メルカリの組織デザインから学んだ、4つの示唆的ナレッジ(インタビュー後記)
先日、僕がインタビュアーを務め、メルカリCHRO木下達夫さんに「メルカリの組織デザインと人材育成」をテーマにお話を伺うトークイベントを開催しました。
以前noteでも書いた、現代企業が向き合わざるを得ない「事業多角化」と「人材多様性」という難題を乗り越える組織デザインを考えるにあたって、さまざまな学びを得られる時間となりました。
詳しい内容についてはぜひアーカイブ動画を視聴いただきたいのですが、この記事では僕自身の振り返りも兼ねて、木下さんへのインタビューで得られた組織デザインのナレッジについて、インタビュー後記をまとめてみました。
ナレッジその①:事業多角化で働く“遠心力”の弊害を、「対話」を通じて防ぐ
以前このnoteで「企業規模に応じて組織課題がいかにして移ろっていくのか」を解説しましたが、その中で「1,000名規模を超えると組織の遠心力が凄まじい勢いで働くことになり、求心力を高めるための施策を講じなければ、人材は段々と組織を離れていってしまう」と書きました。
メルカリさんは従業員数1,232 人(2022年9月時点)と、まさにこのフェーズにいらっしゃるはずなのですが、木下さんの話を聞いて、巧みに“遠心力”による弊害を防ぐことに挑まれている印象を受けました。
例えば、本来は企業全体としての競争力を高めるために事業多角化を進めたはずなのに、それぞれの部門がバラバラに個別最適化を進め、部門同士での助け合いが行われなくなった結果、全体としての競争力が低下してしまうケースは珍しくありません。
しかしメルカリでは、常にミッション・バリューに立ち返った対話を経て意思決定する──つまり「対話」による意味組成を重視することによって、そうした事態に陥ることを防ぎ、バリューに掲げている「All for One – 全ては成功のために」を実現しようとしていました。
例えば上場とほぼ同タイミングでメルペイが設立され、メルカリ本体も1,000人を超えた2018年12月にホールディングス体制に移行した際も、「All for One」のバリューがHDと事業会社との連携や調整を促したといいます。
組織デザインは施行して終わりではなく、変数が常に変わる中で、改善をし続けるもの。むしろその動的な活動自体が、組織デザインそのものとも言えるでしょう。
ナレッジその②:マネジャーの役割は、「情報格差による統制」ではなく「ナビゲーション」
情報の透明性を高めるための環境整備に取り組む企業は少なくありません。
しかし、ただ単にあらゆる情報を公開していくだけでは不十分だといえます。なぜなら、いくら多くの情報が公開されていても、重要な情報とそうでない情報の判別ができないと、情報の渦にとらわれてしまうからです。
そこでメルカリが重視しているというのが、マネジメント層が「情報のガードレールをつくる」こと。
言い換えれば、マネジメント層が情報のファシリテーターとしての役割を務め、適切な情報を、適切なかたちでメンバーに届けてあげることが重要だと言えるでしょう。
一般には、一部の情報をメンバークラスには渡さないことによってコントロールを図る「情報格差による統制」が行われがちです。しかし、メルカリではその逆で、情報を公開した上で、そのナビゲーション役を務めるというマネジメントに挑んでいました。
ナレッジその③:グローバル化に必要なのは、英語よりも"対話的態度"である
メルカリといえば、多文化・多国籍・多言語など、異なるバックグラウンドの人々が集うグローバル企業としても有名です。
当然、社内では英語によるコミュニケーションを取る機会も多いとのことですが、木下さんは、英語はあくまでも表層的な「ツール」に過ぎないと断言していました。
グローバル化に必要なのは、「相手視点から考えられる対話的姿勢」であり、英語というツールはWhy(目的)ではなくHow(手段)なのです。
相手の視点から常に考える癖を身につけること、「誰しもアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を持っている」とを受け入れることこそが大切──そうした考えにもとづいて、メルカリで行っているさまざまな施策を木下さんは明かしてくれました。
例えばメルカリでは、何かしらの役職などで人を推挙する際、アンコンシャス・バイアスの存在を考慮したかどうかをチェックするリストでの点検を行っているといいます。
もちろん、グローバル企業としては、英語によるコミュニケーションも必要です。
しかし、真にグローバルでの競争力を高めるために必要なのは、英語力そのものではなく、バックグラウンドの異なる人の視点を慮る"対話的態度"なのです。
ナレッジその④:情報の非対称性を「越境」でなくす
部門間の「情報の非対称性」に起因して発生する問題は少なくありません。
昨今ではそうした問題を防ぐため、調整役として「HRBP(HRビジネスパートナー)」を設置するケースも見られます。それも有効な施策の一つではありますが、調整コストそのものがなくなるわけではありません。
こうした問題を、メルカリでは部門横断タスクフォース立ち上げや、現場の兼務、半期単位の配属ローテーションを行うことで乗り越えようとしていました。
つまり、調整のコストを負う人員をアサインするのではなく、メンバーに「越境」してもらうことで情報の非対称性をなくし、そもそも調整の必要性自体をなくそうとしているのです。
これは同時に、自分の専門分野だけに閉じない、アンラーニングの機会にもなっているといいます。
以上、メルカリのCHRO木下さんへのインタビューから得たナレッジのポイントを少しだけご紹介しました。
とはいえ、あくまでも本記事は、僕の視点から印象に残ったポイントを部分的にピックアップしたに過ぎません。
木下さんへのインタビュー動画は、以下のアーカイブ動画にて全編視聴できますので、本記事の内容に関心を持たれた方は、ぜひチェックしてみてください。
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