた。あんなに興味津々だった犬はあなたを近くで見たら怖くなったのか、固まってしまった。ほんとうに、肩をすくめて、口をへの字にして、険しい目のままおすわりをして動かなくなったのである。

いちばん近くで声が聞こえる夜、
もしもまぼろしだったら、
すべて夢だったらと怖がるぼくに
あなたは
死んだ犬だって今でも
あれ、ブルちゃん? ってかんじ。
(だからさみしくないの)
そう言った。
お互いがまぼろしになっても
強く想起し得る装置がある。
(ないほうがいいと
私の両親は言う)

薄暗くよどんだ部屋。
綻んだこの生活の陰から、
白い犬が待っているのが見えた。
まばたきをするたびに見えた。
あなたより先で待っているのが見えた。
なにのための涙か
じぶんでもわからなかった。
怒っているのでも悔しいのでもない、
もっと遠くにあって、
輪郭のなくて、柔らかくて、
静かな。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻