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#小説
掌編小説「よるべなき」
きみは立ち止まる。まだ〈Close〉のプレートがかかっている、木の扉の前で。目の前に聳えているのは、二階建ての、モカ色の煉瓦でできた建物。白くつるつるした横長の看板には、深緑色の筆記体で書かれている文字を読み取れなくて、きみはいまだに店名を知らない。右端についている海色のかもめのイラストが、この店を判別するための目印だった。
真鍮のドアノブをひねり、重心をかかとに移すようにして手前に引いたけ
掌編小説「世界が私に優しくない日」
雨が降っているらしいことは、目を覚ました瞬間にわかった。後頭部の左奥のほうに、鈍い痛みの塊が疼いている。雨自体はきらいではないけれど、雨の日は体調を崩すからやっぱりきらい。体を形作る細胞ひとつひとつが湿気を含んで膨張し、あるべき位置からはみ出して、すべての部位がぼんやりと重たい。
首を回して枕もとの目覚まし時計を見る。短針が2を少し過ぎたところだ。カーテンを閉ざした薄暗い自室の底で、午前なの