アイスまきちらしロボ

ファミリーレストランに入った私たちはおのおの好きなアイスクリームを頼んだ。しばらくして給仕に来たのは猫の顔をしたロボットだった……顔と呼んだ場所にはディスプレイがあって、そこにまんまるの目と猫のヒゲと微笑みが映されているわけである。目のうえにちょんちょんと載せられてたまに上下に動くまゆげがとてもかわいい。身体は円柱状の骨格をしていて、三段にわけて商品を載せる台がついている。

このロボットは私たちのテーブルの横につくと、到底手の届かないところで一旦停止した。障害物があったためである。

このまえに私たちは店員に荷物籠のようなものを頼んだ。しかしそのようなものはなく、代わりにテーブルが一卓与えられた。私たちはそのテーブルのうえにおのおのの荷物を置いていた。

この荷物置き場のせいでロボットは私たちの席の横に来られなかったのである。ああ、これがあるからだね、と私たちはなんとなく眺めていた。そのときはまだ。

ロボットは、なにか悩んでいるようだった。我々も、四人それぞれいろいろと考えた。今商品に手を出していいものか、ロボットは商品を運んでいる途中であるような旨の音声をまだ流しているし。テーブルを避けてあげたほうがいいのか、しかし下手にこちらがなにかして、さらに困らせてしまっても。というか現役でウェイターをしているロボットなのだから、障害物がある場合は避けて客とある程度の距離まで近づけたらそこで配達完了とするとかそういう柔軟性もあることでしょう、なんてお利口なロボットなんでしょう、と微笑ましく眺めていた、そのときはまだ。

次の瞬間彼は意を決してテーブルに突っ込んできたのである。(なんで?)

あ、事故る。とひとりがつぶやいた。全員があ、事故るなと思ってから実際に事故るまでのあいだが刹那すぎてなにもできないまま、目の前で事故が発生するのを見ているしかなかった。

まずロボットの胴体がテーブルの角にがつんとぶつかった。それでもモータは動きを止めない。足だけが前に進み、一方で胴はテーブルに押される形になり、機体全体が大きく後ろに傾く!

ここでさすがに一番近くに座っていた者が手を伸ばして、倒れるのだけはかろうじて防いだ。この光景はかなりショッキングだったので、我々も無意識に「やばいやばい」「怖い」などとざわめいてしまい、それを聞いた店員が駆けつける騒ぎとなった。

「大変申し訳ございません、お荷物大丈夫でしたか」
この店員の対応は見倣うべきものであった。見るかぎりおそらく給仕のなかではいちばん偉い人なのである。ロボの暴走のほうが怖くて忘れていたが、よく見れば私たちが頼んだ四つの商品のうちひとつが倒れていて、とけたバニラアイスがロボットの骨格を伝って下っていく最中だった。

しかし、この店員にもロボの暴走を止めることはできない。ロボは店員の制止をふりきって突然その場で回転しはじめたのである。

私たちは声にならない叫びをあげた。遠心力でぶっ倒されたサンデーの器がかしゃんと音をたてた。店員はロボを抱きしめるようにしながら、
「ふだんはちゃんと避けるんですけど……」
と言った。

わたしたちは彼らが去ったあともしばらく言葉もなく、息を荒くしていた。これロボットの暴走の未来あるぞといういやな予感で満ちる胸。

代わりのアイスが人間によって運ばれてくるときには、まあもっと酷いことにならなくてよかったよね、あの動きはまきちらすつもりだったよね、ロボットも連勤で疲れてるのかもね、成人式のアルバイトとシフト変わったのかもね、などと笑って言えるようになっていた私たちだったが、近くの席に猫のロボットが料理を運びにくるたびに本気でひやひやしながら見守ったり、あんな大事件を起こしておきながら平気な顔して仕事している猫の顔がなんだか怖く見えてきたりし、落ちつかなかった。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻