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自己愛

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まとめ。
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記事一覧

白い酒

川沿いに建つマンションに吹き抜けの階段がある。その4階の踊り場に、子供を抱いて雨を見せている父親がいた。今さっきやんだ雨、遠くまで続く雲、ゆっくり閉塞していく町並みを見せているのだと思った。高いところから落ちたら死ぬ。でもお父さんがいるから大丈夫。

通り過ぎたあとで、あの父親が見せていたのは、同じ高さを走るこの電車だったと気づいた。私が乗っているこの電車を指差していたのだと気づいた。

いまはも

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いいことがあるよ!

たべっ子どうぶつTimeというものに気づいた。
たべっ子どうぶつのパッケージに描かれているキャラたちが登場するパズルゲーム。

ここ数年たべっ子どうぶつのグッズ、イベント展開をよく見かけるようになり注目はしていたが、このアプリに関してはすこし、おや、とおもうところが散見される。

しかしコンテンツというものは大きくなればなるほど無邪気に楽しむだけでは済まなくなってくるのが常。私も子どもではないから

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コーヒー

朝ごはんなにたべましたかと保育士に聞かれて「コーヒーだけのんだ」と答えたら連絡帳に「朝ごはん食べさせてあげてください」と書かれちゃったよ、と母に言われた。わがやでは小さな頃からコーヒーをのまされた。兄弟全員が、です。

そうして育ったわけだが、最近もしかしてコーヒーが溶媒となって摂取されるカフェインという物質が私の体にあまり合っていないのではないかと思うようになった。

そう意識するようになったの

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カービィ、ドーナツ

なにかこうふわふわ、ぽよぽよの
3月のおわりにしてはざらざらの、
ぐるぐるおなじところをめぐるだけの
文字みたいな音みたいな
まほうみたいなかたちのないもの
あらわしようのないこれのこと
信じているけどそれはべつに
わるいことじゃない
花のようなかおりがしたあとほっとする

むかしからこのじき、
にがいような、しぶいような
あじがたまにする
あじというか
あじみたいなかんじがする
これはなんなんだ

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よくいわれる

よくいわれる。
と、よくいわれる。

「ずるいですね」
「よくいわれる」

人に執着するとき、許せなさみたいなものがある。許せない、このままこいつを野放しにしておけない、ずるすぎる、そういう気持ちが根底にあることに今更気がつき、いままでのことすべて合点がいった。

だからなるべく言葉から変えていこう。呪いだけは唱えない。わたし、呪いません。はねが生えてきたらいいのにとおもう。光の輪が浮かんだらいい

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電子回路交換会

たんすの一番上の段には大事なものがしまってあった。父はそこから、手のひらに乗るくらいの、四角く、平べったいプラスチックのケースのようなものが何枚か、輪ゴムでひとくくりにされたものを取りだし、母となにか話している。たわむれに、幼い私の手にもそれが一枚渡された。

材質と形はMDやゲームボーイのソフトみたいで、表は透明、裏は色のついた半透明のプラスチックが合わせられている。内側の隙間にはなにか機械の基

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a tortoise's heart and the artificial circulation

(2023/08/11)

髪を切った女の人と一緒にヤン・シュヴァンクマイエルの個展にいく。わたしが映画 "Alice" のなかで一番好きなのは、小さな引き出しをあけたら中に閉じてない状態の安全ピンがぎっしり詰まっているシーン。そういういやな感じ、なんとなくいや〜なかんじがずっと漂っているのがその映画なのですが、シュヴァンクマイエル展もそういう感じでした。

展というか、ポップアップストアみたいな

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すずめ雀

麻雀に憧れがあった。
兄も父もじぶんたちはできるのにぼくには教えてくれなかったからだ。

最近、やろうと思ってはやめ、思ってはやめた麻雀のルールをもう一度さらい、やっとネット麻雀を打てる程度には理解した。

ただ、この先も点数計算や勝つための戦略などを学ばなければいけないとおもうとそこまでの気力はもうなかった。点数表を一生懸命覚えようとしてもできず、私って本当の意味で頭が弱いのかもとかなり落ちこん

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高校の授業中に焼き芋とサービスカウンター応援に呼ばれる。

隣のクラスに行ったら焼き芋マシンが勉強机に設置されてて、そこで焼かなくちゃいけなかった。教卓に一番近い席の女の子がその役目なんだが、今ちょっと席を外しているので応援がかかったのだ。使ったことがない機械で操作がわからなかった。「え、ここでやるの?」といいながら席につくが、そのクラスにだれも友達がいないので教えてもらえないし、なんか学級崩壊し

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にっぽんハム

2、3歳ごろの記憶で鮮明に覚えているものがある。まだ言葉を話せなかったが、大人がなにを言っているかはわかる、そういうときのおもいでである。

家が狭く、寝ているところと食べるところが同じ部屋だった。朝、布団で目を覚ますと、ちゃぶ台のうえに食べ物が並べられているのが見えた。いや、においがさきだったかもしれない、そのときから目が悪かったはずだから。食べ物のにおいがして目を開けて、実際にそこに食べ物があ

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そういえば

もうひとつのばしょで
さいしょに きめた こころみとして
はじさらし というか
自然主義 というか
そういうことで
ばらんすを とろうとしていた
というか
ひごろ そとにはだせない きもちを
よむものにして だそう、
そういうきもちが
こころみとしてね
あったのでした。

が(鼻濁音)
ほんとうに はじにおもうこと
ほんとうに くるしいことは
散文というか
じゅんすいな ぶんしょうでは
かけないこ

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おくすり

いつかおわりがあるというのは神さまの優しさだと思う。ぼくにもおわりがあるから、怖い、苦しい、悲しいことにもおわりがくる。この世でいちばん残酷な人間という生き物は役目を終えたあと、歴史や思いでになって透明の波だけが残ってしまいにはなにもなくなる。

たのしい、うれしい、ゆかいな時間にもおわりがくるけど、おわりがあるからすべて素敵なのだし、綺麗で面白い、地球に作られたものも人間に作られたものも、すべて

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なにものでもないあなたたち

めまぐるしく、祝いと呪いが押し寄せ、私は私でしかないというあたりまえを思い知らせる花々。そしてあなたたちにもなぜか、からっぽであることを求めていることにも、あらためて気づく。すべての荷物を降ろしてから来てほしい。

私は私でしかない、しかもからっぽの。
「ぼくはぼくという容れものに入っているけれど、死んだらどこにいくの、という怖さ」
わかるけれど、あなたはもともと容れものでしかないんだよ。中身がじ

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インストール

「もう考えるのやめなよ」
シャンプーに混ざって漂ってきたのは寝る前に舐めたキャメルのメンソールだった。馬鹿げている、うわがきをくり返すから子供のままで、ハードだけすり減ってやがて死ぬ。

朝の体調のわるさを知ってほしくて、ブルゾンの袖にすがりながら満員電車に揺られる。そうすればするほど悪化した。うしろめたい気持ちがあったからだ。
では、あの人の手にすべてを委ねて赤ん坊にもどったような心地だったのは

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