優しさの種類
冬が来る。
西別岳に雪が被り、今期初冠雪を記録した。
毎朝見る光景も、いつの間にか季節は移ろいでいく。
季節の変化と共に生活を変えていかなければならない今の暮らしは厳しくもあるがとても生きがいのある場所だ。
さて、SNSにも書いた通り10月末にラフィが体調を崩した。
一時はもうダメかとも思えたくらい症状は重かったが、今は歩けるようにまで回復した。
月末に手術を控え、根治はできないにしてもまたラフィと北海道の冬を感じたいと思っている。
ラフィが体調を崩している間も、変わらず仕事はあるし、変わらず他の犬達の世話もあった。
その間、他の犬達にも色んな変化があった。
ドンはいつの間にかラフィの側にいる時間が長くなった。
気づいたらラフィの近くに寝ている。
具合が悪くなったラフィを気遣うように、側に居続けていた。
彼の持つ繊細な心にとても感動した。
本当のところは犬に聞いてみないと何もわからないが、きっとドンにはわかっていたのではないかと思う。
そう思わないと理解できない行動が多かった。
普段はあまりラフィの側にいないドンが、この時期はいつも側にいた。
犬には言葉がない分、雰囲気や仕草などで異変を感じる能力が長けているのかもしれない。
以前も僕が体調を崩したりすると気づいたら犬達が側にいたり、楽はよく僕と一緒に体調を崩してしまうこともあった。
犬の持つ能力はすごい。いやもしかしたら僕たちの方が言葉に頼りすぎていてそうした感覚が鈍くなったのかもしれない。
僕たちが忘れかけてしまっている感覚を、彼らは強く持ち合わせているように思える。
ただ側にいる。それだけでラフィもとても心強かったのではないかと思う。
ドンの優しさに何度も感動した。
一方で楽もラフィの変化には明らかに気づいていた。
いつもはラフィをどかしてでも寝ていたベッドにラフィが寝ていると近寄ろうともしなかったり、少しでも食欲を出してもらおうと鹿肉をラフィにだけあげた時も楽だけは絶対に邪魔しようとはしなかった。
元々、楽は一番繊細な犬で、僕の感情の変化もすぐに読み取ってしまう犬だった。
そんな楽だから、きっとラフィの異変に気づいていたと思う。
そしてラフィをそっとしてあげることが彼女が選んだ優しさだったのだと思う。
最後にぼすけ。
ぼすけは何も変わらなかった。本当にいつも通り、ラフィの側にいる時もあればいない時もある。
寝ているラフィを飛び越えようとしたり、薬をおやつと勘違いして食べようとしたり。好きなところで寝て、好きにやっていた。
一見すると何も感じていないのかなとも思えるが、ぼすけもきっとラフィの異変には気づいていたのではないかと僕は思う。
ぼすけは一見すると何も考えていなさそうだけれど、実は人一倍感情の変化に敏感な犬なのだ。
こんなエピソードがある。
僕が訓練士時代、預かりで来たシャイな犬がいた。
ドンやラフィはその子が気になって仕方がない。
明らかに緊張して萎縮した雰囲気を出すシャイな子をドンとラフィは放っておけずいつも大丈夫?大丈夫?とついて回っていた。
ドンたちに悪気はないけれど、まるで腫れ物に触るような扱いをしていたせいで、そのシャイな子はドンとラフィにはますます心を開かなかった。
大丈夫?と言われること自体その子にとってはプレッシャーだったのだと思う。
しかし、ぼすけはいつも通りだった。
その子が邪魔だったらどけと言っていたし、ご飯を食べない時はその子のご飯を勝手に食べたりしていた。自分が遊びたい時に遊びに誘っていたし、誘いに乗らない時も気にすることはなく一人遊びをしていた。
何も気にしていないぼすけだったけれど、不思議なことにそのシャイな子が最初に心を開いたのがぼすけだった。
人間に置き換えるとわかりやすいが、人間でも極度にシャイな人がいた場合、変に気に掛けられてしまうと余計に心が離れていってしまうことがある。
逆に自分を何物としても見ていない普通の人の方が心を開きやすかったりするものだ。
ぼすけはそんな存在だったのだと思う。
変に気を遣わないその姿勢が、逆に心を落ち着けてくれていたのだ。
そしてその姿勢はラフィに対しても変わらなかった。
だからラフィも、ぼすけには変な気を遣わずにいられたのではないかと思う。
ドンは側に寄り添った。
楽はそっとしてあげていた。
ぼすけはいつも通りに振る舞った。
それぞれ全部優しさ。全部違うけど、全部優しい。
どれが良いとか悪いとかはない、それぞれの優しさがあった。
その全てを、僕は肯定した。
みんな優しいねと心から自分の犬が誇らしく思えた。
今回、とても大変なこともあったけど、そんな犬達の表情を垣間見れたことが嬉しかった。
人も同じだなと思う。
色んな優しさがあって、自分に合わないからと言って相手を責める必要もないし、自分が持つ優しさが相手と合わなくても自分を変える必要もない。
何だかそんなことを犬達から今回教わった気がする。
12月1日に手術がある。
先生はそんなに難しい手術ではないというニュアンスだった。
それでも心配は尽きないが。
きっとラフィなら、そして僕の犬たちと一緒ならちゃんと乗り越えてくれると信じている。
家族みんなで一緒に無事2022年を終えたい。
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