Withコロナ、Afterコロナ下の新興国ファイナンス
読者の方もご存知の通り、2020年にはいってから新型コロナウイルスの感染拡大が世界中で社会的、経済的に重大な影響を与えています。
こちらでは、日本でまだまだ情報量の多くないコロナ・ショック下の新興国の状況について纏めています。
新興国の新型コロナウイルス感染の状況
新型コロナウイルスの世界中での蔓延が本格化しだした3月中旬以降、当初新興国、特に医療体制が弱いとみられるアフリカ諸国での感染拡大が危惧されました。
(出所:European Centre for Disease Prevention and Control)
しかし、5月9日現在に限ると、新型コロナウイルスにより亡くなられた方の数をみると、アジアやアフリカ諸国での悪い拡大は抑えられているようです。
まだ世界中で確認がされているところですが、日本や新興国の死亡率が欧米の先進諸国と比べて低いのは、BCGワクチンの接種を行っているためそのオフ・ターゲット効果(もともと意図した範囲外で効果が効いている)がでているのではないかといわれています。
また新興国各国の死亡者の割合が、世界の中でみると比較的医療体制が整っている方と考えられる日本よりも低いのは、新興国は新型コロナウイルスが弱いといわれる高温、多湿、強い紫外線という条件がそろっている気候の地域に属する国が多いことも原因ではないかといわれています。
一方で、エクアドルを除くとBCGワクチンの接種政策が日本に近い国がほとんどな南米地域の人口に占める死亡者の割合が日本、アジア、アフリカより若干多いのは、一番人口が多いブラジルの隔離政策が中途半端なものになってしまっていることを指摘する声があります。
もちろん現在はまだ世界中で新型コロナウイルスに関わる様々なことが研究されている段階であり、今後より正確な要因分解がなされて第2波の影響の縮小に活かされることが期待されます。
新興国への経済的な影響は
もちろん人口に占める死亡者の割合を低く抑えるために新興国も欧米や日本と同様に、程度は国によって異なりますが、ほとんどの国が完全または部分的なロックダウンを行っています。それにより経済的な影響がでてしまうことは避けられないと考えられます。
他の国々よりも一足早く新型コロナウイルス感染の第1波を終えた中国では、3月に製造業PMIが50を上回るなど、都市封鎖中の2月からの回復が鮮明でした。
(中国の製造業PMI、出所:Trading Economics、Caixin Global)
中国と同様のBCGワクチン接種政策をとっている新興国諸国も似たような経路をたどる可能性はありますが、もちろんその程度は今後実際にみてみないとわからないところです。
新興国通貨の動向は
また、そもそもの投資者側である先進国の多くを占める欧米での悪い感染拡大が進んでしまったことから、2020年はこれまでに約10兆円もの資金が新興国から流出しているとInstitute of International Financeは推計しています。
同様の推計では2008年のリーマンショックおよび2013年に米国のFRBが緩和縮小のコミュニケーションに失敗した際の後3か月間の新興国からの資金流出額がそれぞれ2.5兆円程度だったことからもその影響の大きさがうかがいしれます。
3月にはこの影響から、ロシア・ルーブル、ブラジル・レアル、メキシコ・ペソ、南アフリカ・ランドといった主要な新興国通貨が軒並み大きく下落します。
ただしこのトレンドは4月半ばで一段落しており、4月後半からは米国の量的緩和政策などもあり、リバウンドする通貨もでてきています。
また今年にはいって10兆円の資金が新興国から流出したといってもそのうち6兆円弱はインド、韓国、台湾の3か国から流出したものであり、中堅以下の新興国で通貨が大きく下落した国は、少なくとも5月9日現在はそれほど多くはありません。
IMFが100兆円のファシリティを準備
それでも、現在の世界をとりまく状況の中で新興国経済についてフリーハンドで楽観視する人はほとんどいないかと思います。
IMFは新型コロナウイルス感染拡大を防ぐための都市封鎖による経済的影響と資金移動からくる流動性不足の問題を防ぐべく、100兆円もの信用供与を行う余力があることを公表しています。
5月9日現在までにすでに40を超える新興国各国に2000億円を超える資金の供与を行っていますが、それでもキャパシティはまだ98%程度残っていることになります。
これは新興国各国で貧困がまた広がってしまわないために、大変心強いファシリティといえます。
(IMFのファシリティの種類、出所:IMF)
(IMFの資金力、出所:IMF)
Withコロナ、Afterコロナの世界の新興国のファイナンスは
IMFは「アジアにおけるインフォーマル労働者のためのニューディール政策」と題したブログで、新型コロナウイルスによる貧困拡大を防ぐ政府支出は、上下水道の整備など、新興国における健康・安全の促進に資するものにするべきであるという提言を行っています。
たとえば国際連合はSDGs(持続可能なゴール)の資料の中で、2017年時点で世界で8億人弱がきれいな飲み水にアクセスが無く、30億人程度が一般に必要と思われるレベルで手を洗える環境が無く、7億人弱はトイレへのアクセスが無く屋外で用を足している、と指摘しています。
(世界の水をめぐる状況、出所:国際連合)
これらのSDGsに資するインフラの整備はIMFのサポート等の下で政府資金によって行われる可能性もありますが、業界のすそ野が育ってこれば、貸付型クラウドファンディングや投資ファンド等による民間ファイナンスの道もみえてくるかもしれません。
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