話すことが苦手なデザイナーさんへ 〜内向型シャイデザイナーの生きる道
人前で話すことを苦手としているデザイナーは多い。
ボクも話すことが苦手である。
知らない人の前だと、ドキドキしてしまう。
たくさんの人の前で話さなければいけない場合、
処刑前の犯罪人のような気持ちになる。ごめんなさい。死にたくない。
そんなボクだけども、十数年間、なんとかデザイナーとしてやっていくことができた。
なので、話すことを苦手にしている若いデザイナーを見ると、
「大丈夫、一緒にがんばろう」と、
声をかけたくなる。
ということで、話すことが苦手な自分が、話すことが苦手な若いデザイナーのために、「知っておくと生きやすくなるな」と思ったメモをまとめてみた。
話すことが苦手でも、なんとか一緒に生きのびよう。
1. ぽんぽん言葉を出さなくてもよいかもしれない。
非常によくデキるビジネスマンは、デザイナーに限らず、会議でぽんぽんと素晴らしいアイデアや、ハッとさせる提案、本質を突いた言葉を次々と発して、場を支配する。憧れる。
なぜ、彼らはぽんぽん言葉が出てくるのだろう。
かの心理学者ユングによると、ヒトは「外向型」と「内向型」に分けられるという。
外向型であれば、話すクォリティは置いておいて、喋ることが苦にならない。しかし、内向型は一人でいることを好む性質があるので、必然的に多人数との会話に疲弊する。
まず、この内向型のデザイナーについてみていく。
認知心理学において、「内向型」の人間は「短期記憶」よりも「長期記憶」に頼っているという。
「長期記憶」とは、重要なことや心に残ったことを長く保存する機能である。であれば、たくさん「長期記憶」すれば良いと思うのだが、その脳の領域に多大な情報をしまい込むと、スムーズな記憶の出し入れが難しくなるらしい。
そして、内向型な人間が脳に刺激を受けると「長期記憶」に関わるエリアに多くの血流が流れこむことがわかってきている。
ただでさえ記憶を取り出しにくいエリアに、多くの血流が流れるとどうなるか。
真っ白になる。
つまり、プレッシャーがかかったり、瞬時な返答を求められたときに、タイミングよく反応できないのは、脳の構造のせいかもしれない。
逆に、自分の得意分野(長期記憶されている)で、プレッシャーがない場合は淀みなく流麗に話すことができる。(多くのオタクに見られるパターンである。デュフwww)
内向型人間を、外向型人間にさせることは難しい。
だって、脳の構造から違うのだから。
努力してできることと、できないことは分けたほうがいい。
内向型であれば、内向型の生き方をした方が健康だ。
しかし、内向型人間だからといって、会議や発言をしなければならないときにだんまりを決め込んでよい、というわけではない。話さない人は怖い。
まず瞬時に反応することは諦める。瞬発力が無いことは上記で分かっているので、内向型であれば、内向型のバリューを探すべきだ。
会議であったら、論議されている内容を咀嚼して、しばらくしてから要約してポイントを確認するとか、得意な分野で切り込むとかする。とにかく即反応を諦める。
そうしてしばらくすると会議そのものに慣れてくる。この「慣れ」にまず到達することが第一段階だと思われる。言葉が出てこなくても仕方がない。だって脳の構造のせいなのだから。会議を怖がらないようにしよう。たくさん参加していけばなんとかなる(はず)。
無意味なベンチマークを作って苦しむよりは、自分の性格(脳の癖)を知り、まず変化できることと、変化できないことを分けて、それから自分のバリューを最大化することに注力するとよいと思う。
2. 流麗に話さなくてもいいかもしれない。
若い頃、生まれて初めてナショナルクライアントの大きな会議室でコンぺのプレゼンをした後、印象的なコメントをいただいた。
「他社はたいしたアイデアでもないのにペラペラ喋っていたけど、君は話し方は流麗ではないけど、アイデアがいいね」
当時のたどたどしさを思い出すと赤面してしまうが(今は多少改善されているはず汗)、人生初のプレゼンだったので、上記の微妙な言い回しのレビューは鮮明に覚えている。
話すことが苦手な人にとって、流麗な口調で話す人物は非常に魅力的に見えるかもしれない。しかし、胡散臭く見える側面もあるという。あんまり口がうまいと、逆に信じきれない心理が働くのかもしれない。
あるデキるディレクターのプレゼンで驚いたことがある。
クライアントの方を全く見ず、下を向いてボソボソ話し始めたのである。
その頃、人前で喋ることに悩んでいたボクはプレゼンに関する本をいくつか読んでいた。その中で、
「プレゼンは最初の印象が重要。相手に良い印象を与えるようにしよう。
でなければ聞いてもらえない。」
という話をインプットしていた。
「こんなにやる気なさそうにボソボソ話しはじめて、大丈夫なのかしらん」と心配していると、クライアントの方も「ん?」と注目し始めた。そう、注目したのである。能動的になった。
ディレクターは段々とノッてきた。次第に目線が上がる。声のヴォリュームが上がる。最終的に、場を支配していた。こんな話し方があるのか、と驚いた。
ヒトラーの演説も最初はうつむいてボソボソ喋る。聴衆は「なんだろう」と能動的な態勢になる。そして、後半に行くに従って、手振り身振りが増える。最終的に、あの熱狂的な話しかたに到達する。最初から熱狂的に話されていたら、ちょっと引いてしまうかもしれない。
「ピークエンドの法則」という、行動経済学者のダニエル・カーネマンが提唱した法則がある。人間は、自分自身の過去の経験を、そのピーク時にどうだったか、ならびにそれがどう終わったか「だけ」で判定するという法則だ。そういえば、少女の漫画も最悪な出会いから始める。
これは話者と視聴する者が、ある程度の時間、強制的に拘束されるときに有効なテクニックで、クォリティも求められる高等技術といえる。
自分にはとても無理だ。
話しを戻すと、徹頭徹尾、流麗に話すことは、「銀の弾丸」ではないということだ。最初ボソボソ話したとしても、聞いている人が逆に能動的になったりするし、拙いながらも真摯に話すことで誠実な印象を相手に与える可能性もある。
そんなことがあるので、「HOW(喋り方)」よりも、「WHAT(話す内容)」に学習コストを投下し、「WHY(なぜそれを話すのか)」というコンテキストを把握することが、デザイナーとしてまず肝要だと思う。
上手く話そうとせず、「その場その時に必要なこと、または自分が貢献できる何かを、つっかえつっかえでも提供しよう」という気持ちでいると、個人的に様々な局面で役に立ったし、気が軽くなったように思う。
コミュニケーションの最適解は状況によって変化する。同じシチュエーションは二度とない。「こういう伝え方をしなければならない」とメソッドに固まると、プレッシャーを感じて(内向型人間は特に)上手くいかないと思う。
ボクもまだまだ上手くいかない。だいたい同行したメンバーに助けられている。優秀なプロフェッショナルが周りにたくさんいて本当に良かった。ありがとう、ありがとう。
3.考えている深さを深める。
以下の2つの広告を見てほしい。
【質問】AとB、どちらの車が高価だろうか。
A:STEPWGN : 299万円
B:Jaguar XF : 595万円
正解はBだ。
多くの人が正解したと思う。当たり前だと思うだろう。
しかし、値段はどこにも記載していないし、ABとも白っぽいビジュアルだ。なぜ、「当たり前」に、Bの方が高価だと思ったのだろう。
「見ればわかる」ことを話すことは、難しい。
もしクライアントに「Aの方が高価に見える」と言われた場合、デザイナーには説明責任がある。(大御所デザイナーだったら無いかもしれない)
この例はかなり単純化されているが、実際はターゲットやペルソナに合わせ、またはユーザーストーリーの中のそれぞれのタッチポイントにおいて、最適かつ精緻なビジュアルコミュニケーションを、デザイナーは図らなければならない。
目に入るもの、または動きやインタラクションで、人に何を伝えるのか鮮明にし、結果(KPI)を出さなければいけない。
そして、なぜそれらがこのデザインで達成されるのか、デザイナーは話さなければならない。
一枚のビジュアルをつくり上げるためには、下記のような見えないレイヤーがある。
最下層の「戦略」から積み重なって、最終的な結果が「認知(ビジュアル)」である。ユーザーから見ることができるのは、この「認知」の部分だけである。
「戦略」から「機能」までを理解して、ビジュアルに落とし込むことがデザイナーの仕事である。もし、あなたが話すことができないのは、「認知」以下の階層の重要性を意識していなかったり、理解していない可能性がある。
理解するためには、デザインに関する視覚的技術の他にも、さまざまな勉強が必要になる。クライアントの業界分析やマーケティング分野の知識も得なければならないだろう。
勉強大事。
4.緊張と向き合う
ぽんぽん発言しなくてもいい。
流麗に話さなくてもいい。
考えも深めた。
でも、大人数の前で話すときや、偉い人と話すときは、緊張で心臓がばくばくして、お腹も痛くなってしまう。わかる。
慣れればいくらか緩和されるとわかっていても、この緊張なんとかならないものだろうか。
緊張には、ヒトの「S遺伝子」と「L遺伝子」が関わっているらしい。
「S遺伝子」は、心を安定させるホルモンであるセロトニンの分泌量を減らし、緊張しやすくさせる。逆に「L遺伝子」は緊張させない遺伝子である。
日本人は特にS遺伝子が多い傾向にあるらしい。シャイな日本人たるゆえんであろうか。
とにかく緊張するのは遺伝子のせいなのだ。がんばってどうにかなるものでもない。
また、緊張は悪いことばかりでもない。適度の緊張はパフォーマンスの向上につながる。「慣れ」はよいことばかりではなく、そこからミスも生まれる。適度な緊張感は持ったほうがよいのだ。
緊張してくると「おお、パフォーマンスが上がってきた」と思いこみ、ポジティブに捉える。緊張しすぎると「お、おれのS遺伝子が・・・」と呟き、遺伝子のせいにする。すると多少は落ちつく。すみません、なんだか恥ずかしいですが、ボクはこんな感じです。
また、緊張に対する方策としては、心理学的に「認知療法」というものもある。
「認知療法」とは、自分の認知的評価の転換を促すもので、プレゼンを「失敗したらどうしよう」と捉えるではなく「チャンス」と捉えることなどが挙げられる。
かつて先輩から「加藤、ガラスの仮面をかぶるんだ」とドヤ顔で教えられたことがある。これは「認知的評価の転換」の応用を教えてくれたのかもしれない。
遺伝子のせいにするにしても、ガラスの仮面をかぶるにしても、今、自分が置かれている状況を少し斜め上からみる、客観視する、ということが肝要のようだ。
デザインに関することであれば、たいてい殺されることはない。
漫画などでよく見られる「命をかける」などの自分を追い詰める言動は、L遺伝子を持った人間には有効かもしれないが、そうでない場合、過剰な緊張がかかってしまう。
L遺伝子を持っている人には命をかけてやってもらい、S遺伝子の人は客観視して生きていこう。たいてい死なないから、たいてい大丈夫。
ちなみに、極度の緊張で日常生活が困難になる場合、社交不安障害・パニック障害の可能性もあるので、病院にGOだ。
5.生き延びよう
デザイナーになって十数年。
デザイナー人生で印象的な思い出は話しているシーンばかりだ。
話すときは、必ず聴き手がいる。
聴き手が幸せになるように話す事ができれば、だいたい良いんじゃないですかね(雑)。
結局、頭を使って考えて、なにか価値提供しなければ、お金がもらえない。
今日もあれこれ考えて、それを伝えて、はね返されたり、受け入れられたりして、生きていこう。
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