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#40 絶対王者時代のフジテレビのお金の使い方に学ぶ〝ビジネス好循環策〟

さあ、お金の話です。2001年にフジテレビに・アナウンサーとして入社してから9年間、夕方のニュースでリポーター、そして最後はスタジオのキャスターをやっていました。全国津々浦々、それはもうめちゃくちゃ飛び回ってたんですが、それはそれでやはりお金があるからできたことでした。

当時、イケイケだったフジテレビはニュースに対してどのようにお金を使っていたのか。

こんなことありました。小学校低学年の女の子がマンションの10階ぐらいの高さから転落しました。でも、奇跡的にかすり傷で済んだんです。たまたま、下に停めてあった車の屋根の上に落ちたんですね。彼女は自殺ではなく、不慮の事故で落ちてしまったのですが、落ちた先が、その屋根の上だった。それがクッションとなって助かったんです。

会社で先輩から「やってみようか」と言われました。

その日の朝、新聞でそのニュースを見て、お昼過ぎには、都内にあるドラマ撮影で使われるスタジオの広大な土地に、クレーン車が用意されていました。そしてその下には中古車。

その女の子と同じ体重の砂袋を用意して、クレーン車でめいいっぱい伸ばした先から車に落としたらどうなるのか。そんなことを思いついた当日に、すべて準備してやるわけです。なぜ僕がそこに携わったかというと、実況をつけなくてはいけない。

スピーカーを持って「それではお願いします!」という合図と共に落としてみたら…すごい光景でしたよ。ものの見事に屋根がボコっと凹み、砂袋の重みを吸収していました。窓はすべて粉々に割れてましたけれども。

このとき、すごい会社だなと思うわけですよ。「お金がある」ということは、発想したこと、イメージしたこと、そうしたやりたいと思ったことが、おおむね全部可能になる。

すると、こんなことできるんじゃないか?などの自由な発想に繋がっていくんですよね。お金がないと、なにをやろうと思っても、お金かかるな…と尻込みしてしまう。

お金があるとイメージしたものを実現できる、実際に再現することができるそんなことをまざまざと痛感させられました。

そういうことを毎日のようにやっていたんですよね。

フジテレビの船が韓国軍に拿捕される

しかし、お金があるがゆえに、壮大な事件になりかけたこともあります。

竹島という島があります。どういう問題を抱えている島か、皆さんご存知だと思いますが、当時、竹島問題がものすごくヒートアップしてたんですね。
そのヒートアップしてる最中に、韓国が周辺海域に測量に行くというニュースが流れました。

ときの政府は、このままほったらかしにしておくと、弱腰とみられる。そういう判断が働いてました。そこで、海上保安庁が出動することになりました。でも、そうなると韓国軍が出てきます。そうなると、最悪の場合、史上初めて銃撃戦が勃発してしまうのではないか、という危険性が生まれたのです。

「それ、見てみたくない?」なんて話が社内で盛り上がっていました。

台船をチャーターして、そこに中継車を乗っけると。中継車は基本的に、そこに空が見えている限り中継ができます。なのでそのまま竹島周辺まで航行して、海保を韓国軍の睨み合いを、まさのその場所から中継する。

そんな話を埼玉県での農家の取材中に聞きました。電話がかかってきます。

「いまから竹島行ってくれないか」

我が耳を疑いましたよ。だっていま埼玉にいるわけですから。「とりあえず後で説明するからとにかく羽田にいってくれ」と言われました。当時の夕方のニュースは5時〜7時、その5時の頭で中継をしたい、と。

竹島

そんな話が進んでいることを全く知りませんでしたから「ちょっと待てくださいよ。どういう話なのかだけでも教えてください」と食い下がっても、「とにかく時間がないんだ、とりあえず羽田へ」ということで、羽田向かってる最中に先ほどのストーリーが進んでることを知りました。

埼玉にいたのにその日の夕方には、竹島周辺海域で中継をする。不謹慎なんですけれども、リポーターとしてはものすごくアドレナリンが出ます。そんな瞬間を俺は日本の人たちに伝えることができるのか、と大興奮なんですよ。

でも、その後また電話がかかってきて「ごめん、やっぱりなしになった…」と計画中止になったことが知らされました。

なぜかというと、私達が手配していた台船はスピードが出ません。万が一、本当に韓国軍が撃ってきたら、海上保安庁はその場から引き上げる可能性がある。私達は海上保安庁頼みだったけれども、海上保安庁が去った後に、ポツンと台船の上に大きな中継車が乗ったフジテレビクルーが取り残される。もし韓国に拿捕されたら、国際問題になりかねないぞと。

これはいかん、ということですんでのところでストップがかかったんですね。幻の竹島中継。でもそれをできるんじゃないか、と思わせたのはやっぱりお金なんですよ。

すぐさま羽田から飛んでいって、中継車を船に乗せて竹島まで運んでいく。
これが可能になるのも「お金」。つまり行動力を全力で補完してくれる存在がお金だったわけです。

ただ、お金がありすぎたがゆえに、発想が自由すぎてその後に起こりうる問題をちょっと想像できてなかったんですね。

当時のフジテレビらしいエピソードでございました。

「お金」これはすなわち、アイディア、皆さんが考えてること、やりたいことをイメージしていることを実現させてくれます。

フジテレビの場合、当時ものすごくお金がたくさんありました。だからイメージしたことを思い付いたことは全部できた。そしてそれは、視聴者の好奇心であったり探究心であったり、そういったものを満たすことができていた。だから高視聴率に繋がっていたんですね。

当時の夕方のニュースは大体15%ぐらい視聴率をとっていましたから、この国の大人の人たちの5、6人に1人は見ていたのではないでしょうか。こういう数字は、伝える側のやる気にも繋がっていました。

そういう好循環が生まれていた時代だったなと思います。

(voicy 2022年6月10日配信)

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