35歳からのウソ日記101『101回目のプロポーズ』
2020年9月6日
プロフェッショナル。
何かのプロフェッショナルになりたい。
いや、人は誰でも何かのプロフェッショナルだと思っている。
専門的な職業などだけのために使われなくてもいいのではないかと。
その道のプロと呼ばれる人たちはそれはそれでもちろんプロフェッショナルとして尊敬されるべきである。
簡単なところで、私は私という人間を35年ほど成り立たせている「私」のプロフェッショナルであると言っていいのではないかと。
他にも私は35年ほど変わらずに続いていることがある。
それは髪型だ。
坊主。
もうずっとこの髪型しかしたことがない。
そのせいか学生の頃は野球部だと勘違いされることが多かった。
実際は髪の毛をなびかせ、躍動感を演出することが大事だと思っているようなサッカー部である。
基本的には3ミリ。
6ミリくらいになると長いなと思い、9ミリにもなればロン毛の域である。
坊主界ではみんなそんな感覚を持っているであろう。
一番長い毛はアソコの毛だよな、あははは。
という下品な笑いを一度はしたことがあるに違いない。
そんな私は実家の家業である小さな床屋を継いでいる。
今は私一人でやるようになり、その際に自分の色を前面に出していこうと思い、坊主専門の床屋にしてみた。
ずっと坊主の私がずっと坊主を作り続けているのである。
なので私は自称であるが、坊主のプロフェッショナルだ。
正直なところ坊主にするのは自分でもバリカンさえあれば簡単にできるのだが、意外と需要があるようでお店は成り立つほどにはお客さんが来てくれる。
隣の酒屋のおっちゃんもしょっちゅう来てくれていつも同じ会話から始まる。
今日は繁盛してるか?
いや、今日はまだボウズですわ。
今日はってずっと坊主だろ。
その坊主じゃないんですよ。
あははは。
というしょうもない笑いを続けている。
いつまで続くのかと不安になる夜もしばしば。
うちは坊主専門でやっているので私の周りには常に坊主だらけである。
35年間坊主な私はそんなお客さんたちから一目置かれており、プロの坊主だと言われるようになった。
自称から自他共に認めるになっている。
そこで私は坊主の人たちの中にもプロの坊主と呼ばれたい人がいるのではと思い、うちの店でスタンプカードを作り、スタンプカードが2枚目に突入した人に私が僭越ながら「プロの坊主」という称号を与えるということを始めた。
プロという称号に少しでも恥じないためにスタンプカードは100個貯めないと1枚が終わらないようにした。
結構長い道のりである。
髪型としては短いのだが。
しかし坊主という髪型は結構頻繁に刈らないと保てない。
基本的には自分で刈っている人が多いのでやはり時間がかかるのだがプロになるために私のお客さんたちは頑張って来てくださる。
そして今日ようやく初のプロが誕生した。
前回来ていただいた時に100個目のスタンプを押して、次でプロですねという話をしていたお客さんが今日来店されたのだ。
いつもと違い正装でいらした。
私にも緊張感が走る。
なんだか感慨深いものがあり、いつもは雑談に花を咲かすのだが今日は二人して終始無言だった。
坊主が完成した。
これで彼もプロの坊主である。
スタンプカードではなく、プロの坊主という証明書のようなカードを差し上げた。
彼はこれからも通わせてもらうと言ってくれた。
私は私が死ぬまでは刈り続けますよと答えた後に言い換えた。
僕は死にません。坊主が好きだから。
101回目でプロの坊主になれる私の床屋の名前は、
「101回目のプロ坊主」
である。
完
それでは また あした で終わる今日 ということで。
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