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シリーズA資金調達の舞台裏:LexxPlussはなぜディープテック・スタートアップで14.5億円を調達できたのか?

株式会社LexxPluss (レックスプラス とよみます)で財務の責任者をしている永瀬 智之 (ながせ ともゆき) です。

LexxPluss では2023年3月15日にシリーズAのファイナンスとして14.5億円の資金調達を発表しました。LexxPluss の未来を信じてくださった投資家のみなさまには感謝しかありません。

LexxPluss はグローバルで勝負できる会社を目指しています。本記事はそういった会社が日本から多く生まれれればいいなという思いをこめて執筆させていただきました。

環境がよくない中でも、まとまった金額の資金調達をできた裏側、特に投資家からどのような点を検証されたのかをシェアしたいと思います。

本記事で少しでもLexxPluss に興味を持ってくださった方は、代表・阿蘓がLexxPluss の現在地とこれからについて書いた記事もご覧いただけるとうれしいです!採用も、エンジニア、BizDev、コーポレートと積極採用中ですので、採用ページ (エントランスブック) もぜひのぞいてみてください。

それでは本編です。

投資家はスタートアップのどこを見るのか?

投資家が投資可否を検討する場合に見るべきポイントの多くは共通しています。中でもトラクション (実績) が何よりも説得力をもつのは間違いありません。トラクションがあればベストですが、シリーズAのタイミングですばらしいトラクションを出せているスタートアップは限られています。LexxPluss も大規模な導入実績はあったものの、ユースケースの広がりを示すための導入案件は仕込み中という状況でした。以下ではそんな状況の中、シリーズAで投資家から見られたポイントをまとめていきます。なお、事前準備が何よりも重要なのは言うまでもありません。そういった事前準備については、情報発信されている先輩方の記事がとてもおすすめです。

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市場ニーズはあるか?

どんなに技術的に優れたプロダクトであっても、市場ニーズがなければ売上はたちません。TAM/SAM/SOM を示すことはもちろんのこと、LexxPluss が提供している自動搬送ロボットは重量物の搬送がメインのユースケースで、重量物を台車に積んで運んでいる現場は物流拠点から製造工場、食品倉庫など幅ひろくあります。くどいですが、豊富なユースケースをトラクションで示すことがベストです。しかしながら、ユースケースの幅広さを示せる案件は仕込み中という状況でした。そのため、導入を完了しているケースでどの程度の横展開を期待できるか、その他にも実証実験を進めていて、そのケースがどれだけポテンシャルがあるのかを、根拠とともにていねいに説明することで、将来のスケールの可能性を信じていただきました。

競合はどこか、競合に勝てるのか?

競合はどこか、競合に対して優位性をどう築くか、特にビッグテックや大企業が競合となったときにどのように対抗するか、の回答は必ず準備しましょう。技術や特許、ネットワーク効果などもありますが、競合になりそうな会社を深く調べると、事業方針や取りまく環境から、直接競合する可能性が低いという結論になることもあります。この機会にあらためて競合の研究してみることをおすすめします。

事業計画を実現できるか?

事業計画を実現できる力があるかは、いろいろな角度から検証されます。前述の市場ニーズもその一つです。ハードウェア固有のものとしては、プロダクトの量産、顧客導入があげられます。また、計画を実現できるメンバーがそろっているかは、業種を問わず、シリーズが浅ければ浅いほど検証されるポイントです。それぞれについて以下で詳しく述べていきます。

プロダクトの量産ができるか?

ハードテックでは試作品が動いても量産までに大きな壁があります。試作のときから量産を意識した設計をしていないと、量産品で試作品の品質を維持できないということはよく起こります。LexxPluss は創業3年目ではありますが、優秀なエンジニアたちのおかげで量産の壁をすでに乗り越えており、この点は投資家からも高く評価いただきました。

顧客への導入をスムーズに行えるか?

ハードウェアの製品はソフトウェアに比べて導入に時間がかかる傾向があります。また、導入数が増えるほど、導入を行うためのエンジニアの数が事業拡大のボトルネックにもなります。今回検討いただいた投資家の中には、過去に投資したハードウェア企業での導入トラブルの経験をふまえて、LexxPluss の導入に対する取り組みを評価いただいたケース、過去の経験もあり次回ラウンドまで様子を見たいというケースに判断が分かれることもありました。

計画を実現できるメンバーか

資金調達の活動をスタートした後に何かできるようなものではありませんが、もし経営陣の中に投資家の目を引くことができるような経験や学歴があれば、積極的にピッチデックにのせましょう。

バリュエーションは適正か?

2022年からスタートアップ冬の時代と言われるようになり、明確に変わった点だと思います。今回の資金調達 (シリーズA) では、バリュエーションの検証にマルチプルを使用している投資家が多い印象でした。投資家でのバリュエーションの検証は以下の流れで行われていました (かなりシンプルにしています)。

  • 事業計画を精査して保守的なシナリオをつくる

  • 類似企業のマルチプルを使用してエグジット時の時価総額を計算する

  • 現在のシリーズやエグジットまでの期間、バリュエーションをふまえて、投資倍率などの指標が社内で基準としている数値をクリアするか検証する

エグジット時のマルチプルは、その時の上場株式やIPO時のバリュエーションを意識したマルチプルを採用します。2021年までは上場市場においてもPSR (株価売上高倍率) を使っていましたが、現在はPER (株価収益率) を使用するトレンドに変化してきました。そのため、スタートアップ企業のバリュエーションにおいても、エグジット時の時価総額の計算にPER を採用する流れが強くなっており、2021年よりもバリュエーションを出にくい要因となっています。(単純に上場市場のマルチプルが下がっていることも要因です)

投資家とのコミュニケーション

LexxPluss ではコンタクトをとれた投資家から順番に連絡を取りましたが、どうしても資金調達で入ってほしい投資家がいる場合は、何社か別の投資家と話をしてから連絡をとることをおすすめします。LexxPluss でも今回のラウンドに入っていただいた投資家は、比較的遅くから議論を開始した先が多かったのは偶然ではないと思っています。理由としては、

  • 投資家が気にするポイントは共通している部分が多い。懸念点を先回りしてプレゼンを改善したり、QAのためのスライドを作成できる

  • 場数を踏んでプレゼンになれてくる

また、このコミュニケーションの前提にはランウェイに余裕を持つことがあげられます。LexxPluss では、キャッシュポジションが厳しくなりそうなタイミングにあわせてデット調達をおこない、余裕をもって投資家とコミュニケーションをとることができました。

加えて、投資家に投資を見送られた場合も必ずフィードバックをもらうようにしていました。検討を重ねて見送られた場合ほど精神的なダメージはありますが、投資家も貴重な時間をかけた上での結果なので、どこにボトルネックがあったのか、どのような説明があればよかったか、など次回につなげることは積極的に質問をしましょう。真剣に検討いただいた投資家ほど詳しく答えていただけました。

ディープティックの魅力

ディープテックのスタートアップはプロダクトをローンチするまでの道のりがソフトウェアに比べてけわしいのは事実です。中でもハードウェア扱う場合はプロダクトの生産のためにかかる部品の仕入れ資金や、プロダクト量産のための設計、プロダクトの品質保証、導入プロセスの改善、導入後の保守体制などキリがありません。

それでもディープテック、特にLexxPluss の対象領域に投資家が魅力を感じていただけたのは、けわしい道を抜けた先に以下の大きなメリットがあったからだと思っています。

グローバル展開をしやすい

プロダクトの評価は物理的な性能が基本になります。言い換えると質量のあるモノが期待通りに動くかどうかが最優先で、言語の違いによるハンディキャップはありません。これまでグローバル進出に成功した日本企業の多くが、モノ (自動車、バイク、ゲーム機など) を扱う会社という点は偶然ではないと思っています。だからといって、ソフトウェアが弱くていいというわけではなく、むしろハードウェアを制御するソフトウェアの重要性はTesla が証明しています。LexxPluss でもソフトウェア開発はコア技術として自社開発を行っています。

また、政治的な関係が良好でないため進出が難しいケースも世界にはありますが、日本はそういったケースが比較的少ない国であることもチャンスだと捉えています。

チャーン (解約) がされにくい

LexxPluss で開発している自動搬送ロボットは、物流現場や製造工場のインフラになるプロダクトです。導入時にはオペレーションの変更や関連する工程との連携を行います。導入先にとっては、解約するとオペレーションを再変更する必要があるため、ロボットが期待通りの動きをする限りにおいては簡単に解約されることはありません。

解決しなければならない社会課題がそこにある

物流現場や製造工場には重たいものを人手で運ぶケースが多く残っています。今はAmazon や楽天で注文したものがあたり前のように届きますが、このまま人口が減り、物流現場の働き手が少なくなると、物流は遅れネット注文しても商品がなかなか届かないことが日常になります。今のあたり前をサスティナブルなものにするために、物流の自動化は解決しなければならない社会課題であり、それを解決できたときのインパクトはとても大きなものだと信じています。

最後に

最後までお読みいただきありがとうございました。LexxPluss では今回調達した資金を使い、日本での利用シーンの拡大、米国事業展開を進めていきます。メンバーのインターナショナル比率 (日本以外の国籍) も40%を超えており、事業、組織ともにやるべき課題が山積みで、とてもエキサイティングな環境だと思っています。

本記事でLexxPluss という会社が気になった方、もっと知りたいと思ってくださった方、あまり興味がわかなかった方 (それでもここまで読んでいただきありがとうございます!)、LexxPluss の現在地とこれからについて代表・阿蘓が書いた記事も、あわせてご覧ください!

採用も全職種で積極採用中ですので、採用ページ (エントランスブック) ものぞいていただけるとうれしいです!


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