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聞き間違いの効用

こんなにグローバルな社会になってしまうと、実におかしな話に聞こえるのですが、私たちの子どもの頃は、まだまだ「舶来」という言葉が通用していた時代。(すでに古語ですね。昔は、外国は船からやってきていたんだな、と(笑))

小学生の頃、コカコーラ(だったと思う)のCMで、ビートルズの「ラブ・ミー・ドゥ」を初めて聴いて、舶来の匂いがするなーとワクワクしたものでした。

インターネットの「イ」の字もない70〜80年代。この時代の子どもの多くは、中学校に入学して初めて外国語に触れるんです。

明治生まれの祖父なんかは、「米兵からはチョコレート何ぞもらうんじゃないぞ」と本気で息巻いていました。

ネイティブの英語に触れる機会は、テレビで洋画や海外のドラマを観るとか、気の利いたご家庭なら、FENや、親御さんや年上のお姉さんなんかが洋楽のレコードを持っているのを聴くくらいではなかったでしょうか。

ネイティブ英語のカセット教材

そんな時代の、中学校入学を控えた春休みの子どもの気持ちを想像してみてください。

初めての外国語。舶来ものです。ワクワクしながらも、ついていけるのかどうか、不安で仕方がない。

そこへ訪問販売のおじさん登場。

ネイティブの英語が録音されている、カセット付きの英語の教材を売り歩いているセールスパーソンです。*昔はこういった訪問販売が多かったように思います。

「やはり、英語の発音はネイティブが話すのを聞くのが一番。最初にネイティブの発音に耳を鳴らしておけば、あとは楽です。最初が肝心ですから。」とおじさん。

今から考えると、それ以外の学習法って逆になんだっけ?というくらい、当たり前の話なんですが、当時そんなことを言ってくれる大人は周りにいなかった。

真面目な子どもだった私は、すぐに洗脳されました。親にねだりまくって、そのカセット教材を買ってもらったんです。割といいお値段だったように記憶しています。

推奨された使い方通りに、毎日少しずつカセットを聴きました。春休みに結構みっちりやったので、これは中学校ではいいスタートを切れるな、とちょっと自信があったんです。

中学校の英語教師の発音

待ちに待った英語の時間。

中学校の英語教師の発音は、カタカナ英語バリバリでした。

ス ズ ア ン。←そのままの発音。太字はアクセントが強い。

しかも、ノリも盆踊り的。一つもシンコペしてないんです(涙)

そんな感じだったので、一応「ネイティブ発音に触れた」私は相当混乱しました。

とはいえ、当時私が、カセットを聴いて再現していた英語は、例えば、

Appleはポー

pencilはンクソ

って感じで(汗)

本当に真面目にネイティブ英語聞いてたんかい?!と言いたくなるような代物。(ペンクソ...ってなんやねんw)

まぁ正直、カタカナ英語の教師とは、五十歩百歩だったわけです。

聞き間違いを発展的に活用したジョン万次郎

数年前、ジョン万次郎のことを歴史ギャグ漫画「風雲児たち」で読みました。

万次郎先生は

What time is it now?

ほったいもいじくるな

とおっしゃっているではありませんか。

確かに「ほったいもいじくるな」を声に出してみると、完璧なネイティブ英語に聞こえますよね。

聞き間違えはクリエイティブ

半年くらい前、ある作家さんがこんなことをおっしゃっていました。

伝言ゲームをする時に、ほとんどの人が聞き間違えますよね。
で、その都度『これってどういう意味?』と試行錯誤して、自分なりに意味を持ちそうな言葉に置き換えていく。
伝言ゲームの面白さは、まさにそこ。だから最初と最後の人で内容が大きく変わってしまうわけです。
実は、文学の本質ってそういうところにある。聞き間違いは、人間の創造性を示しているんです。

目から鱗が落ちました。

そうなんだ。聞き間違いを馬鹿にすることなかれ。

「ペンクソ」も「ほったいもいじくるな」も、どっちも聞き間違いですが、万次郎先生はちゃんと意味に置き換えて、日本人が覚えやすいようにしてくれている。しかも、ネイティブにはきちんとした発音で、しっかり意味も通じているわけです。

万次郎先生の文学度の高さ、すごいな〜。と今更ながら感心ひとりきりです。

よく考えれば、お互いの言語上では全く違う意味なのに、通じてしまうというのも面白いですね。文学の計り知れない調整力を感じます(笑)

ちなみに、うちの長女の高校には万次郎先生の曾孫だか曾曾孫だかの英語教師「中浜先生」がいらしたとか。

長女は習ってないようですが、「ほったいもいじくるな」が伝承されているものなのか、それとも、今の時代に合うように発展しているのか。妄想が広がります(笑)。





























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