壊れているけど、これ、とカッターを差し出してきたのはまだ子どものような若い男性社員だった。あの人の好みだと思った。

カッターの刃をしまうところに行き止まりがなく、どこまでもしまわれてしまう。やがて刃の根元が反対側から飛び出してしまう、危ない壊れ方をしているカッター。

開店直後、客が押し寄せる。会計に並ぶ客が列を長くしやすいように縦長の形をしているのかこの店はと思わせられるほどだった。

アイスを棚に並べている私は、入り口の近くにいるものだから、客からこの並びようについて尋ねられた。
「すごい人ねえ、今日はなにかなの?」
「いいえ、なにかではないみたいですよ」
「はあ」
「すみません、私はここの従業員ではないもので……」
「あら、そうなのね。納めにきているのね」
「あっ、はい……」
私はアイスを納めにきたメーカーの人と見違われてしまった。ほんとうは手伝いにきただけのそこらへんの人なのだけれど。

仕事が終わり、借りたカッターを返しに事務所へ入ると、デスクに座っていた彼はわざわざ立ち上がって数歩あゆみでてくる。
「ありがとう。おつかれさま」
小生が低頭しつつ奉還した刃は、片手で受け取られ、私の胸ポケットから出てまだ暖かいうちに彼の胸ポケットにしまわれた。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻