泣ける文章というのがある。
泣ける文章というのがある。
物語の展開や結末がどうだということでもなければ、悲しい悔しい嬉しいとかの感動とも違う。
字面(じづら)と、そこから瞬間に立ち上がる光景に無意識に感極まってしまう。
文章に打ちのめされる感じだ。
久しぶりにそういう鳥肌を立てて読んだ小説に出会えた。
原田マハの短編「さいはての彼女」。
ナギの唇が、何か言おうとして止まっている。私も同じだ。どうしても言葉にならなかった。
私は姿勢をしゃんと正すと、両手を口に当てた。そして手のひらを合わせて、そっとナギのほうへ差し出した。
Thank you.
ナギの顔に、光が射した。ほっぺたにオイルがついている。私は右手を伸ばして、それをこすってやった。ナギがくすぐったそうに笑う。その拍子に、汚れたほっぺたの上を、涙がひとすじ伝った。
ここだけ取り出しても、泣ける感じは伝わらないけど、瑞々しさはわかると思う。
文庫で70ページの物語。
満足して映画館を出たときのような気持ちになれた。
#読書 #旅行 #ワイン #世界史 #エッセイ #サッカー #原田マハ #さいはての彼女
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