見出し画像

35歳からのウソ日記58

2020年7月25日

ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ!

ポチッ。

目覚まし時計が、毎朝7時にだけは好きなだけ騒いでいいと言われているかのように騒ぎ出し、私はそれを3ターン目で止める。

今日も同じ朝が来た。

朝起きて、トイレに行き、歯を磨き、顔を洗う。

そして、朝ご飯にパンを食べ、仕事に行く。

これが私の毎日だ。

休みの日でない限り、同じ、全く同じ繰り返しである。

もちろん仕事が終われば、真っ直ぐ家に帰り、晩ご飯を食べ、風呂に入り、テレビを見ながら缶ビールを2本飲む。

そして、同じ時間、つまり23時に寝る。

そんな毎日つまらないんじゃないかと思われるかもしれない。

同じ朝、同じ夜。

その繰り返しは、つまらないようで身体の不調、異変、危険信号をすぐに察知できるのだ。

気づかないうちに大きな病気にかかり、つまらない死に方をするよりは全然いい。

普通の生活を送り、普通に死ねれば、それでいい。 

ノーマルな人生でいいのだ。

アブノーマルは望まない。

ある日仕事でミスをし、残業でかなり遅くまでかかってしまった。

帰って、晩ご飯を食べ、風呂に入って。

その時、もう時計は次の日である2時を指していた。

いつものビールをやめて、寝ることに専念する。

ZZZzzzzzzzz……

ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ!

バンッ!

ZZZzzzzzzzz……

寝坊した。

無意識に目覚まし時計を止め、2度寝してしまっていた。

急いで仕事に行く。

こんなことは初めてだと気づく。

なんか嫌な感じだなぁ。

でも今日で生活リズムを取り戻せばいいかと軽く考えていた。

遅刻したものの、仕事はスムーズに進んだ。

スヌーズ機能付いた目覚まし時計に買い替えようかな、と考える余裕すらあった。

そしていつものように定時に仕事を終わらせ、いつものように真っ直ぐ帰った。

しかし、自分の住んでいるマンションに近づくにつれていつもとは違う風景に出くわす。

もの凄い人だかり、赤いランプ、黄色と黒の縞模様。

なんだ?なんだ?ナンナンダ?

事件?

そんなものには出来る限り関わりたくないものだ。

でもそうはいかないみたいだ。

うちのマンションで起こっている。

はぁー。

ため息が出る。

話によると、自殺があったらしい。

なぜうちのマンションなんだ?

なぜ自殺を選ぶんだ?

そんなアブノーマルな死を。

普通に生活していたら起こらないことなのに。

どこの人が自殺したかは公表されなかった。

引っ越したいという申し出をした人もたくさんいたみたいである。

家賃を下げるから引っ越さないでくれという大家の引き止めがあったみたいだ。

私も言えばよかったな、なんて不謹慎だな。

結局自殺があって、引っ越しした人は一人だけだった。

後から聞いた話だが、家賃タダでも住みたくないと言ったらしい。

私の向かいに住んでいる人だ。

偶然引っ越ししているとこを見たのだが本人は見かけなかった。

業者がせっせと働いているの横目に私はいつもの朝を迎え、仕事に向かっていったのである。

私の住んでいるのは8階だから自殺した人がもし8階の人だったらなんか嫌だな、と少し怖く思いながら。 

一ヶ月も経てば、いつもの生活に、普通の生活に戻った。

向かいにも新しい人が入居したみたいで、表札が出ていた。

新しい入居者は学生なのだろうか、夜中に騒いでいる。

しかし、私の生活の妨げになるほどでもない。

それからまた一ヶ月がたった時の仕事中に気づいた。

自殺した人の家ってそのままにしてるわけないよな?

荷物をどこかに運ぶよな?

誰が?

引っ越し業者じゃないか?

でもマンションで引っ越したのは向かいの人だけでは?

まさか!

自殺したのは?

いやいや、向かいには新しい人入居しているし。

実際にその人を見たことは?

ない。

でも気配は?

ある。

いつ?

夜中。

考えれば考えるほど怖くなってきた。

でも表札出てたよな?

気になって仕方なかったので、いつもより早く仕事を切り上げ帰って向かいの家の表札を見た。

『稲井』

やっぱりいる!

イナイさんがいる!

イナイさん?

まさか!?

それから私はノイローゼになり、アブノーマルな死を選んだ。

このマンションには『稲井』さんがたくさん住んでいるらしい。

ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ

止まることのない目覚まし時計が鳴りだしていた。

それでは また あした で終わる今日 ということで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?