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夕暮れのパゴダの美しさを、私はどうやって伝えたらいい?【ミャンマー・ヤンゴン】

男のひとも女のひとも、ロンジーを着ている。あまりにもかわいくて、カラフルで、上下の組み合わせのルールがなさそうに見えるものだから、ミャンマーに着いた初日に街で一番大きなマーケットで、私の好きな柄のそれを、700円で買ってきた。

(途中ふっかけられそうになって、普通に4000円とかで買わされそうになった。でも、本当に布によっては1万円とか、それ以上するものがあるらしい)

これまでの東南アジアの旅行でたくさん見てきたお寺の中で、ヤンゴンのそれが一番好きだなと思う。とにかく規模が大きかった。ミャンマーは雨季だと聞いていたけれど、今のところ一度もざぁっとは降っていない。1分、ほんとに60秒くらい、ぱらりと顔に当たる雨を感じただけで。

気温もそんなに高くない。湿度はもちろんあるけれど、曇だったり、風が吹いたら気持ちよく感じるくらい。

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その日は朝の8時にヤンゴンに到着して、少し空港でパソコンに向かって、そしてタクシーを捕まえてシティまで出た。渋滞すると聞いていたけど、すんなりと車は進んで、ほんとに1分、2分、少しだけ渋滞? と感じる道を通って、40分ほどでホテルには到着した。

(ホテルに到着してチェックインをしようとして、時計が10時だったことに気が付いて、「あれ? もしかしてまだチェックイン出来ない?」「そうだね……」という会話をホテルマンと繰り広げた時は、私は相変わらずうっかり系バカだなとひとりで思った)

旅の一番最初の宿をどこにしよう? といつもすごく迷うんだけれど、ルアンパバーンとヤンゴンは、もう宿を移動するのが面倒だからと、街中の真ん中、歩いて繁華街まで出られる場所を、決め打ちでとっていた。(どちらもいいなと思えるAirbnbの宿が見つけられなかったから、普通にagodaで予約した)

ルアンパバーンの宿は、けっこう好きだった。ヤンゴンも、立地も居心地も、嫌いじゃなかった。

ヤンゴンは、なんだろう。私が今まで訪れたことのないタイプの東南アジアの街だった。いや、たしかにどの街も全部ちがって、それぞれ初めて見るモノ・コト・ヒトが多いのだけれど。けれどそんな前置きを置いておいても、「なんか違うな」って心が言う。

タクシーの中で聞いていたのは、なぜかずっとお経だった。女子と男子が一緒に唱える、エンドレスに流れていくとても明るく聞こえるお経の声。

街を歩けば、知らない文字。(ほんとうに全然読めない。英語は大して話せないけれど、それでも英語を見るとほっとするくらい、ほんとうに英語が少ないエリアが多い。私がローカルエリアを好んで歩くからかな)

私の好きな、カラフルが溢れるロンジーの波。

食べ物は、まだよく分からない。道端で売られるものだけは、どこもあまり変わりがないな、って思ってる。

たまに走る、日本語の書いてある車。(塗装を直さなくていいくらい、この車は状態が良いまま輸入されたんですよ。というアピールで、あまり積極的には消さないらしい。売るときに高く売れるから)

耳慣れない鐘の音。乗り合いタクシーのおじさんたちのけたたましい呼び声(時たま体がびくっと反応してしまうくらい、彼らの声はわりあい迫力があるのだ)、柑橘系の木の皮から作られる、伝統化粧のタナカを塗って、白い顔で歩く女性、子ども、そしてその目線の先にいる、猫。


ひとりで歩く知らない街は、なんでこんなに広いんだろう。歩いても歩いても知らない道。知らないひと、知らない店。

今日の夜も、明日の朝も、明後日の昼も、その次の日だって、どこにいたっていいんだ、きっと私は。

「一人旅」の類語はきっと、「8ヶ月のヒマ」だろうなってふと思う。

***

ねぇ本当に、ヤンゴンのシュエダゴン・パゴダの夕暮れのキレイさは、私のつたない言葉だけでは、伝えきれないくらいキレイだったの。季節や時間もあるだろうね。雨季だと言われて訪れてみた街の、美しい晴れ間と、気温と、さわやかな風。知らない言葉、知らない化粧、知らない決まり、知らない花。

パゴダの講堂では、眠ったりしていいんだって。入り口で裸足になるから、ペタペタと地べたの温度を感じながら、奥の方へと歩いてく。

小さい子どもは楽しくなって、功徳を積んだひとだけが突ける鐘を、何人もで一緒に何度も叩く。

同じように「一人旅だね」って隣のひとと目が合って、ふふっと笑って、またパゴダに目を移す。

だんだん暗くなっていく空。灯っていくパゴダのライト。なぜか「後光」を表すのにミャンマーのひとは電飾を使うから、「リアル後光指してる系」の仏像が夜空に浮かび上がっていく時間。

ねぇ、ヤンゴンはキレイだよ。

私の知らないこともたくさんあるし、きっとあなたが知らないこともたくさんある。

一人旅は楽しいけれど、少し寂しさを感じると、際限なく寂しさが広がっていく瞬間がある。もう30歳なのになぁ。そういえば私は、ひたすら彼氏や家族と暮らしてきたから、こんな長い間一人でいたことがなかったんだ。そしてそれを少し求めて、きっと長い旅に出たんだった。


夕暮れのパゴダの美しさを、私はどれくらいの言葉を尽くして、何枚の写真で、何分の動画で、あなたに伝えたらいいんだろう。

伝えられることもあるし、伝えきれないこともあるから、やっぱりここにいてくれたらいいなと思う。風の気持ちよさやご飯の湯気、入り口から本堂までの距離や歩幅を、誰かと共有することって楽しいんだなって、やっと2ヶ月目に思ったりする。

明日はヤンゴンを離れて、夜はバガンという街へ行こう。カンボジアのアンコールワット、インドネシアのボロブドゥールに並んで、世界三大仏教遺跡と呼ばれるそれ。ポッパ山がキレイに見えるリゾートに、一人で泊まるのはさすがにちょっとためらうな。でも、値段まで調べたということは、私はちょっとそこに行きそうだなって今思う。(たしか1泊6000円くらいだった。今の私には「うっ」てなる値段)

もうすぐまた、空が暮れてく。旅を始めてからこっち、朝と夜の境目をくっきりと意識するようになった。夜は、あまり出歩いてはいけない時間(マイルール的に)。でも、パゴダがあまりにもキレイだから、今日も少し出かけてみようかと、タクシーを捕まえそうになるヤンゴンのシティの私。

本当にキレイ。ほんとに、キレイ。


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