コーヒー

朝ごはんなにたべましたかと保育士に聞かれて「コーヒーだけのんだ」と答えたら連絡帳に「朝ごはん食べさせてあげてください」と書かれちゃったよ、と母に言われた。わがやでは小さな頃からコーヒーをのまされた。兄弟全員が、です。

そうして育ったわけだが、最近もしかしてコーヒーが溶媒となって摂取されるカフェインという物質が私の体にあまり合っていないのではないかと思うようになった。

そう意識するようになったのは数年前のこと。
ソウルメイトことツラちゃんが電話で教えてくれた。
「私はカフェインをのむとよくないんだよね。コーヒーはもちろんのこと、緑茶もあんまりだめなのよ」

そのころのわたしは、たまに、ねむいのに、寝ようとしてもむねがどきどきして眠れなかったり眠りについてもすぐ起きてしまうという、絵にかいたような自律神経系の症状があった。ごくたまに。

それで、まあ、神経はもとからおかしいわけだし、ほらどうせ不眠症とかなるんでしょうねこれから、体ってほんとうにわがままで困りますよね、とか思ってすごしていた。

しかしツラちゃんの言うことを聞いたあの日は、ちょうど思い出せるいつかの夜に、眠れなくて何度も目が覚める症状があった。そのいつかの日の昼ごろ、コーヒーを多めにのんだなあということも同時に思い出され、これってもしかしてコーヒーが原因なのかもと考えるようになったのである。

それから、コーヒーをのむときに自分の体、主に脳になにか変化が起きるかどうかをよく観察するようにしたら、飲酒の次くらいに変化があるということがわかってきたがそれはここ二、三年の話である。

幼児のころからコーヒーを飲んでいた私はコーヒーというものをただの「味」だと思っていた。コーヒーの味がおいしいからみんな飲んでいるのだと思っていた。しかし今更だが、コーヒーは一般的に明確な薬効をめあてに服用されているではないか。私は子供の時分からコーヒーを習慣にしすぎたせいでコーヒーの覚醒効果について無自覚だったがじつは、今までしらふの状態だと思っていた自分はコーヒーで完全にキマった状態だったのである。カフェインキメたガキが保育園でおままごとやおえかき、おうたに興じていたのである。

薬効に気がつかなかった理由は常飲していたために慣れたからというだけではない。それなら歳を重ねるほどカフェインに慣れて作用を感じにくくなるはずである。それが、今この歳になってカフェインをはっきりと感じるようになった、それはなぜか。

鬱というモードが実装されたからである。
いままであまりにも元気な自律神経系をしていた私の体はカフェインが入ったときも、入ってないときも、同じ状態といえた。
しかし鬱モードが実装された今、たとえば躁をプラス、鬱をマイナスとすると、普通に暮らしているだけなのにマイナス寄りに神経が傾くときがある。できごとに関わらず勝手に落ち込むタイミングがあるのである。

ここでカフェインを入れるとどうなるか。カフェインの効果はいわゆるアッパー系であり、マイナスに振れた針をすこしプラス方向に戻してくれる。この針がうまくゼロに近い位置で止まれば非常に快適に過ごせる。この程度の調整が効く範囲がいわゆる健康な範囲なわけで、世の中のだれもがこういった心の正負を感じながら生きているのだろうと私は推察している。

じゃあさ、コーヒーが持つ効果が出過ぎた場合どうなるんでい。針はゼロを通り過ぎてプラス寄りに傾く。

鬱の反対だから、元気でいいんじゃない? ともおもえるが、実際には元気ではない。なにごともバランスで、本当の意味で元気なのはゼロに近いときだけ。それ以外のときはどちらに振れても困ることが出てくる。

神経がプラスよりに傾きすぎると自分の場合、なにか不安でそわそわした気持ちになったりする。ざわざわ……そわそわ……どきどき……したりする。そんな状態で布団に入っても眠れない。

なるほどとおもう。
ツラちゃんはどんなだったんだろう。
どうなの、ツラちゃん。おしえて。

さいきんそれをくりかえしている、ちょっと愚かだ。自律神経の針でシャトルランしてる。

鬱だなとおもう……気持ちがしずむ。執着するものが得られなかったりこれから喪われたりすることの悲しさに無気力になる。

そこでコーヒーをのむ。ハッピー。

そのあと躁(※)が来る……どうだっていいことを心配したり、不安になる。宇宙のこと、自分自身のこと、生死について……。

(※)便宜上鬱や躁といった言葉を用いているが、これは精神病理上の鬱や躁といった用語とは別のものとご了承いただきたい。

ああいやだなあ。
酒も同じような効果を求めて飲むことがあるが、あれは効果が絶大すぎて体の調整機能が強く働き、あまりあとに残るような悪さはない気がする。脳はちゃんと破壊されている気はしますけど……どんどん頭がわるくなっているぞ。困ったなあ。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻