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白髪染めで思い出した|たおやかに輪をえがいて(窪美澄)

8年前、当時まだ70代の母をイギリス旅行に連れて行った。自営業の父を支えて舅姑と同居では海外旅行はもちろん、旅行の機会はほとんどなかったようだ。
日本に帰るヒースロー空港のロビーで母に「何が一番良かった?」と聞いた時のこと。
バッキンガム宮殿が良かったとか、コッツウォールズの可愛らしい村について話すのかと思いきや母は、「とにかくこちらの女性は、年配の人も赤い服を着ていたりで驚いたわ」と、地下鉄やバスで見かけた同年配の女性のファッションやアクセサリーについて話したのだった。

白髪染めをする、しない。

ふと次の散髪の時に白髪染めをどうしようかな、なんて思ったとき、ヒースロー空港での母の話と、ちょっと前に読んでいた窪美澄の小説を思い出した。

小説の主人公52歳の絵里子は、面倒くさいと思いながらも自分で白髪染めをする。それは、若さへの諦めに対しての抗いという意味と、もうひとつ、”白髪のままにしておくことは何か世間に対してもの申しているような雰囲気を醸し出すのではないか”と思っている。

僕たちは、無意識に纏わされているくだらない常識をなかなか捨てることができない。


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