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ビジネス書で読み解く「課題と問題と論点とイシュー」の違いが分らない問題

「課題」という言葉は、ビジネスシーンで頻繁に使われる言葉だが、案外、定義が曖昧で、多義的な用語でもある。

「御社の課題は・・・」のように使うこともあるし、「課題解決」「課題設定」のような用語で使われることもある。会議などで「まずは、課題をはっきりさせることから始めよう」といった発言がされることも多いだろう。

「課題」に似た言葉に「問題」がある。「問題解決」はビジネス書の定番テーマでもある。「課題」と「問題」はどう違うのだろうか。
さらに「イシュー」というビジネス用語も「課題」と訳されることがある。「イシュー」は「論点」とも訳されるが、では「課題=論点」なのかというと、これはもうよく分からない。

この記事は、ビジネス書の「頻出ワード」でもある「課題」という言葉、それに類する「問題」「論点」「イシュー」といったビジネス用語を、世のビジネス書作家の方々がどのように「定義」しているかを、複数のビジネス書にあたって明らかにし、そこから「最大公約数的な定義」を試みるものだ。

なお、私自身も過去にビジネス書を執筆した経験があり、その書籍における自身の「定義」も、他の書籍と同列に提示していく。

まずは、新旧の10冊強のビジネス書の「定義」をご覧いただきたい。その後に、それらを踏まえての「最大公約数的な定義」を私なりに試みる。
(なお各書の引用においては読みやすさを重視し適宜改行を施している)

1.『問題解決プロフェッショナル 思考と技術』における「課題」の定義

●課題 = 問題に直面した時に解決すべきこと(として捉え直すもの)

問題だと考えられる現象に直面したとき、その問題を今後解決すべき課題としてとらえ直すことが「課題の設定」である。
「課題の設定」のプロセスは2つの要素からなる。
それは「主要課題」の設定と、それを具体化・細分化した「個別課題」の設定である。

同書 P.119

齋藤 嘉則 (ビジネス・コラボレーション代表)
1997年, ダイヤモンド社
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2.『課題解決の技術』における「課題」の定義

● 課題 = 解決テーマ、解決することを決めたもの

「問題(Problem)= 現象・状況(・・・できない、・・・がダメ)。
「課題(Issue))= 解決テーマ・解決の意思(・・・の確立、・・・の充実)、解決することを決めたもの。

同書 P.14-15

「売り上げの減少」は「課題」ではなく、「問題」。
「売り上げの向上を図る」は「課題」ではあるが、(中略)この「売り上げの向上」という「大きな課題」は、「X社への対抗手段を取ることと、製品Bの品質改善」にブレークダウンできる。

同書 P.14-15

「課題」は意思の表れである。
しかし、その源泉は、とにかく「問題」にある。
問題を発見できてはじめて「課題化」できるのであり、解決策を考えることができるのだ。

同書 P.39

野口 𠮷昭 (HRインスティテュート)
2002年, PHP研究所
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3.『30代までに身につけておきたい課題解決の技術』における「問題」「課題」の定義

● 問題 = 起きている現象

● 課題 = 自らが解決すると決めた(または決められた)テーマ

「問題」とは、(略)あらゆる現象、状況を指します。
一方、課題とはその問題に対して「自分が解決すると意思表明したテーマ」を意味します。

同書 P.28

問題と課題は、以下のように使い分けることができます。
「残業が多い」(問題)→「残業を減らすには」(課題)
「売上が伸びない」(問題)→「売上を伸ばすには」(課題)
「朝、気持ちよく起きられない」(問題)→「朝、気持ちよく起きるには」(課題)

同書 P.28

野口 𠮷昭 (HRインスティテュート)
2011年, PHP研究所
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4.『プロの課題設定力』における「課題」の定義

●課題 = 「現状」を「あるべき姿」にするために、なすべきこと

課題=「現状」と「あるべき姿」のギャップを把握した上で、「「現状」を「あるべき姿」にするために、「なすべきこと」。

同書 P.16

問題(点)=課題の達成(「現状」を「あるべき姿」にすること)を阻む要因。
課題設定とは、「現状」と「あるべき姿」を正確に把握し、「現状」を「あるべき姿」になることを阻む優先順位の高い「問題」を見極め、「現状」を「あるべき姿」に近づける方法を考えること。

同書 P.16

清水 久三子 (IBM ビジネスコンサルティング)
2009年, 東洋経済
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5.『問題解決のレシピ』における「課題」「イシュー」の定義

●課題 = 「現状」と「あるべき姿」のギャップをなくすためになすべきこと

イシュー = その課題に対して考えられる論点 

課題=「現状はこうである」と「未来はこうであるべきだ」「未来はこうあるべきだ」とのギャップ。
これをなくすために何をなすべき?(という問い)。

同書 P.16

イシューツリーでは、ある課題に対して考えられる主要な論点(イシュー)について、それぞれ論点分解を繰り返していく。

同書 P.53

(「課題」と「イシュー」を別々に定義した上で明確に使い分けており、その点で珍しい書籍)

河瀬 誠 (アクセル)
2008年, 日本能率協会マネジメントセンター
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6.『世界一シンプルな「戦略」の本』における「課題」の定義

●課題 = 過去に起こった問題を解決するために、これからなすべきこと

どうやら「課題」という言葉が選択されるのは、「『問題』というと語調がきつすぎるので、弱めたい場合」や、「『目的』と言ってしまうと達成へのプレッシャーが強すぎるので、あいまいにぼかしたい場合」といった場面が多いように思います。

同書 P.80

「課題と問題」の関係に絞って言うなら、「問題=過去に起こったこと」で、「課題=将来になすべきこと」と定義しておくと、頭の中がクリアになります。
「過去に起こった『問題』を解決するために、これからなすべきことが『課題』」となります。

同書 P.80

長沢 朋哉 (本note記事作者)
2009年-2013年(新版)、PHP研究所
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7.『問いのデザイン』における「問題」「課題」「問い」の定義

●問題 = 何かしらの目標があり、それに対して動機づけられているが、到達の方法や道筋がわからない、試みてもうまくいかない状況

●課題 = 関係者の間で「解決すべきだ」と前向きに合意された問題

●(ファシリテーションにおける)問い = 創造的対話を通して認識と関係性を編み直すための媒体

ここまで、「問題」と「課題」という二つの言葉を使い分けてきましたが、それぞれの言葉の定義について整理しておきましょう。
いずれも「problem」を訳語とした同義語で、意味はイコールであるという考え方もあれば、ビジネスの現場では解決の志向性によって区別をすることもあるようです。

同書 P.48

いわゆる問題解決(problem solving)の膨大な研究の蓄積を参照すると、「問題」とは、何かしらの目標があり、それに対して動機づけられているにもかかわらず、到達の方法や道筋がわからない、試みてもうまくいかない状況、と定義されています。

同書 P.48-49

さて、本章の冒頭で掲げた「課題とは何か」という問いに戻りましょう。
ここまでの議論を踏まえて、本書では、関係者の間で「解決すべきだ」と前向きに合意された問題のことを「課題」と呼ぶことにします。

同書 P.57

「問い」は、投げかけられた参加者の思考や感情を刺激し、集団の議論や対話など、何らかのコミュニケーションを誘発します。
「問い」の設定によって促進される思考やコミュニケーションの質が変わるため、結果として導かれる答えも変わりうる、という基本性質を確認してきました。

同書 P.133

(ワークショップ・デザインとファシリテーションをテーマとする書籍の為、他の書籍とはやや立ち位置が異なる。)

安斎 勇樹, 塩瀬 隆之
2020年, 学芸出版社
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8.『論点思考』における「論点」の定義

●論点(英題ではISSUE)  =  解くべき問題(課題)

どうしたら正しい問題、あるいは解くべき問題に突き当たることができるのか。
ボストンコンサルティンググループでは、この解くべき問題(課題)のことを論点と呼んでいる。

同書 P.2

問いの設定が正しく行われていれば、成功は半ば保障されたようなものである。
逆に問いの設定が間違っていれば、その後の戦略策定・実行をいくら精緻華麗に行なったとしても、もともと方向性が間違っているのだからよい結果につながるはずがない。

同書 P.39

内田 和成 (ボストン・コンサルティング)
2010年, 東洋経済
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9.『ファシリテーションの教科書』における「論点」の定義

●論点 = 意見や主張そのものではなく、その意見が答えになるような「問い」

「論点」とは、意見や主張そのものではなく、「その意見や主張は、どういった問いに答えているのか?」もしくは「その意見や主張が、どのようなポイントについて考えた結果、導かれているのか?」ということです。
言い換えれば、議論の参加者が出すさまざまな意見が「何について語っているのか?」ということ。
つまり、意見が答えになるような「問い」です。

同書 P.51

発言それぞれはそれなりの説得力を持っているけれど、どちらが正しいのかは判別がつかない、もしくは議論が錯綜して何について話をしているか分からないというときは、意見の違いだけでなく議論している論点自体が見失われ、かみ合っていないまま議論されていることが多いのです。

同書 P.53

吉田 素文 (グロービス)
2014年, 東洋経済新報社
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10.『イシューからはじめよ』における「イシュー」の定義

●イシュー = 本当に答えを出すべき問題
(イシューの条件を、①本質的な選択肢である、②深い仮説がある、③答えを出せる、の3点としている)

今、本当に答えを出すべき問題であり、かつ、今の段階で答えを出す手段がある問題。

同書 P.73-73

以下の2つの条件を満たすものがイシュー。
A) 2つ以上の集団の間で決着のついていない問題 (a matter that is dispute between tow or more parties)
B)  根本にかかわる、もしくは白黒のはっきりしていない問題 (a vital or unsettled matter)

同書 P.25

(示唆に富む良書だが、 「イシューは言語化するのが大事である(P.50 )」と書きつつ、その肝心な「イシューの言語化の方法」についてややブレがあるのが残念。「疑問文をイシューとしている個所(P.59等)」と、「仮説自体をイシューとしている個所(P.97 等)」が混在しているように思われ、読者としてはやや困惑する。私見ではおそらく著者の本意は前者だと思われる。)

安宅 和人 (元マッキンゼー、ヤフーCOO室長)
2010年, 英治出版
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11.『クリティカルシンキング集中講座』における「イシュー」の定義

●イシュー = その状況で最も考える価値のある疑問文

クリティカル・シンキングとは、直訳すると「批判的な思考法」のことです。
分かり易い言葉で言い換えるなら「疑問文をつくって、それに答えを出すこと」となります。
この疑問文のことを、クリティカル・シンキングやコンサルティングの世界では、「イシュー」と呼んでいます。
日本語では「問題」とか「論点」などの訳になりますが、ここでは「その状況で最も考える価値のある疑問文」といった意味で使っています。

同書 P.28

芳地 一也 (すごい会議マネジメントコーチ)
2010年, アスペクト
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12.『世界一やさしい「思考法」の本』における「イシュー」の定義

●イシュー = 決めるべきこと

ここでいう「決めるべきこと」とは、「クリティカル・シンキング」という思考法の中でよく使われる「イシュー」にあたります。
イシューは直訳すれば「論点・課題」といった意味です。

同書 P.50

私個人は、クリティカル・シンキングのエッセンスを「目的をしっかり見据えて、『決めるべきこと(=イシュー)』についてきちんと考え、そのことについて『疑問文』を作って考える思考法」と理解しています。

同書 P.50

長沢 朋哉 (本note記事作者)
2010年, PHP研究所
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【まとめ】最大公約数的な定義

各書籍の著者により異なる部分はあるものの、それぞれの言葉の定義には、共通している部分も多いと感じた。
それらを踏まえ、(多少強引ではあるが)私なりに「最大公約数的な定義」を試みる。

まず、「問題」とは「状況」や「状態」であることが本質にある。「ビジネスの目標達成に対して悪い影響を与える、現在おこっている事象(もしくは過去におこってた事象)」という定義になるだろうか。
「問題」の平易な例をあげれば、「売上が落ちている事」などとなる。

それを踏まえた上で、「課題」については、最もシンプルに言えば、「おきている問題を解決するために、為すべきこと」と定義できるだろう。
上に倣って平易な例として示せば、「売上を上げるために、為すべきこと」となる。

「論点」は、字義に近いが、「議論しているポイント=答えを出すべき問い」が平易な定義になるかと思われる。
「この会議の論点は、売上を上げる方法についてです」といった用法が比較的しっくりくるだろうか。

ビジネス用語としての「イシュー」は、上記の「課題」と「論点」の両義であるが、私自身の感覚としては「解決すべき問題点」の意味合いが強いように感じる。
「イシュー=目標達成のために最も重要な、解決すべき問題点」といった定義ができるかもしれない。

ビジネスシーンで頻繁に語られる「課題は何か?」「問題は何か?」といった問いへの回答が困難なことの理由の一つは、「用語の定義」の曖昧さや話者によってそれが異なる事による混乱もあるように思う。

拙稿が、ビジネスパーソンの皆様における用語の理解、および思考の補助線となり、実務の一助になれば幸いである。

(了)



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